■音楽は素人、DJもしたことがない。それでもつくれた理由とは?
実を言うと、DJはもちろん音楽も素人なんです。もともとは半導体エンジニアで、大手企業や会社の先輩が立ち上げたベンチャーで音源チップの設計をしてました。2005年に仙台事業所を立ち上げ、東北出身者を中心に採用を進め事業を拡大していたのですが、2011年の震災の影響で業績が悪化し、仙台から撤退せざるをえなくなりました。被災地支援に多くの方が訪れる中、我々もこの地に留まり雇用を守らねばと思い、このとき仙台の地で起業に踏み切ります。震災の復興とは関係ない業務でしたが、自分の経験を生かして、仙台に残るすべを見出さないといけないと思いました。
前職の音源チップ半導体での経験もあり、音をすばやく出す、再生速度を変える、複数の音を同時に出して音を混ぜるなどのノウハウはありました。これらの要素技術を組み合わせれば「ポータブルDJ機器がつくれるのでは?」と。マーケット規模は未知数であるものの、技術的な側面から見て誰もがつくれるものではなく、ベンチャーならではのニッチ市場だと考えました。スマホのDJアプリはすでに数多くありましたが、 ジャックがひとつしかないため、スピーカーへ出す音とヘッドホンに出す音を分離する事ができない。つまりこれでは本格的なDJができないのです。本格的にDJをやるなら最低でも ラインアウトとヘッドホンアウトの2系統を持つ専用ハードウェアが必要で、そういった製品はうちのようなハードとソフトの両方のバックグラウンドがあるチームでないとイチからつくるのは難しい。 ベンチャーとしてはチャレンジしがいがあるんじゃないかと思いました。
■ハードウェアスタートアップならではの苦労体験も
ハードウェアで苦労したのはすべての部品を自前でつくることができないというところ。たとえば液晶パネルのような部品は小さなベンチャーでは専用のものはつくれないため、“ありもの”を使うしかない。ありものを使ってカスタム品をつくろうとすると、どうしてもその仕様にたずさわる問題が発生します。たとえば、ニンテンドーDSのように液晶をタテに並べた製品はありましたが、ヨコに並べた製品は世の中になく、そこには製品のサンプルをつくるまで誰も気づかなかった問題が潜んでいました。それは液晶の視野角の問題です。液晶パネルまでの配線距離を最短にするため、左右のパネルを上下反対に配置する形でサンプルをつくったのですが、実際に点灯させてみると左右の液晶パネルの視野角が逆方向を向いてしまい、どの角度から見ても両方の画面を同時に見れないという致命的な問題が発生しました。 結局基板をL字型に設計しなおし、パネルの方向をそろえる事で解決しました。
■世界のモンスター社とライセンス契約
そうして完成したのは2012年末。ただ完成してもノーブランドですし、売り方のノウハウも持っていないので苦労しました。転機が訪れたのは2013年3月のSXSW(サウスバイサウスウェスト)に出展した時です。斜め向かいにモンスター社のブースがあって、その時はそんな巨人と何かできるとは思っていませんでした。すると、モンスター社のノエル・リー社長がセグウェイに乗って現われて、私が手にしていたGO-DJを見て、「なんで、それを持っているんだ」と言うんです。実はすでに製品を知っていて、目を付けていたと。彼らはヘッドホン、ケーブル、スピーカーなどは持っていましたが、中核になる音を鳴らすハードウェアを探していたんです。
そして、そのままサンフランシスコに来いと……。疑心暗鬼な部分もありましたが、本社に連れて行ってもらって、熱意と本気度が伝わってきました。交渉は難航しましたが、結果、ライセンシー契約ができました。彼らのブランド名を使って、売っていいという契約です。現在、海外は12ヵ国で販売しています。
今後はより露出を強化していきたいです。クラブで回すのも良い。仲間内で音楽を楽しむためとして、夏なら海岸に持っていく、またバーベキューの会場で、また車載オーディオで設置するなどの使い方も提案しています。
『MONSTER GO-DJ』(発売中)
●JDSound(販売 永山)
●実売価格 6万円前後
●SPEC
ディスプレー 液晶(320×240ドット)×2
オーディオ端子 ライン入出力、ヘッドホン端子、マイク入力
インターフェース ミニUSB、SDカードスロット
容量 内蔵メモリー4GB、SDカード(最大2TB)
バッテリー駆動時間 12時間(液晶消灯時24時間)
サイズ/重量 250(W)×66(D)×16(H)mm/約286g
■関連サイト
MONSTER GO-DJ
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