私の前髪は伸びるのが早い。
1ヶ月もすれば簾のように視界に日影を作ってくれる。
生き急ぐように伸びる前髪は、同時に安堵をもたらしてくれた。 

月に一度の美容院はもう両手で数えるくらい来ているのに、
オーダーや世間話に緊張の糸が張り続ける。
美容師さんが手際良く痛んだ毛先切り揃え、簾のような前髪に鋏を入れる。
日陰に光が差して日向になる。

こんなに怖かったっけ。
ビルの高さから感じる閉塞感。
とめどなく押し寄せる人の波。
その波が太陽に反射しているせいか、眩しくて痛い。
日陰がなくなってしまった私の視界は私の靴にピントを合わせていた。

横断歩道で足を止める。
左前のCDショップに視界を移す。
大きな看板にピントが合わされる。

好きなバンドの広告だ。
新譜が出るらしい。
きっと大丈夫だって思えた。