めるまがアゴラちゃんねる、第050号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・言論アリーナ報告(2013/07/02放送)
ゲーム産業の興亡〜勝ち組はどこへ向かう

・ゲーム産業の興亡(60)
ユーザーのMod開発コミュニティが進めるゲームの多様性
新清士(ゲームジャーナリスト)


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・言論アリーナ報告
ゲーム産業の興亡〜勝ち組はどこへ向かう

言論プラットホーム・アゴラの運営する映像コンテンツ言論アリーナは、7月2日「ゲーム産業の興亡―「勝ち組」はどこに向かう」を放送した。ゲームジャーナリストの新清士氏を招き、池田信夫アゴラ研究所との対談を行った。

「最近のゲームはほとんど知らない」という池田氏が疑問を新氏に聞く形で対談は進んだ。

ゲーム産業は関連売上高は約1兆円。5〜6年前には数億円の売り上げだったソーシャルゲームは昨年3200億円まで急成長。これはスマホ、携帯で課金を進める簡単なゲームだ。日本の産業界で唯一の「勝ち組」と言える。

新氏はその中で、取材力、提言力で注目を集めるジャーナリスト。アゴラブックスから電子書籍で「ゲーム産業の興亡」http://www.agora-books.com/modules/booklist/bookinfo.php?id=71をこのほど刊行した。

■コンプガチャ問題

昨年話題になったコンプガチャ問題。ゲームのアイテムを高額で取引し、課金する仕組みだ。これは、ソーシャルゲームを提供する企業が業界団体を設立して自主規制に動き、経産省の管轄が行われた。問題は、落ち着く方向にある。

新氏はこの現状を説明した上で、「日本では当局が規制し、子どもが使う「おもちゃ」としてゲームがとらえられがちであることが、この問題から見えた」という。
産業育成という観点がないのだ。

池田氏はそれを受けて、NHK1983年ごろファミコンが発売されたとき、日本のテレビ界でいちはやく、取材をした経験を紹介。当時の経産省は、ファミコンの存在さえしらなかった。そしてゲームに関わる人は、どちらかというと、会社を一度辞めたなど、「ドロップアウト」した経験があった。ただしゲームが好きなことは共通していた。ソニーのプレイステーションシリーズも、同社グループの傍流の人らが偶然開発した。

「80年代以降、急成長した産業はゲームしかない。歴史の皮肉だが、国、大企業の風土ではできない、端っこから日本ではイノベーションが頻繁に生まれる。ゲームはその典型だった」と池田氏は指摘した。

■続く成長、かげりも

人気のゲーム「パズルアンドドラゴンズ」。昨年10月ころから爆発的にヒットし、「パズルアンドドラゴンズ」1−3月の売り上げが309億円、180億円の利益となった。提供企業のガンホーの幹部はそろって「運があった」というが、「1年でここまで成長する産業はない」と、新氏は指摘した。

アメリカのゲーム市場は、日本の倍だが、ソーシャルゲームは日本の10分の1の300億円。日本だけがソーシャルゲームが特異な形で発展している。「なぜでしょうか」と池田氏が不思議がると、新氏も「分かりません。明確に説明できないのです」という。小さい頃からの、カードゲームの経験、パチンコなどの射幸性のあるゲームを好む文化が影響しているかもしれないという。

ただし、日本のゲーム業界にもかげりがある。2000年代初頭まで、任天堂とソニーが世界を席巻したが、最近は厳しい。米国の開発層の熱さ、マイクロソフトのゲーム専用機の投入で、ゲーム産業には一頃の勢いがない。

「国の支援が中途半端。「クールジャパン」とかけ声だけはあるが、振り回されて終わった」と新氏は指摘した。

また国内市場は厳しい。ゲームは子ども、また20代が増える国で栄える。日本の場合、1980年代は団塊ジュニアが小学生から中学生で、また親にも余裕があった。今は少子高齢化の中で、ゲーム市場が縮小気味だ。

さらにかつてのように専用機で、詳細な画像を求めるトレンドから、スマホで簡単にできるゲームにここ数年人気が移った。「日本以外で、ソーシャルゲームはそれほどお金にならない。日本でもこの種のゲームにお金を出すのはユーザーの5%。そしてその中の月10万円前後支払うコアなファンに依存しているのが現状だ」という。

■残る可能性

ただし、ゲームの主力がスマホに移る気配を見せることで、日本企業にチャンスがあるかもしれないという。今まで世界で一番売れたゲーム専用機は任天堂DSの1億6000万台。ところがスマホは、年10億台が売れ、今後も途上国で増える見込みだ。

日本では人材不足が問題になっているという。またそうしたスマホで勝負が移ると、携帯会社、また携帯キャリアが利益を得てしまう。「新しいビジネスモデルをつくることの正念場なのではないか」と、新氏は指摘した。

池田氏は、「ゲームの歴史は、イノベーションで面白い事実を示す。日本の端っこから、イノベーションは生まれやすいということだ」とまとめた。

(アゴラ編集部)




特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(60)
ユーザーのMod開発コミュニティが進めるゲームの多様性

id Softwareが提供したユーザー向けのプログラムなどの情報は、ゲーマーを生みだす一方で、爆発的なユーザーコミュニティの形成の広がりを生みだすことになった。

例えば、「Doom」にネットワーク対戦が求められていることは間違いなかったが、対戦するために不要なネットワークのトラフィックを生みだすために、非効率なデータを作り出す問題を抱えていた。ネットワーク関連の米ノベルに在籍していたプレイヤーでプログラマの一人は、この問題を解決する方法を思い付き、プログラムを改良して、それを提供した。そのプログラマは、最終的にid Softwareで働くことになる。

その後、このModコミュニティから登場したトップクラスの技術者を、ゲーム会社が雇用するケースは頻繁に登場するようになり、Modは人材のゆりかごとしても機能するようになった。

「Doom」や「Quake」は、ユーザーとの対戦機能のおもしろさによって、多くの人々を魅了した。それ以前のゲームは、コンピュータ相手に一人で対戦するものだった。当時のコンピュータのAI(人工知能)は決して頭がよいとは言えず、ユーザーはすぐにゲームの中で勝つコツをつかんでしまう。しかし、インターネット対戦では、まったく状況が変わる。

人間同士の争いでは、より複雑な動きをユーザーは行うためだ。それは、ゲームの展開に予想がつかないおもしろさを生む。現在では、オンライン対戦機能を持っていないゲームはヒットしにくい。

■ユーザーが自由に改造することができるMod環境
カーマックでは「Quake」を発売後、さらにユーザーコミュニティを支援する強力なツールを公開した。そのため、ユーザーが開発するModはより幅が広がるようになった。Modは商用利用することを目的としない場合には、自由に使っても構わないというルールになっており、ユーザーは武器を改造するもの、対戦するマップを生みだすものなど、どれくらいのユーザーが、どれくらいのModを開発しているのかが、まったく把握することができないほど、非常に幅広いバリエーションが生み出される様になった。

データの交換はインターネット上で積極的に交換されるようになり、単にゲームを楽しむプレイヤーから、ゲームを改造することを楽しむプレイヤーまでの広がりを持ったエコシステムが形成されるようになった。当時の「Doom」や「Quake」はパソコンゲームであったために、違法コピーは比較的行いやすかった。しかし、それもこれらのゲームの普及のペースを加速化させ、コミュニティを発展させる要因にもなった。

■権利上の課題や倫理的な課題を生みだすようにもなったMod
こうした改造では、自分が住んでいる町や学校を作ることはよく行われたが、任天堂の「スーパーマリオブラザース」や「スターウォーズ」といった版権で問題があると思われるポピュラーな世界が利用されることも多かった。あまりに多様な種類のModが登場していたこともあり、眉をひそめる人は多かったが、規制をかけることは難しいものだった。

しかし、社会的に問題になるきっかけを作るようなModも登場するようになった。99年の24人もの死者を出したコロンバイン高校銃乱射事件が起きた後に、FPSは米国で社会批判を生みだすことになった。元々のゲームが相手と殺し合うという内容であるため、その暴力性がこうした事件を引き起こしているのではと指摘されるようになったのだ。

そして、すぐにコロンバイン高校を舞台にしたマップをすぐに作るユーザーも現れた。同じように9.11のテロが行われた後、ワールドトレードセンターをテーマにしたマップもいくつも開発され公開されている。そして、その映像は動画サイトのYouTubeにもアップロードされるようになった。いくらコミュニティが勝手に行っているとは言え、これらのマップを作成する倫理的妥当性の問題は、現在に至るまで引きずっている。(※1)

■id Softwareから始まったゲームエンジンのライセンスビジネス
「Quake」のゲームシステムの中核となるテクノロジーに対して、Modのような部分的な改造ではなく、本格的に同じようFPSのゲームの開発を望む企業も出てくるようになった。id Softwareは、それらの企業に対してテクノロジーのライセンス販売を始めるようになった。Mod開発者のように部分的に公開されている機能を触るだけではなく、すべてのゲームプログラムを改造して、まったく違うゲームも開発されるようになった。

この根幹のテクノロジーは「ゲームエンジン」と呼ばれる。当時は、1社が利用するためのライセンスを受けるためには、日本円で1億円といった価格設定が行われていたと言われており、非常に高価格だった。一方で、id Softwareは、その後、「Quake」のソースコードをすべて無償で公開。学術研究機関やデジタルアニメーションスタジオでも利用されるようになり、リアルタイム3Dグラフィックスを作るための基盤技術にもなっていく。

現在でも、このゲームエンジンをライセンス販売するビジネスモデルは広がっている。現在、世界中で使われている最もポピュラーなのは、05年に登場したゲームエンジン「Unity」だ。無料で利用して製品開発が可能なバージョンも存在する上に、ライセンス購入をしてもコンピュータ一台あたり1500ドルと劇的に安価になっている。

現在、100万人を越えるユーザーが利用していると同社は発表しており、1996年に登場した「Quake」と比較すると劇的に価格が下がっている。Unityの成功には、インターネットを通じた販売モデルの一般化や、ユーザー自身が所有するコンピュータの性能が上がりノートPCでさえゲームが開発できるようになるまで低価格化したことや、スマートフォンやそれに伴うiPhoneの「App Store」のようなネット流通システムで、様々な人が多くのユーザーにゲームを届けやすくなったことが大きな要因でもある。

■WindowsゲームにはMod環境が付属することが一般化
その後、数多くのWindows向けゲーム会社が発売するゲームには、Modを開発するためのツールを付属してリリースすることが一般的になった。これは、Modの開発環境を付属してユーザーコミュニティを形成した方が、ゲームそのものの寿命を長くし、ヒットを生みだしやすいと考えられるようになったためだ。

市場規模こそ、90年代後期は、家庭用ゲーム機市場の成長に比べるとパソコンゲーム市場は小さかったが、ちょっとゲームを触りたいユーザーから、本格的にゲームを改造したいユーザーまで、ゲームに向けて自分の表現したい何かを創造するための距離は近かった。

そして、その効果を実証する学術研究も現れるようになった。

(※1)9.11のワールドトレードセンターに飛行機をぶつけるModの例。元となっているゲームは、「Grand Theft Auto San Andreas」のPC版
911 WTC Attacks New York (GTA 2007)
https://www.youtube.com/watch?v=-_3KEZ6N2pA

※参考文献 フラッド・キング、ジョン・ボーランド「ダンジョン&ドリーマーズ」(ソフトバンクパブリッシング)


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin