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第292号 2018.11.20発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしの人たち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…戦時中、日本に動員された元徴用工とされる韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟で、韓国の大法院(最高裁)において1人あたり約1千万円を支払うよう命じた判決が確定した。この判決に対しては、朝日新聞の社説でさえ一方的に判決を批判する論調となっていた。しかし、それでも往生際悪く「個人請求権」は存在していると言う者もいる。国際法秩序を崩壊しかねない極左の主張を叩き潰せ!!
※特別寄稿!笹幸恵「私の『戦争論』論」…平成30年11月11日。初の京都でのゴー宣道場。「『戦争論』以後の日本と憲法9条」というテーマで開催された。当日語らなかったことも含めて、あらためて「私の『戦争論』論」として振り返ってみたい。果たして『戦争論』以後の日本は何が変わったのか?
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…埼玉県蕨(わらび)市と川口市西部にかけて、1990年代初頭よりトルコ政府の弾圧から逃れたトルコ国籍のクルド人難民が住み着くようになった。さらにJR西川口駅周辺には大量の中国人が移り住み、急速に「中国化」している。実際に現地を歩き見えてきた現実とは?驚愕のレポート!


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第301回「徴用工問題、個人請求権について」
2. しゃべらせてクリ!・第249回「建もの探訪! 貧ぼっちゃまツリーハウス、裏山鹿~!の巻〈後編〉」
3. 特別寄稿!笹幸恵「私の『戦争論』論」
4. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第105回「埼玉県ワラビスタン&中国化レポート」
5. Q&Aコーナー
6. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
7. 編集後記




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第301回「徴用工問題、個人請求権について」

 戦時中、日本に動員された元徴用工とされる韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟で、韓国の大法院(最高裁)において1人あたり約1千万円を支払うよう命じた判決が確定した。
 安倍首相は「1965年の日韓請求権・経済協力協定によって完全かつ最終的に解決している」「判決は国際法に照らしてありえない判断だ」と、珍しく真っ当なコメントをした。
 また、原告となった元工員4人についても「政府としては『徴用工』という表現ではなく、『旧朝鮮半島出身の労働者』と言っている。4人はいずれも『募集』に応じたものだ」と指摘した。
 この判決に対する反応で、わしが特に注目していたのは朝日新聞の社説である。これまでの所業からすれば、こんなデタラメな判決にでも理解を示すようなことを書きかねないと思ったのだ。
 ところが判決翌日・10月31日の社説では、冒頭から
 植民地支配の過去を抱えながらも、日本と韓国は経済協力を含め多くの友好を育んできた。だが、そんな関係の根幹を揺るがしかねない判決を、韓国大法院(最高裁)が出した。
 と、一方的に判決を批判する論調となっていた。
 朝日社説は「日本政府や企業側は、1965年の国交正常化に伴う請求権協定で元徴用工への補償問題は解決済みとし、日本の司法判断もその考えを踏襲してきた」とした上で、「政府が協定をめぐる見解を維持するのは当然」と主張する。
 もっとも、その後に「としても、多くの人々に暴力的な動員や過酷な労働を強いた史実を認めることに及び腰であってはならない」と付け加えているところがいかにも朝日的なのだが、それでも明らかに日本政府の方を支持しているのだ。
 その上、さらに朝日社説はこう書いている。
 原告側は、賠償に応じなければ資産の差し押さえを検討するという。一方の日本政府は、協定に基づいて韓国政府が補償などの手当てをしない場合、国際司法裁判所への提訴を含む対抗策も辞さない構えだ。
 そんなことになれば政府間の関係悪化にとどまらず、今日まで築き上げてきた隣国関係が台無しになりかねない。韓国政府は、事態の悪化を食い止めるよう適切な行動をとるべきだ。
 朝日は韓国政府にのみ「適切な行動」を求めている。かつての朝日を考えれば、隔世の感を覚える。
 11月11日に開催されたゴー宣道場「『戦争論』以後の日本と憲法9条」終了後の控室トーク『語らいタイム』では高森明勅氏が、この朝日の論調が『戦争論』によって日本が変わった実例であり、20年前だったらこうは書かなかったはずだと指摘した。
 道場では、『戦争論』出版から20年経っても、日本の現状はちっとも変わらないという面ばかり強調されてしまったが、やはり目に見えて変わっているところもあるようだ。

 だがそれでも往生際悪く、1965年の国交正常化の際の日韓基本条約・請求権協定で「完全かつ最終的に解決」したといっても、「個人請求権」は存在していると言っている者もいる。
 衆院外務委員会で共産党の穀田恵二が、日本政府も個人請求権の存在を認めて来たのではないかと質問、これに河野太郎外相が「個人請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と答弁したら、それを韓国・ハンギョレ新聞が鬼の首でも取ったかのように書いていた。
 だが、個人請求権は消滅していないというのは以前からの政府見解で、別に「不都合な真実」ではない。
 請求権協定によって、日本は韓国に「経済協力金」の名目で、無償で3億ドル、有償で2億ドル、民間借款で3億ドル、合計8億ドルを支払っている。当時の韓国の国家予算の2.3倍、今の貨幣価値では1兆800億円 に相当する額である。そして、この経済協力金には個人に対する補償も含まれている。
 韓国政府は個人に対する補償金も一括して日本から受け取り、それを国内で分配するとしていた。ところが韓国政府はその経済協力金を産業育成に投じ、個人への補償に十分回さなかったために不満が沸いていたのだ。
 つまり、個人請求権は消滅していないが、その請求先は日本政府ではなく、韓国政府なのである。
 しかも、経済協力金に個人への補償が含まれていることは、かつて韓国政府も認めており、さらに現大統領の文在寅はその政府見解のとりまとめに深く関わった張本人なのである。