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第479号 2023.9.5発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…ジャニーズ問題は案の定、慰安婦問題と同じ道を辿る一途だ。右も左も、日本が「文明開化」で西欧の価値観を無批判に受け入れていった明治以降の歴史しか知らないから、こうなるのだ。今回も前回に引き続き、本来の日本を取り戻すため、日本人が忘却した江戸時代以前の歴史について語っていこう。
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…8月30日、厚労省がワクチン被害の認定審査会を開き、一気に54人の死亡被害を認定した。部会を4つに増やして処理をスピードアップさせたというが、どんどん申請数が増えて、いまだに4000件以上の審査が終わっていないらしい。久しぶりにワクチンを話題にしたのは、今週、メールボックスに、こんな件名のメールが届いたからである。〈コロナは終わりの始まりに過ぎず、本格的な修羅場が始まる〉……メールにはさらに、「NHKから国民を守る党」の立花孝志と、「ごぼうの党」の奥野卓志党首による『日本人削減計画・日本が終わる』という対談の切り抜き動画が添付されていた…。
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…ウクライナの失地奪還は達成できずに終わってしまう?ハリウッド映画などで無理矢理、LGBTQや黒人を出したりすることも受け入れるべき?大きな悲しみや苦しみをどのように乗り越えられてきた?共同親権推進派は、「子の利益」のためと言いながら子を守る気なんて無いのでは?「クリーンな業界」へと変わろうとしている芸能界、もう蜷川幸雄やつかこうへいのような演出家は出てこないのかと思うと残念では?処理水を海に流したことをどう思う?クリストファー・ノーラン監督の新作映画『オッペンハイマー』が日本で公開されたら観る?混浴は恥ずべき因習?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第508回「芸能とは何なのか?(後編)」
2. しゃべらせてクリ!・第435回「猛暑でも酷暑でも夏はスイカ割りぶぁ~い!の巻【後編】」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第302回「インボーデミック ~それロシアのプロパガンダです」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記



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第508回「芸能とは何なのか?(後編)」

 ジャニーズ問題は案の定、慰安婦問題と同じ道を辿る一途だ。
 右も左も、日本が「文明開化」で西欧の価値観を無批判に受け入れていった明治以降の歴史しか知らないから、こうなるのだ。
 今回も前回に引き続き、本来の日本を取り戻すため、日本人が忘却した江戸時代以前の歴史について語っていこう。

 歌舞伎の元祖とされる「阿国歌舞伎」と、その人気を奪った「遊女歌舞伎」は売春と一体だったため、風紀を乱すとして幕府に禁止され、女性は舞台に立てなくなった。
 そして少年だけで構成された「若衆歌舞伎」も、男娼が問題となって禁止され、前髪を剃った男だけが出演できる「野郎歌舞伎」に代わった。
 当時は元服した男性は額から後頭部にかけて髪を剃っていた。剃る部分を月代(さかやき)といい、成人しても月代を伸ばしているのは病人か浪人くらい。少年の前髪は若さと美のシンボルであった。
 しかし前髪を剃ったくらいで男娼文化は全く揺らぎもしなかったことは、前回書いたとおりである。

 とはいえ、役者当人は前髪がないことを気にしていたようで、頭に綿をつけたり、頭巾を被ったり、色染めの手ぬぐいを置いたりして月代を隠した。
 さらには「前髪髷(まえたば)」と呼ばれる付け髪をつけて舞台に上がることが流行ったが、それでは前髪を禁止した意味がないと、幕府は前髪髷も禁止。そこで役者は方形の絹布の四隅に重りをつけて前髪に載せる「野郎帽子」というものを開発して舞台に上がるようになった。
 こうして役者は、無理やりにでも前髪がないことを隠して少年の若さを保っているということにした。また、野郎帽子が紫縮緬で作られるようになると、これがさらに優美であると人気を呼ぶようになったという。

 その頃の舞台は後世の歌舞伎とは比較にならないほど単純で、「華やかな服装の伊達者(かぶき者)が茶屋の遊女に通ってくるところ」とか「殿様が一人の小姓を特に寵愛していることに他の小姓たちが嫉妬して怒るところ」といった風景を寸劇にした内容で、演目の数も少なく、同じようなものを繰り返し上演していた。
 それがなぜ飽きられもせず続けられたかというと、舞台はいわば遊女屋の「張見世」みたいなものであり、客が役者を買うための装置として存在していたからだった。
 これがその後、舞台そのものの魅力で客を呼ぶエンターテインメントとして洗練され進化していって、現在の歌舞伎にまでつながっていくのである。

 歌舞伎の劇場の傍には上演前後に客が楽しむ茶屋があり、役者が客をもてなしていた。そのもてなしのひとつに男色があり、これが後の「陰間茶屋」の発祥といわれる。
 初期の時代の役者は不特定多数を相手にしていたわけではなく、パトロンとなる金持ちに身を任せる男娼だった。
 その後長らく男娼のことを「野郎」と呼んでいたが、18世紀初めの享保の改革でいったん下火になった男娼が復活した頃から「陰間」という言葉が使われるようになる。この言葉自体は以前からあり、まだ舞台に立てない未熟な者のことを指していたが、やがて舞台に関係しない者も含めて男娼全てを「陰間」と呼ぶようになった。
 当初は裕福な武士や僧侶くらいしか陰間茶屋の客にはなれなかったが、経済が発展すると町人の客が増え、それと共に女性の客も増えていった。そして、歌舞伎とは関係ない個人営業の陰間も出てくるようになったという。

 天保年間の『三葉雑記』という書には、役者を養成するには「男子を遊女屋の女を抱える如くに抱え置きて、芸をしいれるなり」とある。
 役者修業の間に、12歳になると肛門を少しずつ広げる訓練がされて肛門性交の技法が施され、舞台の芸と共に寝屋の芸までが仕込まれる。
 歌舞伎役者になるための教程には男色の技法も入っており、舞台に上り始めたもののまだ一人前ではない「舞台子」は、舞台で役者としての芸を磨くと同時に、客からの要請によって座敷も勤め、体を売っていた。
 また、本舞台に上がる前に田舎廻りで芸の修業に行くものは「飛子(とびこ)」と呼ばれたが、飛子は巡業に行って芝居の興行主から夜の伽を請われれば、自分の利益のため断ることはできなかった。

 男娼として売れるにも修練が必要で、容貌をよくするため、10歳から12歳くらいの時に毎晩、鼻を板で挟み、紐で結び付けて面をかぶったような状態にして寝させていたという。当時は目を整形することはできなかったが、これを続けることで、鼻筋はある程度高くできたらしい。
 肌をきれいに保つためにザクロの皮の粉末で体を磨き、歯を磨くにはハチクの笹の葉を炭にしたものを用いた。
 陰間は女性的な容貌と若さが勝負で、無毛や薄毛の者が人気だったため、ムダ毛の処理は入念に行われた。特にヒゲは陰間の大敵で、毛抜きを使って処理していたという。