逆境でもチャンスをうかがい、挑戦する／株式会社ワーナーミュージック・ジャパン 荒木理恵子さん【前編】
荒木理恵子（あらき・りえこ）／株式会社ワーナーミュージック・ジャパン 邦楽統括事業本部 企業提携推進室 室長
広告代理店で音楽事業に関わった後、31歳でワーナーミュージック・ジャパンに入社。音楽ビジネスと企業プロモーションを橋渡しする役を担う。夏木マリさんが編集長を務める『NATSUKI ROCK-WHAT IS LUXURY?-』の立ち上げ・運営にも携わる。
■仕事人生のスタートは、思いもよらぬ肩書きから
「CDが売れない」と言われ、各レコード会社が新たな経営の舵とりを求められる時代。そんな中、「CD以外での音楽ビジネスで収益を上げる」という新たなチャレンジを会社で任されているのが荒木さんだ。
もともとは、大手広告代理店で音楽事業に8年間携わっていた。大学時代にストリートダンスサークルを創設、数百人規模のイベントや舞台を手がけ、「イベントを裏方で仕掛けるのは面白い」と感じたことが、今の仕事の原点。
「それなら広告代理店かな」と漠然と考え、大手広告代理店に入社。ところが最初の配属は、本人の希望とは異なる秘書室だった。
「最初は『なんで私が秘書に？』と思いました（笑）。でも文句ばかり言っても仕方ない。求められた仕事を一生懸命にこなしつつ、部署異動のチャンスをうかがっていました」
そのチャンスは、早くも入社1年後に訪れる。社内勉強会で音楽事業部の部長と面識ができ、直談判して自分自身を売り込んだ。そのやる気が認められ、念願の音楽事業部に配属となったのだ。
■主催イベントに集客10人......失敗しつつ、がむしゃらに働いた時代
広告代理店の音楽事業部が果たす役割は、音楽アーティストと企業のマッチング。ライブツアーやイベントのスポンサー募集に始まり、企業CMでの楽曲提案や、時には音楽アーティストの育成にも関わる。
「学生時代に思い描いていた仕事に近い内容でしたし、夢中で働きました。会社に3日連続で泊まったことも（笑）。仕事の内容は、言葉で教わるより実践のなかで学んでいく感じでしたね」
念願の部署で働けるというモチベーションと若さで激務をこなしていたが、当初は失敗も多かったという。
「私が企画した音楽イベントで、2500人規模のライブハウスにお客さんが10人しか入らなかったこともありました。さすがにスポンサーの企業に面目が立ちませんでしたね。今ならもっと会場に見合ったブッキングや集客プランを立てられますが......」
その時は落ち込むが、気持ちを切り替えて次のチャンスを探す。秘書業務から転属した時のように、荒木さんは持ち前の明るさを武器に、体当たりで音楽事業のキャリアを積んでいく。
■「リスクを背負って音楽に関わりたい」と転職を決意
荒木さんの2度目の転機は、勤続10年目、31歳の時に訪れる。音楽配信の強化を狙う携帯キャリア会社の仕事を担当し、音楽業界との連携が今まで以上に強くなったことがきっかけだった。
「音楽ビジネスにより深く関わるためには、『企業側の代理人』である広告代理店では限界があると感じるようになりました。もっとアーティストに寄り添って音楽に関わり、金銭的にも精神的にもリスクを背負った挑戦がしたくなったんです」
長年勤務した広告代理店は離職率も低く、女性が長く働くには理想的な環境だった。結婚して子どもができれば、時間の融通がきく部署に転属もしやすい。それでも新たな挑戦がしたい。荒木さんは、レコード会社のワーナーミュージック・ジャパンに転職を決意した。
【後編に続く】
（取材・文／編集部・田中）