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めるまがアゴラちゃんねる、第047号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。
コンテンツ
「言論アリーナ」報告 2013年6月11日放送
・日本のITはなぜボロボロになったのか ─ 長老が語るIT業界史 西和彦、中村伊知哉、池田信夫(司会)
・ゲーム産業の興亡(56)
「90年代末から重要性が知られるようになるオープンビジネスモデル」
新清士(ゲームジャーナリスト)
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「言論アリーナ」報告 2013年6月11日放送
・日本のITはなぜボロボロになったのか ─ 長老が語るIT業界史
日本最大級の言論プラットホーム・アゴラが運営するインターネット放送の「言論アリーナ」http://ch.nicovideo.jp/agora。6月11日の放送は午後8時から1時間に渡って、「日本のITはなぜボロボロになったのか--長老が語るIT業界史」を放送した。
パネリストは西和彦http://www.nishi.org氏、中村伊知哉http://www.ichiya.org/jpn/氏、司会は池田信夫氏だった。
■参加者の横顔
西氏はアスキーの創業者で、80年代から日本のIT業界で先駆的な役割を果たした。今は尚美学園大学大学院教授など、教育に力を注いでいる。
中村氏は慶応義塾大学のメディアデザイン研究科教授で、郵政省の行政官、政策コーディネーター、社会プランナーなど、多彩な経歴を持つ。
司会のアゴラ研究所の池田信夫所長はNHK勤務の後で、RIETI(経済産業研究所)、GLOCOM(国際大学グローバルコミュニケーションセンター)で、IT業界と情報通信政策を研究していた。
いずれの参加者も入れ替わりの激しいこの業界に、「長老」と言えるほど長く向き合ってきた。そしてその発言は注目されている。
■成功体験への安住
日本のIT産業は、コンピュータなどの製品面、そしてゲームや、80年代までは米国に脅威となった。ソフト面でも、製品面でも2000年頃までは世界を席巻した。しかし、コンピュータでも、製品でも、携帯でもぱっとしない。そして今、米国企業が主戦場にしているパッドの分野でも、遅れをとっている。
90年代からおかしくなったと、3人は一致。西氏はアスキー、マイクロソフトでの経験かを振り返った。90年代、通信のクアルコム、システム設計のシスコの2社について、米国は戦略的に、育成を行い、他国の買収を許さない雰囲気があったという。「今言われている国家資本主義ということをIT分野ではずっと前からやっていた。もともとインターネットは米国の風土や社会システムの中で生み出されたものなのだから、日本は不利」と指摘した。
旧電電公社とITゼネコンの中で「バグを出さない」ことを下請けに強要。また下請けのソフトメーカーも育たず、革新が行われなくなってしまった。アメリカは新しい会社が次々に生まれる。
中村氏も、鍵になる企業が、選択を失敗し続けた面があると指摘。ダメになった理由を中村氏は「80年代の成功体験への安住」「国内市場への固執」「産官複合への依存」と3つ指摘という。
■主流派が必ずこける歴史
イノベーションを研究してきた池田氏は、日本はこれまでの技術延長の中で革新を試みた。80年代はそれでもうまくいったが、90年代から、パラダイムががらりと変わる状況になってきて、通用しなくなったという。
「主流派は、たいていダメになる。NTTドコモが本業のNTTを押しのけて成長した。常識にとらわれすぎると失敗する」と池田氏はまとめた。
しかし3人とも、復活は厳しいが、チャンスはあるという。批判を受けても、製品、現場の技術には光るものがたくさんある。「それを使えば、存在感は確保できるだろう。しかし、そのためには経営層が大きく変わらなければだめかもしれない」と池田氏は述べた。
「言論アリーナ」では、アゴラ研究所に加えて、いくつかのシンクタンクが協力して映像番組を提供する。アゴラ研究所は、この「アリーナ」(集会場、劇場)を、視聴者の皆さんと共に政策を生み出し、社会を変える場に発展させていきたいと考えている。
アゴラ編集部
特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(57)【特別篇】
「プレイステーション4」が抱えている課題・不安点を分析する
米ロスアンゼルスで、6月11日から13日まで、ゲーム見本市としでは、世界最大のイベントの1つE3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)が、開催された。そこでは、家庭用ゲーム機のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション(PS4)」、マイクロソフトの「Xbox One」といった今年秋に発売される新型ハードが登場することもあり、例年以上に大きな盛り上がりを見せた。今週は、特別篇として、特に、大きな話題を獲得できた、PS4が抱える課題・不安点に焦点を当てて分析していく。
■プレイステーション4がE3で、高い評価を得た理由
家庭用ゲーム機は、5〜6年周期で起きる切り替え期が最も難しく、この時に立ち上げに失敗して、シェア獲得ができなかった場合には厳しい立場に置かれる。安定的な収益を出せるのは、トップの販売台数を獲得した1位のハードで、独占的な地位を獲得しやすい。05〜06年からのトップシェアを獲得したのは、任天堂の「Wii」で、ハードの低価格、体感型コントローラ、幅広い年齢層へのアピールといった新しい性質を持ったハードが支持された。そのため、いかに1位の座を獲得するのかという広報戦が繰り広げられる。
E3でPS4が、1歩頭リードしたと考えられるのは、
(1)「ハードウェア」の販売価格が、399ドルとXbox Oneの499ドルに比べ比較的安価であったこと。
(2)既存のパッケージ販売モデルに大きな変更を加えず、特に中古販売に制限を加えなかったこと。
(3)数十億円の開発費のかかるゲームを補う形で開発規模の小さい独立系開発会社の「インディペンデントゲーム」を積極的に取り組むことをアピールしたこと。さらに、
(4)任天堂の「Wii U」の魅力的なタイトルが年末に揃わず、苦戦が明確化したこと。そのため、他社との比較で、「漁夫の利」を得た面も大きい。
■PS4が抱える4つの課題・不安点
ただし、E3はゲームのユーザーへの宣伝にスポットライトを当てた見本市であるため,ここでの評価は、年末商戦での確実な成功を保証したわけではない。むしろ不安点・不透明な点も多い。その課題・不安点を4点あげておく。
(1)PS4のような新型の家庭用ゲーム機が、今求められているのかどうかは相変わらず、不透明。豪華なグラフィックスを全面に押し出し、また、他のユーザーとのインターネット対戦に重きを置いたゲームを中心にアピールをしていたが、ゲームジャンルは戦争物、レーシングゲーム物が中心でジャンルが狭い。
コアゲーマー以外に初期に、広がる要素は見いだしにくく、また1タイトル60ドル(日本では7000円前後になるだろう)の価格設定の高さに、すでにスマートフォンなどで、無料でゲームを開始できるソーシャルゲームの敷居の低さに慣れてきたユーザーがお金を払うのかは、疑問が残る。
(2)ハードウェアの普及は、ソフトウェアよりも遅い。PS4の普及には時間がかかる。新型ハードの発売年はハードウェアの普及が進んでいないため、ソフトウェア市場の売上が下がる傾向がある。そのため、今年末から、来年末にかけて、ソフトウェア市場は苦戦する可能性は高い。SCEは市場を立ち上げるために、大規模な投資を継続する必要があるため、簡単にPS4が利益を生みだすとは考えにくい。また新ハードの発売年は、市場規模の縮小に影響を与える可能性が多い。
しかし、アメリカの家庭用ゲーム機のソフトウェア市場は、ピークの2008年の117億ドルから、2012年の67億ドルと半減している。2011年と比較しても87億ドルと大きく低下している。本来であればハードが普及した最後の成熟時期の売上は伸びることが一般的だが、スマートフォンやソーシャルゲーム市場の成長が大きな縮小要因になっている。
(3)アップルは9月には、iPhone5の後継機種の「iPhone5S」が登場するという観測が強い。また、アップルは認めてこなかったゲームのコントローラーデバイスの開発する上でのガイドラインを発表した。そのため、今年の年末商戦ではAndroid端末も含め、スマートフォンのゲームデバイス化が進む可能性がある。
アップルの場合は、新型の発表が長らく噂されながら、いまだに発表が行われないiPhoneやiPadのモニター画面をそのまま出力する「Apple TV」の発表の影響受ける可能性がある。現在のApple TVは、1万円以下であり、すでにiPhoneを持つユーザーはPS3を新規に買うよりも安い。
(4)Xbox Oneは、米国に向け、499ドルで販売する以外に、299ドルで2年間の契約縛りのある携帯電話に近いサブスクリプションモデルを採用するという噂が絶えない。Xbox Oneもオンデマンド映像サービス対応が売りになっており、PS4と戦略が近い。仮にこれが実施されると、PS4の立ち上げには、大きな影響を与える可能性がある。サブスクリプションモデルは、初期投資が大きく回収に時間がかかる。収益の課題を抱えるソニーグループは同じサービスを立ち上げ時期に真似できない可能性が高い。
■PS3の戦略に影響を与えるのは8月、9月の他社の発表
これらのことは、PS4がE3で高い評価を獲得しても年末までには、何度かその評価が変わる可能性を示唆している。今後、評価に影響与えるタイミングは、8月にドイツで行われる「GamesCom」、9月の「東京ゲームショウ」、もしくはアナウンスが行われていない9月になると思われるアップルの新ハードの発表だ。
まだまだ、PS4の立ち上げの成功には盤石な状況とは言いがたい。年末の発売までには、様々な試練に直面すると思われる。ただ、E3前、PS4の前評判は非常に悪かったが、評価を覆したことは、戦略の不足のまま発売に至り、立ち上げに完全に失敗した11年発売の新型携帯ゲーム機「プレイステーションVita」に比べて、戦略をしっかりと検討しているように感じられる。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin