爆発のようなでかい音が聞こえた。
「なぜだ!」
スーツが叫ぶ。
部屋はもうどっぷりと闇に落ちていた。
スーツが床においた懐中電灯だけが、まっすぐな光を放っていた。それに照らされて、彼の足元でテーブルが倒れているのがみえる。きっとまた蹴り倒したのだろう。
「なぜ、爆発しない!?」
きっと、午後9時を回ったのだ。
時限爆弾は起動に失敗した。安心して、少し涙が滲んだ。ぼやけてみえる懐中電灯の光は綺麗だと思った。
スーツは部屋の出口へと向かう。オレの存在なんてもう、忘れてしまったようだ。
――きっと、みさきの様子をみにいくんだ。
呼び止めるか? だが、そうしてどうなる?
結局オレにはみさきを救えなかったのだ。
落ち着け、と自身に言い聞かせる。
スーツが部屋を出て、乱暴にドアが閉まる音が聞こえた。。
縛られていて両手は動かないが、足は自由だ。オレは椅子ごと、なんとか両足で立ち上がる。ずいぶん前屈した、なさけない恰好だが、なんとか立てた。
――奴に気づかれるか?
だが、あまり悠長にもしていられない。
背後の椅子を、思い切り壁にぶつける。
がしゃんとでかい音が聞こえた。だが、壊れない。縛られている手が痛い。もう一度、もう一度。力を込め過ぎて転倒する。立ち上がって、また繰り返す。
やがて木製の椅子が、べき、と音を立てた。
さらに繰り返しながら全身に力を込めると、背もたれの部分が折れる。それで縄が緩んだ。どうにか、椅子から解放される。
オレはドアを押し開け、通路を走る。
はっきりとは位置はわからないが、元々は小さなホテルだった建物だ。それほど複雑な構造なわけがない。ポケットからスマートフォンを取り出し、ライトのアプリで辺りを照らす。
――間に合うか?
男は、みさきをどうするつもりなんだ?
わからない。急ぐしかない。
窓からみえていた景色で、ここが1階ではないことはわかっていた。3階か、4階のように思う。階段をみつけて駆け下りる。暗い。上手く足元を照らせない。だが不思議と、段を踏み外しはしなかった。
何度か踊り場を回ると、階段が途切れた。1階だろう。見覚えのある廊下だ。みさきが捕えられている、スタッフルームも近い。
そちらに向かって走る。あのドアの前に、もうひとつ光源があった。
スーツだ。懐中電灯を持っている。
その尖った光が、こちらを向いた。
「お前、どうして――」
答えるはずがない。
速度を緩めず、オレはスーツの顔を思い切り殴りつける。
懐中電灯が廊下で跳ねて、どこか、あてのない方向を照らした。
「みさき!」
ようやく叫べた。スタッフルームのドアノブを掴むが、回らない。きっとあのスーツが鍵を持っているはずだ。
「すぐにここを開けてやる。ちょっと待ってろ」
振り返るとスーツの男が、懐中電灯を拾ったところだった。