2015年10月10日(土)に志木市民会館パルシティでのプレビュー公演を経て、10月15日(木)に公演初日を迎えたミュージカル『ボーイバンド』。キャストサイズチャンネルの『平野 良のおもいッきり木曜日』にも出演していただいた彼らがどのようなステージを作り上げたのか。ここでは公演初日のステージレポートをお送りする。

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圧倒的な密度で描かれる
FREEDOMが駆け抜けたスターダムへの2年間

 10月15日(木)、ミュージカル『ボーイバンド』公演初日を迎えたよみうり大手町ホールには、平日ではあるもののほぼ満席の観客が詰めかけていた。定刻通りに開演すると、よみうり大手町ホールはその瞬間から“TOKIOドーム”に変わった。
 5人組ボーイバンド(アイドル的な人気を集める男性ダンス&ボーカル・グループ)FREEDOMの記念すべきドームライブから、この物語ははじまる。
 センターにはグループの顔でリーダーのソースケ(平野 良)、隣には作詞・作曲を担当するグループの柱・リュウ(大山真志)と、中性的なルックスと天真爛漫で心優しいムードメーカーのサクヤ(碓井将大)。左右の端には、一歩引いた視点でグループ全体を見守るゲン(味方良介)と、マイペース
なカツミ(藤田 玲)。時には客席を煽り、時には互いにアイコンタクトを交わしながら、この舞台のために用意された楽曲「Setting Off~旅立ち~」を披露する。
 華やかで楽しげな空気のなかで曲が終わると、ファンに向けて伝えたいことがあると突然メンバーが告げる。結成から2年でトップスターに登り詰めたFREEDOMの結成から初ライブ、リリースしたCDが快調にヒットを飛ばし、天狗になっていく過程。メンバー同士、あるいはプロデューサーとの衝突や、ショウビジネスの世界の裏側にある闇や誘惑なども含めた紆余曲折が明かされていく――というのが、本作の大きな流れだ。

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 FREEDOMの歴史は、豪腕プロデューサー、リチャード入賀(新納慎也)が開催したオーディションからスタートする。3枚目のアルバムを出すまでは、どれだけ曲が売れても報酬は上がらず、恋愛もセックスも禁止。そして社会生活に関する仕切りの一切は、リチャードが管理するというメチャクチャな契約条件が提示される。その変わり、3枚目のアルバムが発売されてからの報酬は歩合制で、必ずスターにするという言葉を信じてメンバーは契約書にサインする。契約を済ますと、早速ダンスレッスンがスタート。素人同然のFREEDOMに苛つきながらも指導しているのは、振付師の立花アンリ(蒼乃夕妃)。レッスン風景をマネージャーの織辺征人(伊礼彼方)がタブレットで撮影しているところなどは、現在の日本の状況をよく表したガジェットの使い方だろう。

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 「最底辺からのスタート」とリチャードが言う初ライブの会場はなんと大手町女子少年院。見事にライブを成功させて勢いをつけた彼らは、徐々に会場を大きくしながらのライブ、宣材写真やプロモーションビデオの撮影、CDのリリースと多忙な日々を過ごす。かなり強引ではあるもののリチャードの判断は的確で、FREEDOMは着実にブレイクへの道を歩き始める。その裏にはスタッフたちの苦労(TV局プロデューサーへの営業、グッズの制作・監修など)もあるのだが、それは客席からは観られてもFREEDOMのメンバーは知ることはない。メンバーのなかにはどんどん調子に乗って天狗になったり、寄せ集めで組まされただけのメンバーと四六時中顔を突き合わせる仕事漬けの日々に不満を漏らしたり、売れれば売れるほど不満が募っていってしまう。さらに恋愛禁止の制限やプライベートな時間が持てないストレスが、彼らの心を余計に荒れさせて、メンバー同士の関係も徐々にギクシャクしたものになっていく。

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 とくに、最初からうまの合わなかったソースケとリュウの対立は決定的なものになってしまう。元ソロ歌手で、グループの顔を自負するソースケと、全部の楽曲を作っているクリエイターでもあるリュウは、ステージ上で自分がより目立ちたいという競争心を現すだけに留まらず、お互いに足を引っ張り合いまでするようになってしまう。それは、メンバー同士の関係だけでは収まらない。強引すぎるリチャードのやり方への反感は、FREEDOMを誰にもコントロール不能な状態にまで追いやってしまうのだ。
 華やかなステージの裏側には不満や衝突があり、隠しきれなくなるとスキャンダルとして世間に晒されてしまう。そんな流れを、時間の経過と合わせてうまく見せているのが、スクリーンに映しだされる芸能ニュースなどの映像だ。テレビ番組のアナウンサーや取材にやってくる記者(東啓介KENが担当)の短いセリフで、FREEDOMが置かれている状況が笑いも交えながら簡潔に説明されることで、非常にテンポよくまとめられている。


 また、時間が経過するということは、FREEDOMの曲も増えて、パフォーマンスもレベルアップしていくということでもある。最初こそ簡単なステップが中心の「涙のリクエスト」や、誰でも真似できるような振り付けがある「恋するフォーチュンクッキー」を歌っていた彼らが、ダンスを魅せ、しっとりしたバラードの世界観を表現するようになるという変化も見どころだ。そして曲とダンスの変化に合わせて注目したいのが衣装。いかにもアイドル然とした統一感のある衣装から、メンバーの個性を活かした別々のものが用意されるという変化は、FREEDOMのプロジェクトにかけられている予算の変化などもうかがえる。アイドルではなくアーティストとして見せたい、見られたいというプロデューサーやメンバーの意図も伺えるポイントだ。もちろん、そういったグループとしてのパッケージングの仕方や成長だけでなく、メンバー同士の関係性が表出するのもライブシーンだ。たとえばソースケとリュウの軋轢は、かなり早い段階から兆しを見せているので、そこに注目しても面白いかもしれない。

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 場面ごとに各メンバーにスポットが当たり、楽曲選びもストーリーの流れを踏まえたものになっている。曲によっては、ソースケやリュウ以外のメンバーがメインボーカルを務めることもあるので、5人それぞれの歌声の魅力も堪能できる。そのように、さまざまな工夫を凝らしてFREEDOMが駆け抜けた2年間を2時間40分に詰め込まれている。その密度とスピード感に圧倒されながら、それぞれの夢をつかもうと足掻く男たちの熱量は、きっと観た人の心を打つものがあるはずだ。FREEDOMのメンバー5人と、リチャード、織辺、アンリが望んでいるものは何なのか。綺麗事だけでは済まないショウビジネスの世界のなかで、彼らはどんな夢を見ているのか。まだ公演中の本作をぜひその目で観て確認してほしい。

~公演情報~
ミュージカル『ボーイバンド』

■東京公演
2015年10月15日(木)~10月25日(日)
会場:よみうり大手町ホール
料金:7,500円(全席指定・税込)※未就学児入場不可

■大阪公演
2015年10月31日(土)
サンケイホールブリーゼ
料金:S席 7,800円 ブリーゼシート 4,000円(全席指定・税込)
※ブリーゼシートはブリーゼチケットセンター(電話・窓口)のみ販売
※未就学児入場不可


TEXT:藤村秀二