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小池壮彦 怪奇探偵ブロマガ vol.19
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小池壮彦 怪奇探偵ブロマガ vol.19

2013-06-01 20:00
     笹子トンネルの旧トンネルは昔から心霊スポットだが、この地に限らずトンネルにその手の噂はつきものである。そういうトンネルは古いものが多いので、崩落の危険から通行止めにしてあるケースも多い。しかし、案外簡単に入れるところもあって、管理が甘かったりすることもめずらしくはないので、それ自体に意外性はない。30年前の日本坂トンネル火災でも、こんな安全なトンネルはないという宣伝がぜんぶウソだった。こういう例はいくらでもある。

     中央自動車道の笹子トンネルに関しては、この道路自体が古いので、個人的な感覚で言っても、もとより安心し切っていたわけではない。トンネルが崩落する1ヶ月前に私は現場を通っているが、そのときも「ここも危ないから」という会話などは日常の挨拶のようなものだった。首都高だっていつもいやいや乗っているだけである。心霊スポットに行く仕事の過程で仕方なく通るだけで、笹子だろうが小仏だろうが信用してはいなかった。

     ただし、それはいつぞや山陽新幹線のトンネルでコンクリートが落ちたような事故を想定してのことであって、天井が100メートル以上にわたって落ちることを予想していたわけではない。これが自然に起こる事故なのかという疑いは誰でも持ち得るから、本ブロマガvol.6で触れたように選挙の前の事故という怪しいタイミングに目が行くのは普通のことである。事故原因についてはいろいろな話が出ているが、 2000年から打音検査していなかったとか、笹子トンネルだけ検査していなかったという話が出てきたあたりで、NEXCO中日本は最初から知っていたなと思うわけである。

     点検しても無駄とわかっているものは点検しないのである。それが「もんじゅ」と同じなので、前回このトンネル事故をひとつのヒントと言っておいた。笹子トンネルはもともと手ぬき工事による欠陥トンネルだった。トンネル完成の翌年つまり1976年に会計検査院がコンクリートの強度不足を指摘していた。これについてのNEXCO中日本の言い分は「指摘を受けて補強したので事故とは直接結びつかない」ということで、ボルトやコンクリート自体の強度に問題はなかったことになっている。が、ボルトはともかくコンクリートの強度については疑わしい。

     最初から設計上構造上の問題があったということをあまり言いたくないのだろうが、構造上の欠陥がわかっていたなら、メンテナンスの意味も疑問視されたに違いない。そこから点検不備の事情も見えてくる。つまりボルトを点検しても欠陥の改善にはつながらない。根本的な問題の解決は造り直す以外にない。事態はそこまで来ていることをNEXCO中日本は自覚していたため、笹子トンネルの天井撤去も含めて全面的に改修する事業が2009年に計画されていた。これが実施されていれば崩落事故は起こらなかった。

     しかしこの計画は2011年に見直され、結局実現しなかった。全面的改修となるとトンネルを1年も通行止めにする必要がある。それは無理という結論になったのだ。この段階でもはや近い将来の崩落は不可避という見方が生まれていたはずである。崩落前の最後の点検は去年の9月で、そのときには緊急性のある不具合は見つからなかったという話だった。が、実際にはボルトの欠落などの不具合がかなりあったことが後にわかっている。すでにそれを直せばすむ状態ではないことがわかっていれば、一所懸命に直すはずもないのである。

     事故が起きたとき、点検していなかったことは一気にバレる。いい加減だと非難される。しかし、いくら非難されてもそれをきっかけに予算がつぎ込まれるならいいと考える人もいる。〝事故待ち〟というのはそういうことである。これと同じことを核施設でもやっている状況を私たちはすでに知っている。ましてやそれ以外の施設でやっていないわけがない。福島第一原発も最初から欠陥品だったからどうしようもなくなっていたのである。

     笹子トンネルの事故は、公共投資を掲げる自公政権が予言したような事故なので、彼らが雇った連中が選挙前のタイミングで仕掛けたテロだったのではないかという説がある。私はいまのところ〝事故待ち〟の政治利用と考えているので、テロ説とは違うのである。だが、今年の2月に報じられた「笹子トンネル 過去652ヵ所補修 中日本高速、危険認識か」というニュースが興味深い。これは各紙が報じたが、東京新聞の記事が一番詳しい。それによると、天井崩落箇所の近くで事故前に〝謎の補修工事〟が行われていた。

     NEXCO中日本は、笹子トンネルの天井の高い場所は打音検査しにくいから目視ですませたことになっている。つまりろくな点検はしていなかったとされていたが、実は事故の前に崩落場所の近くを集中的に補修していた。この矛盾についてNEXCO中日本は、該当の補修工事に関する記録はないと言っている。だから〝謎の補修〟なのである。

     今年の3月にNEXCO中日本が出した「笹子トンネルの維持管理履歴」によると、2000年以前の記録についてはもともと報告書が存在しない。残っているのは1992年から95年の定期点検記録だけで、事故前の補修がいつ行われたのかはわからない。2000年以前の工事なら記録はなくても不思議はないのかもしれないが、新聞にはそんなに古い時代の工事というニュアンスでは書かれていない。補修具合を見ればいつぐらいの時期の工事かわかると思うが、そこはうやむやになっている。

     そこで〝謎の補修〟で何がなされたのかを見ると、こんなことがわかるのだ。 
     
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