ま、いい。電話をかけてもらえるかな、と八千代は言った。
3D小説「bell」本編
■久瀬太一/8月15日/20時
「暗い店ならどこでもいいよ」
と八千代は言った。頬にはアザができていて、おそらくそれを気にしたのだろう。
彼は頭を殴られていたため、昨日から今日にかけて病院で過ごした。幸い――と言っていいのかわからないが、検査の結果みつかったのは肋骨に入ったひびくらいで、入院の必要はないそうだ。
「じゃあ、今夜でいいんだな?」
とオレは尋ねる。
「ああ。ほかにはタイミングがない」
と八千代は頷いた。
前々から、気になっていたことだ。
八千代と宮野さんを引き合わせる約束をしていた。
※
「この度の取材は私ひとりが独断で行ったことです。行き過ぎた行為、誠に申し訳ありません。深くお詫び申し上げます」
そう言って宮野さんは頭を下げた。
まともなスーツを着ていると、彼女だって社会人にみえた。でもしゅんとした彼女の様子は、やはりどこか子供っぽくもあった。
オレたちは照明の暗いレストラン&バーで向かい合っていた。宮野さんに泣きつかれたから、オレが探した店だ。テーブルには10品ものオードブルが少しずつ載った白い皿がおかれている。美味いことはわかるが、どれもひとくちサイズなので物足りない。
ふむ、と唸り声をあげて、八千代は宮野さんが差し出した菓子折りを受け取る。包装紙には有名な洋菓子店の名前がある。
「ま、いいよ。女の子が部屋に訪ねてきたくらいで、叱りつけるわけにもいかない」
「いいのかよ」
とオレはぼやく。普通に考えて犯罪だ。
どちらかといえば宮野さんのフォローに回る心づもりではいたけれど、あんまりあっさりと許すと宮野さんの将来が心配だ。
八千代は肩をすくめてみせた。
「あの部屋はちょっと特別でね。知らない誰かが訪ねてくることは、初めからわかっていた」
「そんな部屋に大事なものを置いていくなよ」
八千代らしくない。彼は、警戒心が強い方だろう。
「正直、スマートフォンは失くなってもよかったんだ。迷惑電話が多くてね」
「ミュージックプレイヤーは?」
「忘れていた。単純に」
嘘だろう、とオレは思う。
理由はない。なんとなく、八千代らしくないなと感じただけだ。
彼は軽く菓子折りをかかげて、言った。
「こいつはもらっておく。ディナーはごちそうになろう。とりあえずそれでいい」
安心したように、宮野さんが笑う。
「本当ですか」
八千代は頷く。
「盗んだものは、ちゃんと返してくれるんだろうね?」
暗い店内でもわかる、明らかな愛想笑いを宮野さんは浮かべた。
「実はそれなんですが、私の上司? みたいな人から、ひとつ相談がありまして」
八千代が苦笑を浮かべた。
「ずいぶん不明瞭な関係の方だね」
宮野さんは相変わらず下手な愛想笑いのまま、頭をかいた。
「そうなんですよ。ええと、雪、という名前に心当たりはありますか?」
雪、と八千代が、小さな言葉で反復する。それから、「友人にはいないな」と答えた。
ほう、と呟いて、宮野さんは少しだけ身を乗り出した。
「名前を出せばおそらくわかる、と聞いていましたが?」
興味をひかれて取材体勢に入ったようだった。時と場合を選んで欲しい。
八千代は相変わらず笑っている。
「なら、わかることにしておこう。それで?」
「直接、お話したいとのことですが、大丈夫ですか?」
八千代が驚いた風に、笑みを消した。
「ここにくるのかい? その、雪って人が」
「いえ。電話をかけるようにいわれています」
「この手の店に、電話は似合わない」
「では店を変えましょうか?」
「オードブルの途中で席を立つわけにもいかないよ」
ま、いい。電話をかけてもらえるかな、と八千代は言った。
ま、いい。電話をかけてもらえるかな、と八千代は言った。
彼は動揺している。最近はずっと一緒にいるせいか、それを感じ取れた。これまでになかったことだ。
宮野さんがスマートフォンを取り出し、どこかに発信する。
それから、ハンズフリーにして、テーブルの上に置いた。
みかみ@3D小説用 @mikami_pro 2014-08-15 20:08:54
八千代が動揺してる…雪さんやっぱり教会関係者?
あき、みや @akmy_3d 2014-08-15 20:09:09
さとみちゃん久々の登場でえげつないくらい可愛いですね。もっと本編に出してください。みや
ちょくし@[3D小説 bell]参加中 @DodoRoku 2014-08-15 20:24:32
【ニコ生(2014/08/16 13:30開始)】【3D小説 bell】だれかのタイムカプセルを掘り起こそう! #3D小説 nico.ms/lv188841477
わーい、字面だけだと完全に悪行だー(事実だけど)
コウリョウ@ソル(偽山本) @kouryou0320 2014-08-15 20:25:08
おお、充電してるうちに更新あったのですね。とりあえず至急こちらがすべきことはなし。久々の宮野さん、動揺する八千代、そしてついに雪さーん!
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