――LINEがここまで急速に伸びた理由についてはどうお考えですか?
森川 NHNの社名は“Next Human Network (ネクストヒューマンネットワーク)”に由来しており、コミュニケーションを軸にゲームや検索などさまざまなサービスモデルを考えてきました。
その中でスマートフォンが急激に伸びてきたという状況があり、そこにフォーカスを当て、コミュニケーションを考えていこうという中で出てきたのがLINEです。開発にあたっては、今までの遺産を引き継がず、スマートフォン単体で完結するようユーザーインターフェースを含めシンプルに考えたところがよかったのかと思っています。
また、開発者に外国人がいたので同時に英語版も出したのですが、そのおかげで海外にも広がりました。ある意味運の要素もありながら、それまで積み重ねたいろいろなノウハウがようやく花開いたというところかと思っています。
――アジア、ロシアに続いて東欧でも利用者が増えているようですが、今後の海外対応については?
矢嶋 もともとは英語のみだったのですが、トルコなど利用者が伸びているところでは現地語対応しています。現在は8ヵ国語に対応していますが今後も対応言語を増やしていきます。
――アジアでシェアの多いBlackBerryに対応する予定はありますか?
矢嶋 はい。時期はまだ申し上げられませんが準備はしています。
――スタンプも好評ですね。
森川 スマートフォン上のサービスについては、フィーチャーフォンでiモードが成長した時と同じような変遷をたどるという仮説を立てていました。日本のコミュニケーションサービスでは絵文字やデコメ的なものがフィットするのではないかという仮説のもとにスタンプを出したところそれが当たりました。
そのうえで単なるかわいいキャラクターではなく表現にはこだわりました。思い切って自社のキャラクターの顔を歪めたりなどしたことで自分の気持ちを伝えやすくなり、これが大きなヒットにつながったのかなと思っています。私もムーン係長をよく使っています(笑)。
――海外でも評判がいいようです。
森川 はい。特に台湾ではスタンプのキャラクターがタレント並みの人気になっているようです。これは私の仮説ですが、象形文字である漢字を使うアジア人は、意味よりも見たままで表現するというコミュニケーションが文化的にあると考えています。
――広告の引き合いも多いのでは?
森川 LINEはFacebookやTwitterと比べて友だちとの距離がより近いサービスです。街で声をかけるような感覚でしょうか。あくまでコミュニケーションが中心であり、メッセージによるコミュニケーションを妨げる要素がないよう慎重に考えています。やろうと思えばもちろんいろいろな手段はあるのですが、1日に何度も声をかけられるとイメージダウンでしょうし、公式アカウントも含めコミュニケーションツールを単純な宣伝媒体として使うつもりはありません。
内部的なガイドラインを設け、メルマガやTwitterとは違う企業とユーザーの新しい良質なコミュニケーションスタイルをつくろうと各社とその方法について慎重に模索しているところです。
――公式アカウントについては?
森川 いろいろやってきた中でノウハウはたまってきましたが、まだ使い方の正解がどんなものかはわかりません。タレントさんの中には自分でチャットイベントを仕掛ける人もいらっしゃいますし、まだまだイノベーションが起こる可能性はあります。LINEアイドルなんかも出てくるかもしれませんね。
矢嶋 時間制限でユーザーからのメッセージを受け付ける“オンエアー”機能は盛り上がっています。たとえば中川翔子さんが拾ってきた猫の名前を募集したときは1時間に10万件の書き込みがありました。いわゆるTwitter的な双方向とは違いますが、ツールとしてはおもしろいと思っています。
――LINEゲームについて教えて下さい。
森川 やみくもに増やすのではなく質のいいものに絞って、まずは内部タイトルと一部のパートナーのものを年内は着実に出していきたいと思っています。
――ハンゲームとの整合性は?
森川 今後スマートフォン向けゲームはLINEゲームに集中させていきます。いままで提供してきたもののなかでも質のいいものを絞ってLINEゲームで出していくつもりです。
――FacebookやTwitterなど他サービスとの連携を売りにしているところも多いですが、LINEは独自路線を貫いている理由は?
森川 その理由は明確で、クローズドな関係にオープンを入れるとそもそもクローズの意味がなくなるからです。
LINEは電話帳そのものが人間関係という考え方ですので、電話帳に忠実に従うというのが本当の意味での関係性です。そこから増えたり減ったりするとそもそもなんだろうということになってしまいます。ですから既存のlivedoorやハンゲームのIDとも連携させていませんし、だからこそ成長したと思っています。もっと言えばそうじゃなくなると成長は止まると思います。
――電話帳ベースということで、望まない人と友だちになってしまうといった問題もあるようですが?
森川 望まない人と友だちになってしまうケースというのは基本的に少ないと思いますが、一方で、誰かと電話番号を交換したのを忘れて出てきて困るという話もあると思います。LINEでは“プライバシー管理”設定で、誰かが電話帳連携設定をしてLINEを使い始めたときに、自分が自動的に友だち登録されないようにできます。
また、電話帳の友だちを自動的にLINEに追加されないようにしたりすることも設定できますので、ユーザーの皆様にはこういった機能があることを今後も定期的に周知していきます。
――電話番号がなくても友だち登録できるID機能には賛否両論ありますが?
森川 ID検索機能は、基本的にどんなSNSでもあるものですし、海外の友人など電話番号登録できない人とIDを使って友だち登録できるといった利点もあると思います。また、基本機能としてユーザー自身でID検索をさせないという設定もできます。ただ未成年保護の観点から、異性との出会いなどのリスクを低減することが必要だと考えています。具体的には、不特定多数にIDを開示したりしないよう注意喚起を行なっているほか、そういった目的でIDを公開しあう“LINE非公認”サービスの取り締まり、アプリレビュー欄の削除要請などを行なっています。また、キャリアより年齢確認情報の提供を受け、未成年ユーザーに限りID検索制限を設ける等の取り組みを今後推進していきます。
――キャラクターグッズが評判ですが?
森川 はい。お話はたくさんいただきます。今後ガチャガチャ、シール、ソフビは展開はしていきますが収益の柱にしていく気はありません。品質が良くお客様がよろこんでくださるものを提供していきたいです。
――将来的な展開について教えて下さい。
森川 先日発表した“LINE Channel”と、それにともなうひとつひとつのサービスをきちんと出すことを最重要と考えています。年内はまずそれをしっかりやっていきます。
もうひとつはユーザー数1億人を目指すということになると月に1000万人が目標となるので、海外、なかでも米国・中国での展開を強化することです。そこから先はまだなにも決まっていません。まずはこの2つをきちっとやるのが重要だと思っています。
――当面新しいサービスは考えていない?
森川 まだ“LINE Channel”が出ていないのでなんとも言えないのですが、リリース後の状況を見て判断ということになるでしょうね。仮にブレイクして数字が伸びればより強化することになるでしょうし、問題があれば改善するでしょう。現在のところそれが出るまでは特に新しいことをやるというのは決まっていないですね。
■プロフィール
森川亮 代表取締役社長(写真右)
日本テレビ、ソニーなどを経て'03年にハンゲームジャパン(現NHN Japan)入社。'07年10月より現職。
矢嶋聡 ウェブサービス本部事業戦略室シニアマネージャー
マーケティングコミュニケーションチームでLINE担当のマネージャーを務める。