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『スター・ウォーズ』から『ローグ・ワン』まで:その音楽の魅力と秘密~なぜこれらは宇宙的に聴こえるのか~
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『スター・ウォーズ』から『ローグ・ワン』まで:その音楽の魅力と秘密~なぜこれらは宇宙的に聴こえるのか~

2016-12-27 08:30
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    音楽はアメリカの作曲家マイケル・ジアッチーノ(Michael Giacchino,1967~)。第1作『スター・ウォーズ』以降、音楽を担当した巨匠ジョン・ウィリアムズ(John Williams,1932~)へのオマージュ――。エンディング・タイトルにはJ.ウィリアムズの手による音楽がそのまま用いられているのが非常に興味深く、久しぶりに密度の高い音楽を聴くことができた。

    ジアッチーノとJ.ウィリアムズは共にニューヨークの名門ジュリアード音楽院の出身で、いわゆる先後輩の仲ということになる。ジアッチーノは『スター・ウォーズ』におけるJ.ウィリアムズの作曲様式を受け継ぎ、また踏襲しながらもその音楽は決して出すぎることはない。それにもかかわらず高度な書法、その密度は常時維持され続けているのだ。何という才能であろう!映画音楽冒頭に現れる上行5度(ドレミファソ、とド~ソまで)、そして下行する4度音程(ソファミレ、とソ~レまで)の主題音型はまさしくJ.ウィリアムズの用いた『スター・ウォーズ』における主要なインターヴァルであり、これらはさまざまに変容されながら劇中に一貫し、音楽に統一感を与えている。また彼は口ずさめるような旋律は一切作曲せず、過去にJ.ウィリアムズの書いた印象的な名旋律、その断片を随所にちりばめることにより巨匠への敬意をはらっているのである。ではこの素晴らしい音楽の魅力とは一体何か…それらをここ3点に絞ってひもといていくことにしよう。

    1)ディアトニックと旋法性
    2)ポリトナール(複調性)による和声法や旋律
    3)オーケストレーション(管弦楽技法)

    1)ディアトニックとは長音階(ドレミファソラシド)と短音階(ラシドレミファソラ)とを合わせた名称であるが、この2つの音階は1700~1900年までの西ヨーロッパ音楽の根幹を成しているものである。モーツァルト(1756~1791)やベートヴェン(1770~1827)が作曲した作品(通常ハ長調やイ短調等で呼ばれている)がそれにあたり、我々が日常最も親しみを持って接している音楽、その基礎となっている音階なのである。しかしここではそれに加えて、ドリア、リディア、またミクソリディア旋法といったより古いヨーロッパの教会旋法が取り入れられているのである。遥か遠い昔、古(いにしえ)の音を醸し出し、何千、何万光年――といった宇宙的空間をも連想させることを可能とする…これこそが教会旋法の持つ力なのである。

    2)モーツァルトやベートヴェンに代表される音楽(調性音楽)は、ひとつのフレーズ(センテンス)が終わるまで通常単一の調性によって貫かれるのだが、ここでは複数の調性(例えばハ長調+嬰ヘ長調)、またはそれらの調性に基づいた複数の和音や旋律を同時に響かせるのである。結果その部分の音楽は、いわゆるピカソのキュビズムの絵画の如く立体的、また空間的に響くのである。

    3)上記の1)、2)に加え、様々な楽器の組み合わせによる“名オーケストレーション”の存在がある。これは一流のシェフが創作するソースの無限のヴァリエーションにも似ている。まさに高度な技法による職人技とも言えよう。

    彼らは18世紀ウィーン古典派のオーケストレーションから近現代に至るすべての作曲家の語法を手中に収め、そのパレット上の色彩は数限りない。『未知との遭遇』でのJ.ウィリアムズは、ディズニー映画の名曲『星に願いを』をパロディとして挿入しながら、ドビュッシー(1862~1918)やラヴェル(1875~1937)といったフランス近代・印象主義の作曲家をはじめ、現代フランスの作曲家メシアン(1908-1992)や前衛的な各種作曲様式を、『E.T.』では近代ロシアの作曲家プロコフィエフ(1891~1953)のスタイルを、また『ジョーズ』ではストラヴィンスキー(1882~1971)の語法をそれぞれに消化し、他の映画でもスクリャービン(1872~1915)、バルトーク(1881~1945)、ショスタコーヴィチ(1906~1975)、そしてシェーンベルク(1874~1951)に発しマーラー(1860~1911)に至る、音色旋律(ドレミまでをトランペット、ファソラシをフルートで奏でる、といった音色分離の方法)やジャズの影響までもが強く認められる。こういった卓越した作曲技法が屈指のオーケストレーションとの相乗効果によって空間的、立体的、また宇宙的な印象をもたらしているという訳なのである。そしてさらにその原点…それは1916年に完成されたイギリスの作曲家グスタフ・ホルスト(1874~1934)の管弦楽作品、組曲『惑星』(『木星(ジュピター)』の中間部にはかつて歌詞が付けられた)にまで行き着くことができる。

    『スター・ウォーズ』~『ローグ・ワン』、その和声法やオーケストレーションのエッセンスは100年前に完成されたホルストのスコアからも多々発見されることであろう。そしてこれは作曲家ホルストへのオマージュでもあるのだ。モネの絵画に浮世絵の影響が認められるように、J.ウィリアムズそしてジアッチーノの耳にも過去のさまざまな作曲様式とその高度なエッセンス、これらは常に影響を与え続けているのである。

    21世紀、そして未来、果たして芸術音楽が終焉を迎える日はやって来るのであろうか…いや映画音楽の希望は死なない……。

    この記事は、大輪公壱の寄稿による。

    大輪公壱プロフィール
    作曲家、秋草学園短期大学准教授・昭和音楽大学講師

    (C)Lucasfilm 2016

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