ラーマガ限定「NAKED」#003
麺屋武蔵 虎嘯『かけ塩ら〜麺』
実食インプレッション
麺とスープだけで美味いと唸る一杯。究極の「かけラーメン」に人気ラーメン店が毎月月替わりで挑戦する、ラーマガ限定「NAKED」。今年最後を締めくくる第3作目を提供するのは、六本木の人気店『麺屋武蔵 虎嘯』。店主矢都木二郎さんが選んだ味は難しいとされる「塩」。
今回スープに使用した素材は「河豚」。河豚の身やガラをふんだんに使用したスープの美味しさを引き出すために使う塩は「伯方の塩」。麺はカネジン食品と共同開発した切り刃#26の専用細麺。唯一許されている薬味には河豚と相性が合う浅葱を乗せました。
矢都木さんが「かけラーメンとして最高のものを作りたかった」という思いで作り上げた一杯は、まさにNAKEDのコンセプトを貫いた、究極の一杯になりました。
北島秀一
今回のNAKEDの試食取材時に矢都木店主が言ったのは「わざわざかけラーメンを作るのなら、『具材が無くても美味いラーメン』では意味がない。『具材を入れたら逆効果になる』ラーメンを作ろうと思いました。その為に選んだ食材がフグで、塩だったんです」。これを聞いた時、我々三人は思わず拍手しそうになった。これぞNAKEDの真髄だし、逆に作り手側からすれば最も難しい挑戦である筈だからだ。それを一発で見抜き、当然のようにトライするあたり、やはり「武蔵」はすごいと心底感じた。
ラーメンの見かけはこれまでの「会津のかけラーメン」(やまぐち)、「かけみそ」(大喜)と比べても更にシンプル。軽い黄金色がついた透明のスープは見るだけでは全く素材の想像がつかない。が、実際に飲んでみると、ふぐ料理経験の有無や多寡にかかわらず、その静かなのに抜群の存在感はすぐに判る筈だ。精密なのに大胆。力強いのに押しつけがましくはなく、最初は一瞬むしろ薄味かな?と思わせておいて、その後舌の上で炸裂する旨味と口いっぱいに広がる味わい、そして鼻に抜ける香り。そのスープを存分に持ち上げてくる麺を食べていると、ごくわずかに載ったアサツキが実に効果的に感覚をリフレッシュ。さすがにモミジオロシは使わなかったが、丼の底にわずかに仕込まれたゆずが食べ終わりに近いタイミングで軽く鼻をくすぐって消えて行く。最後までふぐのダシで全体を食べさせ、最低限の薬味だけで飽きや疲れを感じさせない、計算されつくしたバランスが実に見事だ。
「具材が入ると邪魔になるラーメン」と、「NAKED」企画のファイナルアンサーに近い解釈が三回目にして出てしまった。そのラーメンが食べられるのは年末まで。マニアを自覚するならこれを食べないと言う選択肢は無い筈だ。
山路力也
このNAKEDはこれまでも発表時には素材などを明かさずに提供するスタイルを取って来た。それは食べ手の皆さんに余計な先入観を持つ事なく、麺とスープに向き合って頂きたいからなのだが、今回ばかりはちょっと悩んでしまった。ただでさえ食べ手にとっては敷居が高い「かけラーメン」。ラーマガをご存知の方なら迷わず選ぶだろうが、一杯1,000円では普通の人はまず頼まない。今回はただでさえ採算度外視のラーメンなのに、もしロスが出てしまったらお店にますます負担がかかってしまう。だが、河豚でスープを取ったと店頭に掲げれば頼んでくれる人もいるかもしれない。河豚を事前に告知すべきか否か。しかし矢都木さんは私たちと同じ考えを持っていて下さって、武蔵としても前情報無しで食べて頂きたいと申し出て下さった。
今でこそ限定ラーメンはどんな店でも出しているが、その先駆的存在だったのが「麺屋武蔵」ではなかったかと思う。常に新しいことに挑戦し続ける姿勢。「ハイクオリティ、かつ革新的な二刀流」が武蔵の目指すものであると語る矢都木氏。今回のNAKEDはまさにその部分が具現化した一杯であったように思う。限定ラーメンの嚆矢である武蔵にNAKEDをお願い出来たこと、そして私たちの考えや思いを共有して頂けたことに感謝したいと思う。
私たちも基本的に試作段階では前情報を頂かずにラーメンに向き合う。その方が先入観なくラーメンを「感じる」ことが出来るからだ。まずあまりにも澄明なスープの美しさに惚れ惚れとしてしまう。そしてスープを一口啜ると強烈な旨味のパンチがやってくる。そのパンチは重くて深い。スープを探る様に飲もうと思いながらも、その旨味の凄さにグイグイと飲み進めてしまう吸引力。ボディーブローのようにどんどん効いて来る。この旨味は何だろう。どこかで感じたようでいて知らない味。分かるようで分からない味。決して素材当てをしているわけではないのだが、やはり気になる気になる。
その素材が河豚と聞かされた時に正直「やられた」と思った。河豚の出汁といえば「てっちり」などで何度も経験しているにも関わらず分からなかった。矢都木さんは浅葱を乗せることでそのヒントをさりげなく提示しているのに気づかなかった不覚。落ち着いて考えればてっちりなどの鍋の場合は野菜など河豚以外の素材の旨味も入っている。しかしこのスープは基本的に河豚オンリーの味だから、知っているようで知らなかった味なのだ。やはり頭で考えてはいけない。舌と身体で美味しさは感じるものなのだと痛感。
もし河豚料理店でこのようなスープを出すとしたら、せいぜい茶碗一杯分くらいだろう。原価的な問題もあろうが、このようなスープを丼いっぱい飲むなどという行為は、無粋なことでもあるし下品なことだ。しかしラーメンならばそれが許される。河豚だけで取った極上のスープをラーメン丼いっぱいなみなみに飲めるなんて、こんな贅沢なことってあるだろうか。やりたくても出来ない、お金を積んでも出来ないことが真の贅沢。このラーメンはそんな贅沢を形にしたものなのだ。だから私は1,000円という価格を聞いた時にむしろ安いと思ったほど。ラーメン好きの方もそうでない方も絶対に食べるべき一杯だ。今年最後を締めくくる一杯に相応しいラーメンはコレだと断言しても良い。
山本剛志
塩味のかけラーメンでは、醤油や味噌のようにスープの色が染まらない。そして今回の「かけ塩」のスープは、透明な中にみなぎるようなテンションを、見た目だけで感じさせてくれる。そのスープを口に含めば、これまでに体験したことがない旨みを感じ取れる。煮干しや鰹節などに代表される魚介系の「シャープ」さに比べ、まろやかでふくよかな味で、食べてから「フグ」と聞かされると、フグ料理自体はあまり食べた経験はないものの、何となく納得してしまう。昆布出汁を使ってフグの味を引き出しているという事で、丁寧で高質な味わい。
麺もスープを弾かず、それでいてスープに埋没しない啜り心地が快感。薬味に使われたアサツキが口を軽くさっぱりさせてくれる。後半になると、スープの下に一欠片だけ忍ばせている柚子がすっと口の中に現れ、「あれ?」と逡巡している間にすっと消えている。剣豪に自然な感じで斬られたような、見事だけど力任せでない一杯。スープまでしっかり飲み切りたくなる腕前は見事というしかない。
普通に考えれば「かけラーメン」一杯で1000円という値段はありえないはずだが、この一杯が1000円と言われた時、試食した3人ともがそれに納得しきっていた。この事も、この一杯の価値を表していると言えるだろう。
麺屋武蔵 虎嘯 店主 矢都木二郎より
この度は、このような機会を与えていただき、ありがとうございました。
今回「かけラーメン」というテーマを私なりに考えた時、「かけラーメンでないと成立しない一杯」という事なのではないかと解釈しました。つまり、チャーシューやメンマ、味変の具材などがあっては最高の状態ではなくなってしまうラーメンという事です。
ラーメンにとってメインディッシュといえるチャーシューを無くすには、スープによほどの「格」を持たせなくてはいけないと思いました。そのように考えた時に私の頭に一つの食材が頭に浮かびました。それが「河豚」です。私の中では河豚は食材の中で「王様」です。王様に肩を並べる食材はありません。河豚のスープであれば肩を並べられるチャーシューは存在しないと考えた訳です。
ラーメンという料理に着地させる為、王様に敬意を持って最小限の食材と最大限の手間をかけさせて頂きました。皆様に喜んでいただければなによりの幸いです。
麺屋武蔵虎嘯特製「かけ塩ら〜麺」。是非ともご賞味下さい。
【NAKED #003】
麺屋武蔵 虎嘯(東京都港区六本木4-12-6)
「かけ塩ら〜麺」(1,000円)
一日10杯限定(平日15:00〜/土日祝11:00〜)
販売期間:販売中〜31日(火)
(ラーマガ有料会員ではなくても注文が可能です)
注文方法:1,000円のメニューの食券を購入し、店員に「かけ塩ら〜麺」と伝えてください。