佐倉視点
banner_space.png
「あの辺りでいいわ」
 とノイマンが言った。
 自分がどこにいるのかわからないけれど、なんてことのない街の一角だった。
 ニールが近くのパーキングに車を入れる。ふたりが車を降りたので、私もそれに従った。
「旅行って、ここですか?」
 あまりに近い。旅行感はない。
「いいえ、旅行に行くには準備がいるでしょ。鞄と着替えを買ってあげるわ」
 なるほど。なんとなく誘拐犯に服を買い与えられるのは気が進まなかったが、今着ているものもノイマンから与えられたものだ。さすがに着替えがないのはつらいから、いいなりになるしかない。
「あなたもついてくる?」
 と、ノイマンはニールに言った。
「んなわけないだろ。ちゃんと見張ってろよ」
 彼は手を振って、どこかに歩いていく。さすがにそうぽんぽんとは瞬間移動しないようだ。
 ノイマンは妙に嬉しげに笑う。
「じゃあ行きましょう。とびっきり可愛いスカートをみつけるわよ」
「ジーンズがあればいいです」
「だからよ」
「え」
「警察はもちろん貴女を捜しているし、駅にはたくさんカメラがあるから。服装のイメージは極力変えたいの。美容院も予約してるわ」
 ベリーショートに抵抗ある? とノイマンは言った。
 髪形には、多少のこだわりがあるけれど。それよりも。
「そこまで誘拐犯の言いなりになるのは抵抗ありますね」
「素直ね。でも、安全に久瀬くんの元に帰るためよ。髪くらいどうってことないでしょ」
 彼の名前を持ち出すのはずるい。
 ノイマンは挑発的に笑う。
「それとも彼に、髪を褒められたりした?」
「……いえ」
 残念ながら、彼に最後に会ったのは、まだ小学生のころだ。あの爆弾事件のときに、ドア越しに話をしたけれど、顔は合わせていない。
 ――まあいい。
 ベリーショートだろうが、坊主だろうが、誘拐犯の言いなりだろうが。彼との平和的かつ情熱的な再会に比べれば、たいした問題ではない。思い切り高い服を買わせてやる、と心の中で誓った。
 私は根本的なことを尋ねる。
「どうして旅行に行く必要があるんですか?」
 誘拐犯にしてみても、私をマンションにでも閉じ込めておく方が安心できるだろうに。
「4コマ漫画作りの一環よ。取材旅行ってところかしら」
 脚本家に憧れる私としては、なかなか心の踊る言葉ではあった。もちろん誘拐なんて最低なワードをとっぱらって考えれば、だけど。
「英雄の思い出の土地を巡って、貴女の記憶を刺激するわけ。わかった?」
 思い出の土地。
 ――それはたぶん、久瀬くんの。
「どこに行くんですか?」
「明日は名古屋。そのあともいろいろ。英雄は色んな場所を転々としていたのよ。きっと怪獣が現れるたび、飛んでいったんでしょうね」
 久瀬くんは幼いころ、引っ越しばかりしていると言っていた。
 名古屋。知っている。
 それは確か久瀬くんが、小学校に入る前に暮らしていた場所だ。
読者の反応

光輝@oculus泥酔 @koukiwf 2014-08-03 18:02:14
ミサキチが名古屋に?


おおば @hdjjkhkl 2014-08-03 18:02:23
なんだ・・・ノイマンもニールも聖夜協会マジで困ってんのこれ?そしてあわや味方かと思っていたリュミエールが怪しいだと  


桃燈 @telnarn 2014-08-03 18:02:29
名古屋!?くそぅ、テストが終わっていたら即刻帰省して現地組になったと言うのに! 


MIRO @MobileHackerz 2014-08-03 18:07:53
@tos EVENT FLAG 40コマ漫画1、明日8月4日 17時か…!  


煙@制作者派 @smoke_pop 2014-08-03 18:10:40
あ、100謎へのリンクがあった場所がシロクロサーガへのリンクに変わってる  


木庭とアルドノア・ヒゲの夏 @kbmkt_ 2014-08-03 18:12:49
展開たのしくなってきたな~いいな~





※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
banner_space.png
佐倉視点