センセイの部屋に戻ると、一同の視線がこちらに向いた。
「よう。お前らが逃げ出しちまったんじゃないかって、みんなで噂してたんだぜ?」
とニールがソファにふんぞり返って言う。
「逃げるわけないだろ」
それで気持ちが楽になるならそうしてもいいけれど、山本が気にしているのは昨夜の事件の真相なんだから、ここから逃げ出してどこにいけっていうんだ。
「だいたいわかったよ。ティーカップはすり替えられていた」
宮野さんが首を傾げる。
「すり替え?」
「たぶんトレイが回転したんです。だからセンセイの隣に運ばれた紅茶には、そもそも薬なんか入っていない。薬が入った紅茶は山本が飲んだ」
ニールは相変わらず不機嫌そうだ。
「どうしてトレイが回るんだよ?」
「誰かが回したんだろ。ほら――」
オレは不気味な、少年ロケットのきぐるみを指さす。
「ちょうどテーブルの脇に、こんなにも犯人が隠れるのに最適なものがある。こいつの丸っこい手でも、トレイくらい回転させられる」
「そんなもんすげぇ目立つだろうが!」
「山本は少しだけテーブルから目を話していたんだよ」
だよな、とオレは彼女にふる。
「うん。センセイが、薬は棚の中にあるって言って。でも、その薬は、テーブルの目立つ場所にあったから。へんだなと思った」
「そのあいだに、トレイは回転していたんだ」
「そんな証拠、どこにあるってんだよ」
薬の梱包の向きが変わっていた――なんてことは、今さら証明しようがない。
でもこの部屋には、わかりやすい証拠が残されている。
「目の前にあるだろ」
オレはセンセイのデスクに――その隣にある、サイドテーブルに近づく。
そして、そこにあったティーカップを手に取った。
薬が入った紅茶を山本が飲んだなら、このティーカップに入っているのは、ただの紅茶だ。
――あとで警察か誰かに怒られるだろうな。
そう思ったけれど、あとのことはあとで考えればいい。
オレはそこに残っていた、冷めた紅茶を一息に飲み下した。