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■久瀬太一/8月16日/14時40分
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■久瀬太一/8月16日/14時40分

2014-08-16 14:40
    久瀬視点
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     松山空港から飛び乗ったタクシーの中で、八千代は言った。
    「ひとりは間違いなく愛媛にいる」
     スイマのことだ。
    「どいつだ?」
    「ホール」
    「ニールの知人だと言っていた奴か」
    「あいつは古株だが、それほど聖夜協会とは関わっていない。中では比較的、近い位置にいた、程度だ」
    「あんたの方が仲がいいかい?」
    「オレのひどい勘違いじゃなきゃね。少し前まで電話1本で、道後温泉にだって呼び出せた」
     そういえば、温泉がどうのと言っていたような気もする。
    「向こうから電話があったんだろう?」
    「ああ。でも、すぐに切れた」
    「あいつはなんて?」
    「なんでもない、だったかな。ほんの一言が二言しか喋らなかった」
     八千代は少しだけいらだたしげに、クッキーを口の中に放り込んだ。昨日宮野さんに貰ったものだ。
    「食うかい?」
     と彼が差し出したクッキーを貰う。美味い。高級なバターの味がする。でも昼食には物足りない。
     八千代が笑った。
    「一通り終わったら、愛媛の美味い飯でも食おう」
    「愛媛って、みかんの他にイメージがないな」
    「前に食った鯛めしは美味かった」
    「よし食おう」
     頷いてオレは、話を戻す。
    「ホールとニールは繋がっているか?」
    「繋がっていたなら、ほとんど詰んでる。あいつは誰にも撒けない。どこにだって、たったの一歩でやってくる」
    「ニールの足跡」
    「ああ」
    「どうすればいい?」
    「どうかな。正面から殴り合ったら、オレの方が強いはずだけどね」
    「でも友達なんだろう?」
     ふ、っと吐き出して八千代は笑う。
    「そうだな。あいつと組んで、君をぼこぼこにするかもしれない」
    「怖い話だな」
     オレと八千代は、もう1枚ずつクッキーを食う。やはり美味い。
    「なんにせよ、この辺りにいることが確認できたのはホールだけだ。あいつが昨夜取ったホテルまではわかっている。でも、今日も同じ部屋をとっているのかはわからない」
    「同じ部屋だよ」
    「なぜわかる?」
    「直感だよ」
     昨日のバスからみえた光景では、オレと八千代がホテルの一室をあさっていた。部屋に荷物が残っていたのだから、連泊しているのは間違いない。
     八千代はほんの少しだけ悩んでいるようだったが、やがて頷いた。
    「まあいい。まずはそのホテルに向かおう」
     八千代がタクシーの運転手に、ホテルの名前を告げる。
    「山に行った方が手っ取り早くないか?」
    「いくつか確認したいことがある。本当は、手分けをしたいんだ。でも君ひとりで山に行かせると、相手がホールひとりでも簡単に負けるだろ」
     その可能性が高いから、反論はしない。
    「どうやって、取ったホテルを調べたんだ?」
    「直感だよ。君と同じでね」
    「あんたのプレゼントが関係しているのか?」
     八千代は肩をすくめてみせた。
    「君もプレゼントを持っているのか?」
    「いや――」
     あのバスは、プレゼントなのだろうか?
     わからない。超常現象はすべてプレゼントでひとまとめにした方が、まだしも気楽だった。でもオレは誰かに特別な力をプレゼントされた記憶なんてない。
     昨日、未来のオレを通じてソルから聞いたことを告げてみる。
    「プレゼントってのは、貰うと記憶の一部がなくなることがあるらしい」
    「それは初耳だな。情報源は?」
    「友達だよ」
    「君の友達は何者なんだ」
    「オレもよくわかってない。でも、信用できる」
    「そうかい。それで?」
    「あんた、ミュージックプレイヤーの記憶を失くしているんじゃないのか?」
     八千代はなにかを馬鹿にするように、鼻で笑う。それは、ただの直感だけれど、自分自身を馬鹿にしているようにみえた。
    「いや。覚えているよ。ただ苦手なだけなんだ」
     彼はクッキーの、最後の1枚を口の中に放り込んだ。
     それから大きな旅行鞄の中に手を突っ込む。宮野さんから受け取ったのはいろいろなお菓子の詰め合わせだったみたいだから、次のものを捜したのだろう。
    「苦手?」
    「ああ」
     彼が取り出したのは、袋詰めにされたキャンディだった。宮野さんに、八千代が好きなお菓子を聞かれたから、キャンディと答えておいた。キャンディ入りの菓子折りというのは珍しいように思うから、それなりに苦労して探したのかもしれない。
     キャンディの袋を手に取って、八千代はわずかに、眉間に皴を寄せる。それから、「やるよ」と言って、その袋をこちらによこした。
    「どうして? 好きだろ?」
    「いや」
     彼はまた、鞄に手を突っ込む。
    「昔から苦手なものが、ふたつあってね」
    「へぇ」
    「キャンディとミュージックプレイヤーなんだ」 
     わけがわからない。
     ――いつも、あんなにキャンディを。
     そう考えて、ふと思い出す。
     八千代はキャンディを口に含んだあと、それをブラックコーヒーで無理やりに飲み込んでいるようでもあった。読者の反応

    セトミ@レンブラント派アイちゃん派 @setomi_tb 2014-08-16 14:41:29
    愛媛にホールがいる  



    空つぶ@3D小説bell参加中 @sora39ra 2014-08-16 14:44:40
    八千代さんも謎だなぁ…キャンディ苦手なのにいつもくちにするのね・・・  





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