※今号は無料公開版です。
石のスープ
定期号[2012年7月20日号/通巻No.40]

今号の執筆担当:渡部真

※この記事は、2011年7月に、渡部のブログ「節穴の目」で配信した記事を、「ニコニコチャンネル版・通巻40号」として2012年7月に、再配信したものです。


 2011年7月27日、石巻市で避難所の入浴支援活動をしていた自衛隊が、各避難所から入浴施設を撤収した。
 宮城県では、石巻市のほかに気仙沼市や東松島市などで自衛隊の入浴支援を受けていたが、自衛隊に対して8月1日付けで正式に撤退要請を行う予定になっている。

 しかし、石巻市では3カ所の避難所で入浴施設がなくなってしまうことになり、未だに避難所で暮らす被災者から、真夏に入浴施設がなくなってしまうことへの戸惑いの声も出ている。

 石巻市の避難所で暮らす男性は、「巡回バスで入浴施設まで行ったことがあるけども、30分くらいしかバスが待っていてくれないのでゆっくりできなかった」 と、避難所に入浴施設がない不便さを訴えた。現在暮らしている避難所にはシャワーがあるが、広い風呂に入るために巡回バスを利用してみた。
「無料で広いお風呂を使わせてもらっているんだから贅沢言える立場じゃないかもしれないけど、巡回バスは1日に3回だけだし、タイミングが合わずにそのバ スに乗れないと2日後まで風呂に入ることが出来ないから、もし避難所からシャワーがなくなったら、3〜4日間、汗を流せない事があるかもしれない」
 この男性は、津波で家が全壊し車も流されてしまい、現在も避難所で仮設住宅に当選する日を待っている。

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4月3日、宮城県気仙沼市の「本吉はまなす文化タウン」に、自衛隊による入浴施設が設置された。この地域は高台にあるが地震の影響で断水となっていて、震災以降、地域の住人は風呂に入る事が出来なかった。
自衛隊の入浴施設がオープンした直後に来た親子は、「この3週間で、一回だけ市外のお風呂に入っただけ。久しぶりにゆっくりお風呂に入れて気持ちよかっ た」(父親)、「毎日給水してくれたり、お風呂を作ってくれたりして、自衛隊の人たちにありがたいって思う」(長男・小学5年生)と、自衛隊の支援活動に 感謝していた。
結局、本吉地区は5月下旬まで断水が続き、自衛隊の入浴支援も5月中旬まで続いていた。

 現在、宮城県の自衛隊による支援活動は、女川町での炊き出しと、あとは入浴支援が中心となっている。

 そこで、防衛省に自衛隊の撤収について経緯を聞いてみたところ、「防衛省としては、あくまでも各県知事からの要請で自衛隊を派遣し、知事からの要請で自衛 隊を撤収している。支援活動について各市町村に派遣している連絡隊員などが調整しているが、撤収の経緯については、宮城県に聞いて欲しい」(大臣報道室) という。
これは尤もな回答で、防衛相はあくまでも要請を受ける側だ。東日本大震災以降、防衛省としてはできるだけ各県や市町村の要請に応えて来たという自負もあるだろう。

 自衛隊の支援活動は、
  (1)緊急性
  (2)公共性
  (3)非代替性
の3点を考慮し、都道府県知事の要請によって自衛隊を派遣している。
 「非代替性」とは、他に代わりがないということであり、いわゆる「民業圧迫」とならないように、民間の施設や企業が提供できるサービスは、緊急性や公共性がなければ提供しないということだろう。

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 石巻市に、これまで入浴支援を受けていた避難所の人たちに対してどう対応するのか聞いてみた。

 石巻市では、27日まで3カ所の避難所で自衛隊による入浴支援を受けていた。
 青葉中学校にある避難所では、現在でも約120人の被災者が暮らしているが、この避難所では自衛隊がシャワー施設を運営し、毎日、ほぼ100人程度の利用者がいたという。市内の他の避難所でも、同様に避難者数の約7割程度の利用者数があった。

 一方で、石巻市には入浴施設がない避難所もあり、そうした避難所の人たちは、週に3回、市が派遣した巡回バスで、近隣の入浴施設に行き利用している。
 今後は、今まで入浴施設があった3カ所の避難所にも巡回バスが回り、民間の入浴施設まで連れていく事になる。

 ところが、市内では開店している入浴施設がほとんどない。市内の避難所を3つのエリアに分け巡回バスが走っているが、石巻河北にある道の駅「上品の郷」を 利用しているエリアだけが市内で、他に女川町、涌谷町など、近隣の町の入浴施設まで巡回バスが送迎している。もちろん利用料金は石巻市が負担している。
 しかし、女川や涌谷にある民間入浴施設では、「元々の利用者に迷惑がかかる可能性を危惧している」(石巻市役所)という。

 前述したとおり、巡回バスが避難所に来るのは、週に3日、1日3往復だけだ。しかも、バスは日中が中心で夜は利用できない。巡回バスが入浴施設で待っている時間も30粉程度。
 自衛隊の入浴支援を受けていた避難所では、毎日シャワーなどを利用する事ができていたにもかかわらず、今後はかなり制限された中で入浴施設を利用する事になる。
 働いていたり学校に通っていて、少しでも遅く帰って来てしまうと、2〜3日後まで入浴が出来ない。そうした避難者はどうすればいいのかと、石巻市の避難所対策室に聞いたところ「自分の車で行くか、車を持っている人に連れてってもらうしかない」と答えた。

 これから8月になって暑さのピークを迎える。いくら東北地方とはいえ、8月は暑い日が続き、大量に汗かく日もあるだろう。子供たちは汗疹対策が必要になる季節だ。しかし、今後は毎日汗を流す事が難しくなる。

 例えば気仙沼市でも、同じように巡回バスを走らせるという。しかし、気仙沼でこれまで自衛隊の入浴支援を受けていた避難所には、すでに仮設のシャワー施設が設置され、民間の入浴施設に通わなくても、最低限、シャワーを利用する事ができるようになっている。
ところが石巻市で自衛隊に入浴支援を受けていた3つの避難所には、仮設シャワーは設置されていない。市では、まだ仮設シャワーを探す事が出来ずに、今後も設置の目処が立っていない。

 なぜ、暑いこの時期に入浴支援が打ち切る必要性があるのだろうか?
 菅直人首相が「お盆までに必要数の仮設住宅を完成させる」と宣言しながら、実際には仮設住宅の建設は遅れている。
 石巻市の仮設住宅は、8月後半から9月にかけてほぼ完成する予定だそうだ。それまで避難所で生活している人たちは、学校の体育館などで過ごす事になる。もちろん冷房などはない。
こうした状況の中で、自衛隊の入浴支援を打ち切るというのは、避難者の生活環境が悪化する事になる。

 市の避難所対策室や、市の広報課に取材して担当者に聞いたところ、どちらの部署からも、「石巻市としては、こうした状況のため自衛隊に入浴支援を続けても らいたいと考え、県や自衛隊の担当者が参加している石巻市災害対策会議の中で、入浴支援の継続を申し入れたが、受け入れてもらえなかった」と答えた。

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7月26日、宮城県石巻市の青葉中学校のグランドに設置されたシャワー施設。この施設は4月に米軍が設置し、その後、自衛隊が米軍に施設を借り受ける形で管理して、現在も自衛隊の入浴支援活動として運営されている。
筆者がこの避難所を取材している平日の日中(午後)、約1時間半の間、利用者が途切れる事はなかった。
翌日、自衛隊が撤収してしまったが、避難所で暮らす人たちからは、これまで自衛隊が支援し続けてくれた事に感謝する声ばかりが聞かれた。

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 この件について宮城県の災害対策本部に電話で3日間取材を申し込んだが、「県としては市と自衛隊が協議して判断した結果、これ以上、自衛隊の支援活動は必要ないと結論を出したと理解している」という回答しか戻ってこなかった。

「市から県に、自衛隊の入浴支援活動を続けて欲しいと要請がきているはずだが」と質問しても、「詳しい経緯は分からない」の一点張り。

 では、県内の避難所で暮らしている人たちの入浴環境について調査をしているのかと聞いてみた。
県の災害対策本部では「未だ避難所で生活している約5000人が、毎日どれほど入浴活動をしているかを調査したが、入浴施設の利用者は1日約1000人程度だと把握している。その利用率から考えると、週に3回程度の巡回バスでも問題ないと考えている」という。
 たしかに、例えば石巻市で自衛隊が入浴支援を撤収した27日以前で、巡回バスの利用者は、25人乗れるバス1回につき15人程度らしい。しかし、これは非常に利用しづらい巡回バスの利用実態だ。
避難所の中にある入浴施設は、前述したとおり、その避難所の約7割程度の利用者があるわけで、県で把握している「5000人のうち1000人程度」というのは、避難所の実態をまったく把握できていない。
 宮城県の災害対策本部で、こうした石巻市の実態について説明した上で「避難所で暮らす人の入浴実態を調査するなら、こうしたデータが必要だと思うが、県で なぜきちんと調査をしないのか?」と聞いたら、「そうした実態については把握していなかったが、今後もこれ以上の調査をする予定はない」とのこと。

「この時期に入浴が満足にできない市町村に対して、例えば仮設シャワーを県で用意するとか、汗拭きシートを利用して衛生対策をするように市民に啓蒙するよ う市に要請するとか、県として市町村に何らかのフォローをすることはないのか」と聞いたが、「そうした事は市町村が考える事で、県では対応を考えていな い」という回答だった。

 最終的に「市と自衛隊の協議とはいえ、県の判断として、暑いさなかに避難者の入浴のための利用環境がこれまでに比べて悪化し、それでも県としては、自衛隊の支援は必要がないという判断に至ったということでいいのか?」と確認したが、「それで構わない」という。

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 現在、宮城県内では自衛隊の撤収作業が進んでいる。
 7月28日付け『河北新報』によると「宮城県の村井嘉浩知事は27日の県災害対策本部会議で、沿岸4市町で被災者の支援活動を行っている自衛隊に対し、8月1日に撤収要請する方針を正式に表明した」とのこと。

 対応が後手後手になっている石巻市、実態を把握せずに自衛隊の支援撤収を要請する宮城県。どちらも、筆者の取材に対して、部署をたらい回しにし、責任転嫁をするような発言を繰り返す。

 どれだけ取材しても、この暑い時期に、自衛隊の入浴支援活動を撤収させる意味がまったく理解できない。
 そういえば、石巻市、宮城県、防衛省の共通した言葉は「民業圧迫しないように」と「いつまで自衛隊が支援すべきか議論が必要」という2点だった。民間の入 浴施設がほとんど開業していない状態の石巻市では「民業圧迫」は関係ないし、入浴施設が一番必要な季節に議論もへったくれもない。非代替性も公共性も十分 にあるはずだ。

 仮に、この暑い時期に冷房設備も十分じゃない環境で過ごしている人たちが、たった数人しか自衛隊の入浴施設を利用していなかったとしても、「税金の無駄だ」「民業を圧迫するな」などと言って反対する人など多くないだろう。

 いったい「誰得?」の自衛隊撤収要請なのだろうか……。

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 今週は、福島県南相馬市、相馬市、宮城県石巻市、気仙沼市、岩手県陸前高田市、釜石市、大槌町、宮古市などで取材をして来た。
 東京にいると「原発問題以外の地域では、すでに震災は止まり、復興活動に向かっている」という声を聞く。
 たしかに、復旧活動は進んでいるし、復興にむけて前向きに動き出している人も沢山いる。しかし一方で、震災が現在進行形で進んでいると感じることも沢山ある。
 仮設住宅に入れず厳しい避難生活を続けている人たちや、仕事や生活設計の目処も立たずに不安な毎日を過ごす人たちに対して、「震災はすでに終わっている」なんて僕は言えないし、言う気にもなれない。


渡部真 わたべ・まこと
1967 年、東京都生まれ。広告制作会社を経て、フリーランス編集者・ライターとなる。下町文化、映画、教育問題など、幅広い分野で取材を続け、編集中心に、執 筆、撮影、デザインとプリプレス全般において様々な活動を展開。東日本大震災以降、東北各地で取材活動を続けている。
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