猪瀬直樹ブログ
[MM日本国の研究855]「黒船の恐怖が大日本帝国を生んだ」
⌘ 2015年07月16日発行 第0855号
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■■■ 日本国の研究
■■■ 不安との訣別/再生のカルテ
■■■ 編集長 猪瀬直樹
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「黒船の恐怖が大日本帝国を生んだ」(「戦争・天皇・国家」序章より)
強い国が弱い国を侵略し、ときには相手国を滅ぼす弱肉強食の世界―――。
それが、19世紀から20世紀にかけての国際社会の現実であった。
中国もインドも欧米列強の餌食となり、アジアで植民地化を回避できたのは
タイと日本だけであった。
日本人が最初に恐怖のどん底に突き落とされたのが黒船来航である。
1853年、アメリカのペリー提督が四隻の軍艦を率いて浦賀沖(神奈川県横須
賀市)に現れ、開国を要求してきた。江戸幕府は上を下への大騒ぎの末、翌18
54年、7隻の黒船に威圧され、日米和親条約を結び、250年続いた太平の世
は幕を閉じた。
近代国家となった日本は欧米列強の侵略を逃れるため、富国強兵・殖産興業
を国是に掲げ1894年の日清戦争、1904年~05年の日露戦争とたてつづけに勝利
し、列強の仲間入りを果たすことで窮地を脱することができた。
しかし、そのすぐ後に日本人を再び震え上がらせる事件が起きたことはあま
り知られていない。それが「白船」の来航である。
黒船来航から半年ほど経った1908年。東京湾沖合にアメリカ大西洋艦隊が姿
を現したのだ。船体を白いペンキで塗りたくっていたので、グレート・ホワイ
ト・フリート(偉大なる白船)と呼ばれていた。
アメリカ大西洋艦隊は旗艦コネチカットやカンザスなど十六隻の戦艦から成
り、日本の連合艦隊の倍以上の強大な陣容であった。日本人は恐怖におののき、
アメリカににらまれないようにと、国を挙げて大友好キャンペーンを繰り広げ
たのである。
白船が入港した横浜港には市内の全小学生が動員され、日米両国の小旗を振
って万歳を連呼した。政財界や軍部、学会などが連日、歓迎行事を開催し、司
令官や艦長ら艦隊幹部をもてなした。3000人の水兵たちを慰労するため、横浜
から新橋までの臨時列車を運行し、英語のできる学生たちを案内に付けて浅草
や新橋などを観光させた。
新聞は白船歓迎の記事一色であった。朝日新聞は「ウエルカム!」のタイト
ルで英文の社告を載せた。一面で「米国艦隊万歳万歳万々歳」と大見出しを打
ってアメリカに媚びる新聞すらあった。
そんな強大なアメリカと、あらかじめ勝ち目がほとんどないとわかっていた
戦争を始めたのは、白船来航から三十余年後の1941年である。日本は真珠湾攻
撃で勝利したものの、ミッドウェー海戦以後は敗北に敗北を重ね、B29によ
る空襲によって帝都東京をはじめ主要都市が廃墟と化した。最後は広島と長崎
に原爆を落とされ、1945年8月15日に敗戦を迎えたのである。
今の日本人には実感が希薄だが、戦前の日本人は黒船来航から原爆投下まで
90余年にわたって生存そのものを脅かされ、「欧米列強の植民地になるかもし
れない」「列強に滅ぼされるかもしれない」という恐怖のなかで生きてきた。
黒船来航の恐怖は、日本列島に住む人々を一君万民の「ミカドの国」、天皇
制国家である大日本帝国へと統合する駆動力となった。黒船来航とともに尊王
攘夷運動が盛り上がり、さらに尊王開国へ180度方向転換するという重大な
国家意思の決定をおこなった。
ところが、大正時代(1912年~25年)半ばから、国家としての意思の統合機
能が失われはじめた。軍部を含めた官僚機構が縦割り化してそれぞれの部局ご
とに暴走し、アメリカといよいよ戦争をするという重大な局面に至って、国家
としての意思決定ができない状態に置かれてしまっていたのである。
残念ながら、今の日本もその敗戦構造をいまだに整理せずにいるため、重大
な局面での意思決定のあり方を突き詰めて考えていない。
戦後70年を機に戦後史をテーマにした本が数多く刊行されているが、日本の
現状を凝視するためには敗戦から後の「戦後レジーム」を見るだけでは不十分
である。そうした近視眼的な思考では、日本の抱えている根本的な問題を解決
することはできない。
むしろ日本が近代国家を成立させた明治維新から150年余りの「黒船レジ
ーム」で見たときに初めて、日本という国の現在の姿がくっきりと立ち上がっ
て来るはずである。
この論稿では、黒船来航から現在に至る日本の近現代史の重要なポイントを
振り返ることから、現在の日本の国難について考えてみることにしたい。
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