⌘                    2015年09月24日発行 第0864号
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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  このサロンは、戦前・戦後の知識人や事件を参考図書と共に取り上げ、学
  べる参加型のオンラインサロン。激動の昭和時代、確かにあった知識と経
  験を、現代の視点から再び読み解き語ります。

  憂国の視点を持ちつつ安直な国家批判や既得権益批判は決してしない、作
  家・猪瀬直樹ならではのファクトとエビデンスに基づいた批評と、現代に
  活かす前向きな姿勢を保つ、日本の課題を考える現代の教養塾です。

  既存のメディアとは一味違う、新しい活字体験と思考体験をお約束します。

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 集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法制が参議院で可決されたが、国
民の間には理解が深まっているとは言いがたい。その根源には何があるのか。
 猪瀬直樹は先月発売された「サイゾー」(9月号)のインタビューで「日本
は半主権国家のまま」と題して語っています。

「政治家が口を閉ざす日米関係の正体」

――猪瀬さんは『東條英機 処刑の日』(文春文庫)でマッカーサーらによる
日本国憲法制定の過程を克明に描き、田原総一朗さんとの共著『戦争・天皇・
国家 近代化150年を問いなおす』(角川新書)では日本国憲法の成立過程
を含めた日本の近現代を論じておられます。そこで、日本国憲法がどのような
成立過程を経ているのか、あらためてお伺いしたいと思います。

猪瀬 (日本国憲法制定における)アメリカの目的は日本の武装解除だったわ
けです。それと、その後の占領統治。連合国軍最高司令官のマッカーサーは、
そのために天皇を残しておかないといけないと考えていた。一方、当時の外相
だった吉田茂をはじめとする日本人は明治憲法の天皇大権を維持したいと考え
ていた。

――日本側の憲法草案(松本試案)には、天皇大権がそのまま残っていました。
猪瀬 当時の日本人の考えでは、それ以上のことを思いつかなかったんだね。
それに、吉田茂ら日本人は世界情勢に対する認識が薄かった。戦争に負けたこ
との認識そのものが薄かったとも言える。松本試案でいけると思っていたわけ
だから。でも、それじゃ天皇は救えないよ、という認識がマッカーサーにあっ
た。その後はこの本(『東條英機 処刑の日』)に書いてある通り、マッカー
サーは来日してからすぐに天皇を残すために裏工作を行って、その結果が天皇
との有名なツーショット写真だった。そこでマッカーサーは「テル・ジ・エン
ペラー(天皇に伝えよ)」と通訳に告げて、国際世論の厳しさを話している。
つまり、世界的には日本の元首である天皇に戦争責任を問うべきだ、とする声
は大きい、と。一方でマッカーサーには、天皇制をなくしたら日本が大混乱に
陥るだろう、という予測があった。だから天皇制を残そう、と。そのほうが圧
倒的に占領コストも安く済む。東京で勤務した経験もあるから日本のことをよ
くわかっていたんだね。

――戦勝国が天皇を起訴するかどうかを決める極東委員会が開かれるのが、昭
和21年の3月6日でした。
猪瀬 それまでに、早く憲法を作って間に合わせなければいけなかった。本当
にぎりぎりで間に合って、4月4日に天皇は不起訴になった。その後、4月29
日の天皇誕生日に東條英機らA級戦犯28人を起訴するんだね。そして東條らの
死刑執行が行われるのが今上天皇の誕生日の(昭和23年)12月23日。この日付
の作り方も、非常によく考えられている。

――まさに『東條英機 処刑の日』で猪瀬さんが書かれていたことですね。こ
のような過程を経て成立した日本国憲法を、「押し付け」と日本人が表現して
います。
猪瀬 でも実際には、むしろ、「日本の憲法は素晴らしい」なんて言ってる人
が圧倒的に多いと思うよ。彼らは憲法の制定過程を知らないで言っているので
はないか。つまり、敗戦国の立場、戦争に負けたという認識があまりない。だ
から僕は「戦後日本はディズニーランド化している」と言っているのです。

――防衛はアメリカに任せっぱなしにして、日本は思う存分平和を謳歌してい
たから「ディズニーランド」だったと。
猪瀬 戦争に負けたということは、主権を奪われたということだという意識が
ない。占領下で主権がないところで作られた憲法だから、「押し付け」も何も
ないんだよ。日本はサンフランシスコ講話条約でとりあえず独立したけれど、
基本的には半主権国家のままだからね。

――そこが認識されていないわけですね。だから議論がかみあわないのでしょ
うか?
猪瀬 先日『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)でも話したんだけど、例えば
道路交通法でいえば、時速40キロ制限になっているところを、実は我々は60キ
ロで走っているわけだ。そうでないと渋滞してしまうから。ここで言う「40キ
ロ制限」が憲法だけど、現実には我々は60キロで走っているわけだ。湾岸戦争
の後、PKO法をつくったり、海賊対処法を作ったり、インド洋で給油をした
り、サマワで給水活動をしたりしている。これは全部60キロ。集団的自衛権の
行使については、それを今度は80キロにスピードを上げてほしいとアメリカに
言われているわけだ。20キロオーバーなら捕まらなくても、80キロ出すと捕ま
ってしまう。今、憲法学者が憲法違反だと言っているのは80キロの話。でも、
実際には60キロで走っているという現実をきちんと認めていないから、80キロ
が妥当かどうかという議論ができない。

――議論がかみあうようになるためには、憲法の成立過程やその後の国際社会
がどのように作られていったのかをよく知ることが重要だということでしょう
か。
猪瀬 要は、日本は今もアメリカの属国であるということについての現状を認
めないといけないんです。だからこの議論は難しい。12年にペルシャ湾で機雷
掃海の演習があって、30カ国くらいが参加している中、日本は参加していない。
とりあえず船一艘浮かべておけば、アメリカに対するカードになったはず。代
わりに、沖縄をはじめとした在日米軍基地や、米軍の管制下にある空域の一部
返還など、日本の負担軽減について交渉があってもいい。そういう駆け引きが
できないから、すぐに「戦争か平和か」という二元論になってしまう。ペルシ
ャ湾に船を浮かべておくことひとつでさえ、今の特別措置法では対応できない。
インド洋の給油も特別措置法、サマワも特別措置法で対処してきたのは、憲法
の問題を回避して、その都度、当面のアメリカの要求に融通を効かせる便法だ
った。

――岸信介、中曽根康弘といった憲法改正を目指した政治家も、首相になって
からは結局改正を行いませんでした。
猪瀬 日本で憲法改正はできないでしょう。だから解釈改憲にした。だけど、
これが問題なのは、アメリカの属国の度合いが高まるだけなんですよ。アメリ
カに何かを要求して勝ち取っていれば、言うことを聞いてもいいんだよ。不平
等条約だった日米安保を改定した岸さんは勝ち取ったように見えるけど、実は
整理しただけ。今回の安倍さんも、アメリカの言うことをきちんと聞いて整理
している。ところが、属国の立場は向上していない。中国の軍事費の膨張と、
アメリカの軍事費の削減という大きな情勢の変化の中で、日本がアメリカの軍
事費を肩代わりしなければいけない状況がある。安倍さんのイニシアチブとい
うよりは、アメリカの要求にどう答えるかというところが本当のところなんで
す。それを国会で議論できずにいるところが問題なんだよね。

――「国民の理解が進んでいない」と安倍首相は言っていましたが、そもそも
説明すると日本がアメリカの属国だとみんなに知られてしまう。
猪瀬 要求を飲まされているということになってしまうからね。つまり議論を
する前提ができていないんだ。日米関係で言えば、日本は黒船がやってきて以
降の近代化のプロセスの中で“黒船レジーム”というべきものに支配されてい
て、そこから独立しようとして、さんざん苦労し、そして戦争に負けてしまっ
た。この流れを理解した上で、現在の議論が出てこないといけないんだけど、
ほとんど今の人たちは戦後レジームしか知らなくて、しかもディズニーランド
の中にいる。

――「押し付けだから変えよう」とか「平和憲法だから守ろう」という物言い
は、短絡的すぎるということですね。
猪瀬 とにかく議論の土壌ができていない。そのための材料を、メディアもも
っと提供し続けなければいけない。
                    (「サイゾー」(9月号)より)

           *   *   *

「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp

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