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私は清潔なシーツにくるまっていたけれど、リビングからはノイマンがキーボードを叩く音が聞えていて落ち着かない。
彼女の仕事の締め切りは明日だ。聖夜協会から請け負ったという仕事がどうなろうと知ったことではなかったけれど、やはり人が働いている横で眠るのは気がひける。この数日の私の仕事といえば、何度かチャーハンを作ったことくらいだった。
眠れない夜は今後について考える。
ここに来てからずいぶん意識が薄らいでいるけれど、私だって誘拐事件の被害者だ。なんとか状況を打開する方法をみつけたいけれど、それはなかなか難しいことだった。
とにかく脱出すればいい、というわけではないらしい。
ただ脱出するだけであれば、その気になれば、今夜中にでもできそうだった。
私をこの部屋に縛りつけているのは、脱出したあとの不安だ。正体不明の聖夜協会員たちが紛れ込んでいる世界で、どう日常生活を送ればいいというのだろう。
ここから解放されたなら、私は久瀬くんに会いたかった。
あのとき助けに来てくれてありがとうと言いたかった。
でも、もしそこを別の聖夜協会員に襲われたら、と考えると身動きがとれない。
家に戻っても、お母さんや、姉さんのことが不安だ。大学に行っても友人たちが、やはり不安だ。
具体的な鎖や武器ではない、得体のしれない未来への不安をどうにかするのは、難しいことだった。
少しでも聖夜協会の情報が欲しくて、この家の中は一通り調べてみた。でもそれも無意味なことだった。寝室にも、リビングにも、一応は調べたトイレやバスルームにも、手がかりらしい手がかりはなかった。
一体、私はどうすればいいのだろう?
やはり勇気を出してここを抜け出し、警察に駆け込むべきだろうか。でも――
悩んでいると少しずつ、睡魔が近づいてくるのを感じた。それはまるで、こつん、こつんと足音を立てるような。こつん、こつん。ゆっくりと意識が沈み込み――こつん。
ふいに、意識が覚醒する。
足音が、本当に、聞こえた。
錯覚だ、と信じたかった。音が聞こえた方に視線を向ける。
だが、やはり、ベッド脇に人影があった。ノイマン、ではない。もっと大柄な男性。
サングラスの男。――ニールだ。
どうして。寝室の扉が開いた気配すらなかったのに。
反射的に、彼の反対方向にベッドから転がり落ちた。
助けて――叫び声を上げようとする。でも、その前に。
「うるせえよ」
そう吐き捨てて、ニールは私に背を向ける。そのまま、片手をひらひらと振った。
「用があるのはお前じゃない。静かに寝てな」
そうして、こつん、こつんと足音を立てて、部屋を出て行く。ばたん、とドアの閉まる音。
わずか数秒の出来事に、呆気にとられる。
リビングからは、ノイマンの悲鳴のような声が聞こえた。
「ちょっと! 靴を脱ぎなさいよ」
彼女はニールがふいに現れたこと自体は、気にも留めていないようだった。信じたくはないけれど、やっぱりニールには、瞬間移動のようなことができるのだろうか。どうして?
ノイマンの悲鳴のあとは、声は聞こえなかった。
私はベッドを抜け出し、足音をたてないように、そっとドアに近づく。
耳を当てた。でも上手く聞き取れない。
「強硬派が――」「お前でさえ――」「プレゼントなら――」
かろうじて途切れ途切れに拾った言葉はあまりに乏しく、内容は読み解けなかった。
私がこれからどうなるか。久瀬くんがあのあとどうなったか。知りたかったのに、こんな扉一枚が邪魔をする。
――久瀬くん。
彼は今、どうしているだろう?
そのことだけでも聞きたかった。なんならこのドアを開け放ち、あの男の胸倉をつかんででも。
でも実際には、私はドアに爪を立てただけだった。
やいば @YAIBA9999 2014-08-01 23:11:48
チャーハン食い過ぎww
子泣き中将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw 2014-08-01 23:14:32
トイレ行ってる間に更新来たか。ノイマンに会いに来たのに飛んだ先はベッドルームか…
鬼村優作 @captain_akasaka 2014-08-01 23:11:18
プレゼント、というキーワードが出てきた。特殊能力の話だろうか。wakaranai
あさって @sakuashita1 2014-08-01 23:32:29
ノイマンのプレゼントは一体なんなんだ…?
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