めるまがアゴラちゃんねる、第070号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(81)
パチンコ・パチスロの代換えになるソーシャルゲーム
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(81)
パチンコ・パチスロの代換えになるソーシャルゲーム

2008年以降のソーシャルゲーム市場の成長の理由として、考えておかなければならない点がある。パチンコ・パチスロ産業(以下、パチンコで統一する)の縮小だ。

一般的に、ソーシャルゲーム市場規模を見る上では、矢野経済研究所の予測数値が引用されることが多い。08年頃から急成長が始まり、2013年度には4256億円を超えると予測されている。2012年には3000億円前後になると予測されている家庭用ゲームのソフトウェア市場よりもかなり大きく、すでにゲーム市場の中心はソーシャルゲームにシフトしていることは誰もが認めている状態になっている。

しかし、ここ数年、家庭用ゲームは3000億円前後の市場規模が安定的に続いているため、ならば新規にどこかの市場から、ユーザーを奪っていなかれば市場成長は起こりえない。

■急激に縮小しているパチンコ・パチスロ産業
私自身は、パチンコのユーザーをソーシャルゲームが奪っているというのが実情ではないだろうかと考えている。

溝口敦『パチンコ「30兆円の闇」』(小学館文庫)を読んで、ますますその確信を得るようになった。この本は05年に発売された本だが、そのときに現在の状態が引き起こされる条件が整いつつあったといってもいいだろう。溝口氏は2011年の文庫版発売時の前書きに、発売当初の05年と実情は、ほとんど変わらないと指摘している。

パチンコの市場規模は縮小が続いている。1995年には30.9兆円、2003年にも29.6兆円と産業規模としては巨大産業だった。

しかし、2012年は19.1兆円にまで下がり続けている。ただ、他の産業と比べると圧倒的に大きい点には留意がいる。もちろん、家庭用ゲームとソーシャルゲームを合算しても7000億円強にしかならないため比較にならない。さらに他の産業を2012年度ものもと比較すると、自動車産業が52兆円、損害補償業界が7兆7500億円、アパレル業界で4兆4487億円。現実には法律的なグレーゾーンにあたる産業ながらも、突出した大きな産業であることには変わりない。

ただ、今後に対しての8月2日に公益財団法人日本生産性本部余暇創研が発表した『レジャー白書』によると2012年のパチンコ・パチスロへの参加人口は、前年比150万人減の1110万人。ピーク時だった1995年の2900万人に比べると毎年のように下落が続いている。2011年度は前年比410万人減、2012年は150万人減減少に歯止めがかからなくなっている。

しかし、問題はその内容で、2011年には18.9兆円だったことを考えると、2012年が19.1兆円ということは微増している。参加人口が減少しているにもかかわらず、売上が伸びている。これは一人当たりの売上が伸びていることを意味しており、不健全な方向に向かっていると見てよい。

■進む若年層離れとギャンブル性の向上
深刻なのが、参加人数が大きく変化したことだ。2002年と2012年の比較が発表されている。男性10代が14.8%から4.7%に、男性20代が49.5%から18.1%、女性20代が14.8%から4.7%となっている。この10年、若者層のパチンコ離れが進んでいることが読みとれる。そのため、売上の中心は、年齢が高い層に集中していると考えられる。

溝口氏は指摘している。「現在は1つの台に6万円を突っ込んでも当たらず、8万円つぎ込んでようやく当たりが出るか出ないかといった『深い』機種が主流になった。1日に8万円もパチンコにつぎ込める客をまともな人とはいえない。また1回のプレイに8万円すった客のその客のその月の生活がどうなるか、容易に想像がつく」(※1)

「パチンコは庶民の健全娯楽というが、健全娯楽として楽しむ層はとっくの昔に逃げ出している。付き合いたくとも、金銭的についていけなからだ。(中略)あちこちでカネを借りまくり、多重債務者になったところで、パチンコをやめないかぎり、数ヶ月とカネはつづかない」(※2)

パチンコ(遊技機)にどの程度の出玉率を認めるかの基準は、国家公安委員会であり警察庁という図式になっている。

溝口氏は警察とパチンコ業界の癒着は、よく知られているとおりであり、すでに5000円や1万円あるから、気軽にちょっと遊ぼうかという雰囲気ではなくなっているという。マニア化されたユーザー(中毒状態もしくは、その予備軍)は来店者の3割いると指摘しているという。それぞれの機種のギャンブル性は高くなっており、投入金額による時間消費が早くなっているという。

■パチンコのライトユーザーを取り込んでいる?
ソーシャルゲームとパチンコを比較した際によくでる疑問は、お金に換金できない遊びにユーザーは満足するのか? という点だ。

しかし、気軽に遊ぶユーザーがお金を獲得することを目的とせず、パチンコ的に代換えできる刺激を得ることで満足する、十分なのではないだろうか。無料で遊べる範囲が広かったり、アイテム課金をするにしても1度に数万円も支払う必要のないソーシャルゲームで満足するとしたら、特に「健全娯楽として楽しむ層」のシフトが起こっていても、不思議な点はどこにもないように思える。

あるソーシャルゲーム会社の人が1年あまり前に述べていた。「我々はパチンコユーザーを狙っています」と。


※1 Kindle版 No.34当たり
※2 Kindle版 No.48当たり


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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