久瀬視点
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 目を開いて、ここは夢の中なのだとわかった。
 いつの間にかバス停にいた。
 なにをすべきかは、もちろんわかっていた。
 オレはベンチから立ち上がり、バスに乗り込む。

 今日の乗客は2人だった。
 きぐるみの少年ロケットと、ひとりの女性。髪の短い女性だ。このあいだバスに乗った時もいた。双子の片方――ビデオカメラを手にしている方だ。
 最後尾の座席から、きぐるみがいう。
「よう。ちゃんと生きてたみたいだな」
 オレはきぐるみに、「ああ」と応えて、髪の短い女性に声をかける。
「貴女が、リュミエール?」
 リュミエール、あるいはグーテンベルク。そのふたりから話をきけ、とソルに言われていた。
 こちらを見上げて、彼女は笑った。
「そう。私の名前がわかったのね」
「貴女は、聖夜協会の会員ですか?」
「昔はね。今は違う」
「聖夜協会のことを、教えてください」
 だが、彼女は首を振る。
「それはできないわ」
「どうして?」
「ルールだから」
「ルール?」
「私はあなたに、なにも伝えてはいけない。聖夜協会のことも、ソルのことも、プレゼントのこともね」
 彼女――リュミエールは、バスの後部座席に視線を向ける。
 その先には、あの不気味なきぐるみがいる。
「疑問があるなら、彼に訊きなさい。彼は私よりもずっと強い権限を持っているから」
 どういうことだ?
「オレはわからないことだらけなんですよ。少しくらい、教えてくれてもいいでしょう?」
 彼女はもう何も答えなかった。
「女の子が誘拐されて、困っているんです。貴女は悪いひとみたいにはみえない。ルールってなんです? それは、誘拐事件を解決するよりも大切なことなんですか?」
 やっぱり彼女は、なにも答えない。
 オレはため息をついて、後部座席のきぐるみに近づいた。
「お前は知ってるのか? 聖夜協会や、ソルや、プレゼントのことを」
「オレはほとんど、なんにも知らないよ」
 でも、と言って、きぐるみは彼女――リュミエールを丸っこい手で指した。
「あいつはリュミエールの光景をプレゼントされたんだ」
「リュミエール兄弟のことか?」
 きぐるみは、オレの質問には答えなかった。
「妹の方はグーテンベルクだ。今日はいないがな」
「ヨハン・グーテンベルク」
 映写機を作ったリュミエール兄弟と、印刷術のグーテンベルク。
 ソルはこのふたりの「プレゼント」で、こっちの情報を知ると言っていた。
 ――いったい、なんだってんだ。
 わからない。わからないことだらけだ。
 オレは着ぐるみの隣に腰を下ろす。
「正直、このバスを待ちわびていたよ」
「へぇ。オレに会いたかったのか?」
「お前はどうでもいい。でも、未来を知りたい」
 みさきを救い出す手がかりになる未来。それだけが欲しい。
「困ってるんだよ。最近、バスもなかなか来ないし、ソルのスマートフォンの電波もあまり入らない。なんとかならないか?」
「おいおいヒーロー、ずいぶん弱気じゃないか。他人任せか?」
 ヒーローってなんだよ。
「みさきが助かるなら、なんでもいい。オレひとりでどうこうする必要はない」
 バスのドアが閉まる。
 きぐるみは言った。
「未来を変えられるのはソルだけだ。でもさ、お前が動かなきゃ、ソルだってなんにもできなくなっちまうんだぜ」
 君が頑張るしかないんだよ、ときぐるみは言った。
 バスの外の景色が、ゆっくりと流れはじめる。
読者の反応

Lalf @Lalf_GroupTRON 2014-08-02 00:00:20
バスかもーん 


KURAMOTO Itaru @a33_amimi 2014-08-02 00:01:25
すごいなー,リュミエールとグーテンベルグの推察はどうやら正解だったようですねー… 





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