結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年5月7日 Vol.058

はじめに - キミ、書いてみない?

おはようございます。いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

このメールが配送される日(5/7)はゴールデンウイークが明けた日ですね。 昨日までお休みという方も多かったのではないでしょうか。 結城はといえば、あまりゴールデンウイークは関係なく、 淡々といつもの仕事を続けておりました。

フリーランスの場合には「連休」は特にうれしくはなくて、 むしろいつもと違うペースに巻き込まれることが多いですね。 たとえば、いつも執筆で使っているファミリーレストランが混んでいるとか、 カフェが朝からいっぱいでいつもの席に座れないとか。 というわけで、実は連休が終わってちょっぴりほっとしていたりするのです。

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連休中、4月29日は、R-Styleの倉下さん(@rashita2)とランチさせていただきました。

 ◆R-Style
 http://rashita.net/blog/

倉下さん(ふだんは「らしたさん」と呼んでいます)はEvernoteの使い方や、 ライフハックなどの題材で文章や書籍を出していらっしゃる方で、 結城がふだんから親しくしていただいています。 今回ランチを食べながら、書き物やワークスタイルなどのおしゃべりを楽しみました。

その中で、結城はちゃっかりEvernoteの便利な使い方について個人教授を受けちゃいました。 結城が、

 「本が刊行された後、
 執筆中に使ったノートブックはどうしたらいいのでしょうね。
 (チラッチラッ)」

と尋ねると、らしたさんは親切に、以下のようなTipsを教えてくださいました。

 ・その書籍用のタグを作る。
 ・ノートブック内のノートすべてにそのタグを張る。
 ・ノートすべてをアーカイブ役のノートブックに移動する。
 ・もとのノートブックは削除してしまう。

アクティブな作業は「ノートブック」で行い、 以前のものは「タグ」で処理をするのがうまいやりかたなのだそうです。 「なるほど!」と思って、さっそく試しているところです。 Evernoteの著者さんにライブで教えてもらっちゃいました♪

とっても楽しいひとときをありがとうございました。

 * * *

さて、別の話。 最近Facebookである方が紹介していた、以下のWebページを読みました。

 ◆音楽家(作曲家)になるには・なれれば・なれたら
 http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2013/03/post-51db.html

これは、 作曲家の吉松隆さんという方の文章で「作曲家になる」ということを めぐっての読み物です。いくつか興味深い話がありました。特に結城の 心にとまったのは以下の点です。

 ・「一万時間の法則」ひとつのことをモノにするには一万時間の鍛錬が必要。

 ・1日作曲を怠ると3日取り戻せない、
  2日休むと1週間は元に戻らない、
  3日休むと取り返しが付かない。

 ・「キミ、書いてみない?」と声を掛けられるのが、
  作曲家としての仕事をやるきっかけになるパターンが多い。

長い文章なので話はこれだけではないのですが、 上記の三点は特に結城の心にとまりました。

一万時間

「一万時間の法則」というのは別のところでも聞いたことがあります。 一万時間というと、たとえば3時間×365日×10年だと10950時間。 毎日欠かさず3時間かけると、一万時間を達成するのに10年かかるのですね。 極端に毎日8時間だとすると、一万時間を達成するのに3年半。 さてこれは長いか短いか。 オーダーとしてはあっているような気がします。

これと並べて語っていいかどうかはわかりませんが「10年」という区切りには それなりに意味があるように結城は感じます。 というのは、結城が「C言語」というプログラミング言語に出会ってから、 C言語の本を出版するまで約10年の月日が経っているからです。 もちろんその間ずっとC言語の鍛錬をやっていたわけではないのですが、 約10年くらい時間を掛けると何かしら語れることはまとまるかも… と思うのです。

一日怠ると

「1日作曲を怠ると3日取り戻せない」というのはどうでしょうか。 タイピングやプログラミングで似たようなことを感じた経験はありますね。 ある程度頭をふだんから使っていないとどこかさびついてしまう感覚はあります。 言葉がうまく出てこないとか、適語選択に時間が掛かるとか、そういう感覚です。

キミ、書いてみない?

「キミ、書いてみない?」という言葉には強く頷くところがあります。 結城自身も、本を書き始めたのはこれに近い言葉を掛けられたことが きっかけになっているからです。

 「結城さんは本を書かないんですか?」

そういうひとことです。そのひとことで

 「あ、そうか、私も本を書いていいんだ」

という気持ちになったのです。 たぶん、そのひとことを聞くまで自分が本を書くということを 具体的に考えた経験はなかったと思います。 自分が本を書けるか書けないかではなく、 そもそもそういう選択肢すら考えたことがなかったのです。 でも、いまやそれで生計を立てている状態です。 人生はまったくわからないものですね。

ただ、大学時代から文章を書く練習のようなものは自主的にやっていました。 系統だってはいなかったけれど、とにかく原稿用紙をたくさん埋める練習です。 身辺雑記のようなものをたくさん書いていました。 当時は原稿用紙に万年筆で手書きでした。大量に書く練習もやっていました。 そういえば、なぜそんなことをしてたんだろう。

文章を書くことは好きでしたし、自分が書いた文章を読み返すのも大好きでした。 心地よさがいつもそこにありました。表現するために苦悩する感覚は少なく、 むしろ書くことで気持ちよくなる。語ることで何かのカタルシスを得る。 そういう感覚で書いていたことが多かったように思います。

二十代には二十代の悩みや苦しみもあったわけですが、 書くことによって、文章によって、 それを自分が受容できる形態に変容させていたのかもしれません。

若い時代には、何らかの強いエネルギーが発散する方向を求めて動いている。 そしてそれが何かの出会いや何かのきっかけで道を見つけて人生が流れていく。 そんな感覚があります。 クリスチャンなら「神さまの導きによって」と表現したくなるような、 「神の配剤」といいたくなるような、偶然とは思えないできごともあります。 まあ、また、それについてはいつか筆の勢いで書くことにして――

今日のところは、結城メルマガを始めることにいたしましょう。

今回の結城メルマガのメインコンテンツは、 昨年の講演「数学ガールの誕生」を読み物化したものの第5回目です。 PDFをダウンロードしてお読みくださいね。

それから「文章を書く心がけ」のコーナーでは、 「知っていること」を書くのか「調べたこと」を書くのか、 そのバランスについてお話しします。

「Q&A」では、進路について「就職を考えたくない」 と思っている方からのメールにお答えします。

では、結城メルマガをどうぞお読みください!

目次

  • はじめに - キミ、書いてみない?
  • 本を書く心がけ - 講演「数学ガールの誕生」(5)
  • 文章を書く心がけ - 「知っていること」と「調べたこと」
  • Q&A - 就職を考えたくない
  • 次回予告 - フロー・ライティング