なんだか家の中がぎくしゃくしていた!
姉「かおちゃん」が就職活動!
兄「よっと」が大学入学!
父「ごんぼちゃん」が何かに昇進して責務が増え
「ママ」はそんなみんなに振り回される!
更には近いうちに
祖父「嘉一」と祖母「コノ」を
我が家に迎えて同居しようという計画が
進み始めていた!
とにかくなんだかんだと多くの事が重なり
家族の衝突回数が急激に増加した!
自分の環境変化への適応が精一杯で
誰もが他人への興味を失った!
すべての会話や主張が噛み合わず
後藤家は大混乱期を迎えた!
奇しくも英国のバンド「Madness」が
“Our House,in the middle of a street!”
(我が家が建つのは通りの真ん中)
と大家族の混乱と幸福をテーマに歌い
それがアメリカで後追いヒットした頃だった!
ちょいと会話をしても
すぐいがみ合いに発展し
ちょいとした言葉が
すぐに喧嘩を生んだ!
後藤家は完全に崩壊の危機だった!
そんな時だ!
「ごんぼちゃん」の親友である
「まちゃお」が
シャム猫の赤ちゃんを
なかば無理矢理のように
我が家に置いていったのだ!
その経緯を私はよく知らないのだが
家族の誰かが
”くれ”と言ったわけではないはずだ!
当時の後藤家構成員に
そんな心の余裕はないはずだ!
恐らく「まちゃお」が
どこぞで生まれたシャム猫の子供を
強引に置いていったに違いない!
ではなぜそんな強引な置き去りを
後藤家は拒否しなかったのか?
理由は単純だ!
一目見たその子猫が
あまりにもかわいかったからだ!
みんなが困惑する中
兄「よっと」は喜んでいた!
その時その時で憧れる人によって
変幻自在に顔と人格を変える男「よっと」は
当時「ジェームズ・ディーン」化していた!
記念写真を撮るにも
マルボロをくわえて
無意味に悲しい目をしたりしていた!
そんな「ジェームズ・ディーン」は
「マーカス」という名の
不思議なシャム猫を飼っていた!
どう不思議なのかは
インターネットで検索してみて頂きたい!
なので「よっと」は
当然「まちゃお」が置いていったシャム猫に
「マーカス」と名付けたかった!
だが!
残念な事に
「まちゃお」が置いていったシャム猫は
女の子だった!
「マーカス」は男性の名前だ!
そこで悩んだ「よっと」は
「マーカス」を「ジェームズ・ディーン」に贈った
世紀の大女優「エリザベス・テイラー」から
その名前を拝借し
我が家のシャム猫に
「エリザベス」
と名付ける事を提案した!
それを聞いてみんなは笑った!
それはそうだ!
「山形」のしかも
「青田」という地名の場所に
「エリザベス」という名の住人は
あまりにも不釣り合いだ!
だがその子猫はあまりにも美しく
将来もその名にふさわしい姿になるだろうと
誰もが思った!
なので満場一致で「エリザベス」に決定した!
おや?
あの荒れすさんだ後藤家が
全員意見を一致させたぞ?
「エリザベス」が呼びづらい名なのは
なにも「青田」だけの事ではない!
欧米圏でも同じだ!
女優「エリザベス・テイラー」は
友人からニックネームで呼ばれていた!
英語で「エリザベス」のニックネームは
「リズ」だ!
なので我々も
「エリザベス」と名付けたそのシャム猫を
「リズ」と呼ぶ事になった!
シャムという種類のせいなのか
「リズ」はいつも気まぐれだった!
抱こうとすれば
噛んだり引っかいたりするくせに
無視すれば
その人の顔にしっぽが当たる位置を
何往復もして
「私を見なさい!」
と促した!
そのくせ見れば
「何見てるのよ!」
という唸り声で威嚇し
手で払いのければ
転がってお腹を見せ
とんでもなくかわいい表情などを見せた!
完全に歯車がずれ
他者を理解する気など全くなかった
そんな後藤家に大きな変化が起きた!
みんなが同じ事を考え始めたのだ!
「リズ」を守らなきゃ!
「リズ」を喜ばせなきゃ!
「リズ」に好かれなきゃ!
できればいたくない家だったのに
「リズ」に会いたくて
みんなの帰宅時間が次第に早まった!
「リズ」に向ける笑顔のまま
家族を見るようになった!
今日の昼間の「リズ」が知りたくて
「ママ」の話に耳をかたむけた!
自分だけが知っている「リズ」を自慢したくて
家族全員が食卓に揃うのを待った!
「リズ」は後藤家を救った!
後藤家の誰に聞いても
それを否定する者はいないだろう!
「リズ」はまるで
神が使わした天使だった!
置いて行ったのは「まちゃお」だったが
我々は運命に感謝した!
「まちゃお」には
尋ねて来た時に酒でも出せば
それでいいだろ
といった扱いだった!
今でもそうしている
私が結婚した翌年
1995年に「リズ」は他界した!
私は大阪にいたので
死を看取る事はできなかった!
だが今でも
実家に帰って布団の中から彼女を呼べば
ちりちりとかわいい鈴の音を鳴らしながら
気まぐれな「エリザベス」様が
現れるような気がする!
「猫なんか飼うんじゃないよ!
人間より長くは生きられないんだから!
絶対に悲しく終わっちゃうんだから!
猫なんか飼うんじゃないよ!」
赤ん坊だった「リズ」を
毎晩抱いて眠った「ママ」は
私にそう強く言った!
「あんた達だって一緒に寝たのなんか
ほんの3、4年でしょう?
20年近くも私がいなきゃ眠れなかった子は
リズしかいなかったのよ!」
確かにその通りだ!
「だから!
ひろちゃん!
猫なんか絶対に飼っちゃだめ!」
「リズ」がこの世を去ってから
ずいぶんな年月が過ぎた!
私と「カミさん」は
今年で結婚20周年を迎えた!
かつての後藤家のような
崩壊の危機はないのだが
ここらでもっと沢山の笑顔が欲しくなった!
もっともっと沢山の
夫婦で微笑み合う新しい時間が欲しくなった!
なので!
私は45歳にして
「ママ」の言いつけを
破る事にした!
友人に頼んで子猫をもらった!
「リズ」のように高貴な姿ではない!
色々と混ざり合った雑種だ!
だが20年間二人きりで暮らした我が家が
初めて迎える新しい家族だ!
振り返る事はあまりにも多く
沢山の喜びや悲しみを経験した
そんな20年だった!
だが我々夫婦はここを節目として
その先に向かおうと思う!
だから我が家の新しい家族には
「Futuro(フトゥーロ)」と名付けた!
「スペイン語」で「未来」を意味する言葉だ!
生きる事に慣れ切ってしまった我々に
「Futuro」はきっと
新しい”生きる意味”を教えてくれるに違いない!
ようこそ「Futuro」!
我々に未来を見せておくれ!
ちなみにこの報告を
誰よりも喜んだのは「ママ」だった!
「孫だよ!
その子は私の孫だからね!
名前はうまく呼べないけど!
”未来ちゃん”でいいの?」
さっそくですが
全然うんこをしてくれません!
ぬるま湯にひたしたタオルで
おしりをマッサージしたりもしたのですが
それでもぷりりとしてくれません!
どうしたらいいか教えて下さい!