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山田玲司のヤングサンデー 第342号 2021/5/17

聖なる不謹慎 4

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【なぜ『グーニーズ』なのか?】


相変わらず「80年代」が流行っているらしい。

ファッションからイラスト、音楽と来て今度は80’S映画なのかもしれない。

少し前に言われていた90年代ブームはもう1つピンとこなかった所があったけど、今回の80年代ブームには感じる所がある。


ヤングサンデーで今回特集した「グーニーズ」はまさにその黄金の80年代の空気をまとった「みんなの心に残った映画」だろう。

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出てくるキャラクターたちはみんなどこか素朴で純粋で心が疲れていない。


でもその5年くらい前の70年代映画は不安に満ち溢れ、主人公たちは病み、みんなどこか狂っていた。


70年代はリベラルの敗北、ベトナム戦争、冷戦と核の恐怖に(ウォーターゲート事件などの)政治腐敗と最悪な時代だった。

そんな時代の中で若者たちは「オカルト」や「カルト」に熱狂したり自分の殻に閉じこもったり「自暴自棄な性行為」も増えていった。


どうしてもそんな70年代が「今の日本」と重なって見える。


もちろん1980年代という時代が問題のない時代とは言えない。

当時を体験していたのでそれはよくわかる。

「社会問題を考えるなんて意味がない」という投げやりな空気の中、エゴイストだらけになっていった時代でもあるし、その時の問題が今の時代の大きなツケになって僕らに襲いかかっている。


機能しないマスコミも異常な株式市場や税金を収めない組織が多すぎるのも「この時代の何か」に繋がる。


それでも若者たちが元気だったのは間違いない。


「特別な何かがなくても、失敗ばかりの子供でも冒険はできる」という「グーニーズ」のテーマそのものの空気に満ちていた。


「魔法」や「優秀な血脈」や「最強のガジェット」がなくても冒険ができる。

最後には「バカで悪い大人」はちゃんと捕まって、優しい大人達が迎えに来てくれた。

それが80年代の子供だったのだ。


みんな早く「そこ」へ行きたいのだろう。


本当に「悪い大人」はちゃんと捕まって欲しい。


そう言えば「グーニーズ」は「ダメ人間たち」という意味がある。

それでも冒険に出るし、異文化の人達を尊重できる。何よりも明るくてご機嫌だ。


ヤングサンデーは「そんなチーム」でいたいし、そのつもりでここまでやってきた。

そう考えると「ヤンサンの時代」が待たれている、とも言える。

「いよいよ俺たちの時代が・・」なんて何度も言ってきたけど、少なくとも僕らの方向とマナーは間違っていないのだ。


まだまだ健康でいなければ・・なんて思う。



そんなわけで、連載小説「聖なる不謹慎」の第4回目です。






第4章 笑えない男


【死んだほうがいい朝】


目が覚めると自分の部屋だった。

ベッドには寝ているものの、服は着たままで靴下も脱いでない。

しかも頭の方向に足を向けて無様に倒れ込んでいた。


安っぽいテーブルの上には片付けてないビールの空き缶に、ペットボトルが散乱していて、それは床にも転がっている。

支払いが面倒で伸び伸びになっている郵便物が、広告の束に埋もれていて気が滅入る。


「ダメなやつだ」という声が聞こえる。


誰かが言いに来てるわけではない。自分の頭の中で響いてる声だ。


ネットニュースには「海外で大活躍している日本人メジャーリーガー」の写真が溢れてる。

デビューしてすぐにホームランを打ったらしくアメリカの地元メディアも絶賛してるらしい。


「こいつ・・僕と同じ年だ・・」


野球なんかどうでもいいのに、こういう事だけはなぜか引っかかる。


「それに比べて俺は・・・・」


いつもの『自分なんか死んだほうがいい』という気分が襲ってくる。

あと数分で出社しなければいけない時間だというのに、自分のダメさを確認しては滅入ってしまう。


「ゴミの分別も出来ない。ろくな大学に行ってない。ホームランも打てない・・俺・・・」


適当にシャワーだけ浴びて、適当な服に着替えて、なんとか家を出た。

会社には間に合う電車に乘れそうだが、髭は剃ってないし、靴下の左右の色が微妙に違う。

いつもこうだ・・・こんな俺なんか・・・。



【ブスならいいのに】


「あはははは」

「ほら間に合ったでしょ~。やれば出来る子~」


ホームに立っていると、やたらと明るい女の子の声が聞こえてきた。


「待って、あんた眉毛!片方書けてないじゃん!」

「あはははは~やめて~見ないで~」


うっかり目が合ったら気まずいので、気を使いつつ後ろを見ると、この前の「画板の女の子」だ。

今日も同じ「大きな画板」に、絵の具の付いた大きめのバッグを抱えて、同じ年くらいの女の子と盛り上がってる。


何が「出来る子」だよ。またその迷惑な荷物で満員電車に乗るって、何も分かってないじゃないか。自分の存在がどれだけの人に迷惑かけてると思ってんだ。


「天気いいねえ~。ハナミズキ咲いてたね~」

「あ、そうだった?」

「ツバメも来てたよ。今年も同じ場所で子育てするみたい」


いいよな学生は「景色」見てる余裕があるんだから。何だよハナミズキって。僕ら社会人は、そんな・・・・・・・・ダメだ。こいつらから離れよう。


この後この女達が「好きな男の話」なんかで盛り上がったらマジでメンタルをやられる。

こっちはずっと「対象外」の人生なんだ。

僕は急いでカバンに突っ込んであったイヤホンを引っ張り出して両耳に突っ込んだ。

スマホから学生時代に好きだったバンドの曲を大音量で流す。それしかない。


僕は彼女たちから距離を取って電車に乗り込んだ。

それにしても、あの2人がそこそこ可愛く見える事に腹が立つ。

うんざりするほどの満員電車で、僕は全力で現実逃避に集中した。

電車は動き出す。とにかく早く目的の駅に着いて欲しい。


「あいつらブスだったらよかったのに・・どうせ自分には見向きもしてくれないわけだし・・」などと考えながら、最近知った新生アイドルグループの中にいる「14歳の美少女」を頭に浮かべる。


あの娘は天下取るだろうな。今その魅力に気づいているのは僕だけかもしれないけど、一般人に気づかれるのも時間の問題だろう。

あの娘に比べたら、あんな2人なんか・・・。


ガタン・・・