めるまがアゴラちゃんねる、第066号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

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・ゲーム産業の興亡(77)
「艦これ」のヒットは利益を生みだしているのか?
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

・ゲーム産業の興亡(77)
「艦これ」のヒットは利益を生みだしているのか?

角川ゲームズが開発し、DMM.comが配信している「艦隊これくしょん〜艦これ〜」がヒットしていると言われている。スマートフォンでのソーシャルゲームが一般化しているなか、ウェブブラウザを使ったゲームの成功はかなりめずらしい。両企業にとって、初めて成功したソーシャルゲームということになる。

登場するのは、第二次大戦中の日本海軍の艦船で、擬人化された女の子姿になっている。それらの女の子で艦隊を作り。正体不明のカイブツと争うと言うゲームだ。ソーシャルゲームとしては、手に入る女の子姿の艦船カードを、他の船の合成して強化していく。他のゲームにない要素としては、船がダメージを負った場合に、港のドックで修理を行わなければならないという仕組がある。

ある戦略ゲームを長年開発してきたゲームデザイナーによると「海戦ゲームとしての仕組みを海戦として考えられるかどうか、ギリギリまでカットすることに成功できたゲーム」という表現を行った。そのため、ゲームシステムはそれなりの斬新さを持っているゲームと言える。

■「艦これ」は関係者によると利益を出していない
最近、「このゲームが収益を出しているのか?」という質問を受けることが多いので、筆者が把握している限りにおいて、その点について紹介しておきたい。関係者によるとDMM.comの側も、角川ゲームズの側も、赤字状態に近いと言うことのようだ。

大きな原因は、一般的なソーシャルゲームに比べて「ガチャ」と言った収益を継続的に生みだす仕組みが存在していないためだ。ゲームは、先に進めたいと感じさせる「待ち時間」に課金する方式だ。だが、ほとんどお金をかけなくても遊べてしまう。

このゲームは今年4月にサービスを開始し、リリース当初は大きくは話題にならなかった。また、サービスを受けられるユーザーの想定は2万人だった。

ところが、6月ぐらいから口コミで話題を集め、ユーザー数の登録を7月ぐらいから中止するようになった。その後、サーバを増強するに従って、希望しているユーザーに順次アカウント登録を認めていくという方式に切り替えた。10月には登録ユーザー数は、100万人を越えているが、それでも、まだゲームを遊ぶことを希望するすべてのユーザーを吸収できていないという状況だ。

■サーバ増加が追いついてない限界
サービスの開始当初、ここまで話題になることが、まったく想定されていなかったため、DMM.comのサーバ増強がまったく追いつかなかったそうだ。2万人の想定ユーザーに対して10万人のユーザーがアクセスしたと言われ、サーバ側がパンクしたようだ。これはそれまで、ソーシャルゲームのプラットフォームとしてもまったく認識されていなかったDMM.comのサービス全体のサーバ能力の限界もあったようだ。

急激に増加するユーザーに対して、サーバの増強は簡単ではない、ユーザーのデータのやり取りが2倍になり、サーバの環境をはかったからといって、コストは2倍になることはない。10倍や、下手をすると100倍に跳ね上がることが起きる。収益を上げにくいゲームシステムになっている。「艦これ」がゲームを遊びたいと考えている多数のユーザーを吸収することができない最大の理由は、サーバの急激な増築を避けたいという意図があってのことと思われる。

課金を最も行いやすい要素は、ゲーム開始直後、ドックの数は2つと制限があり、ダメージを受けた艦船の整備に時間がかかってしまうことだ。そのため、1つ1000円で買うことができる4つのドックへと拡張することに対しては、ユーザーは抵抗感がないと思われる。

ただし、その先にお金のかかる要素はあまりない。修理にかかる資材など、特定の要素を購入して使うことができる場合もあるが、必須でもない。だらだらと、萌え要素の強い艦船少女を使って、修理しては、出撃し、戦闘をおこなって帰還することを繰り返していればよい。

成功の要因は「運」と考えてよいと思われる。最近のソーシャルゲームでは「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテイメント)に見られるように、ユーザーが「ドリランド」(グリー)等の同じようなカードバトルゲームに疲れ、もう少し新しいゲームが求められていたタイミングに上手くはまったということのようだ。

口コミといったバズを意図的に引き起こすことは非常に難しいが、このゲームでは登場する艦船は、すべて声優が話すリッチな環境として提供されている。そうしたことも人気を生んだ要因だろう。

■ユーザーが継続して遊んでいる率は6割以下
ただ、やはり利益が出ていないと考えられるのは、100万人の登録ユーザーを抱えていても、実際に継続して遊び続けているのは6割以下と前述の関係者は述べている。ソーシャルゲームを連続して遊ぶユーザーが続けて遊んでいるのかは「継続率」と呼ばれるが、一般的なソーシャルゲームはゲームをインストールしてくれたユーザーは翌日には50%が二度と遊ぶことはなく、1ヶ月後には10数%しか、継続して遊んでくれないのが通常と言われている。そのため、実際には50万人以下しかゲームを遊んでいるユーザーはいないと考えるのが妥当なのだ。

収益が出しにくいゲームシステムに、多くのユーザーがゲームを遊びたいと望んでいるのに、それに答えられていないというチャンスロスは、案外とゲームそのもののブームは早く終わってしまうかも知れないと思われる部分がある。角川グループはキャラクターグッズ展開や、アニメ化などを通じて、収益化をはかる準備をしている。果たして半年あまりはずれるこのタイミングまで、ブームを継続できるのかは未知数な部分がある。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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