今回は大石哲之さんのブログ『大石哲之のノマド研究所』からご寄稿いただきました。
■デフレの時代に、結婚式の単価はなぜ上がり続けるのか?つながり婚を流行らせたい本当の理由
生きづらい時代に、結婚式はこう変わった(佐々木俊尚)さんの記事、ゼクシィ編集長の話のまとめなので佐々木氏に対しては異論反論がないが、ブライダル業界の狙いみたいなものがよくわかった。
そして、驚くべきは、このデフレ時代に結婚式の単価が上がってきているということである。なぜこういうことが起こるのか。それを、少し考察してみたい。
そして同時に、結婚式の単価は上がってきている。2010年が325万7000円だったのが、2012年には343万8000円。まったく形としては残らない、わずか3時間かそこらのイベントに350万円も払うというのは、実に大変なことだ。クルマも買わないような若い世代にとって、これほどの高い買い物は一生に一度あるかないかだろう。
なんと、2年足らずで、5%もあがっている。日銀もびっくりの、優良インフレ商品なのだ。
しかし、わずか3時間かそこらのイベントに350万円も払うというのは、実に大変なことだと書いてあるが、わたしもそう思う。
なぜデフレの時代に結婚式だけがこのように高い価格を維持しているのか。
もちろん、これはゼクシィ読者の調査結果の数字なので、かなりバイアスはかかっている。ゼクシィを読むような人は、結婚式にお金をかけても良いと考えている人たちだ。加えて、家族や親戚、友人たちとの関係をうまくつくりあげている人たちでもある。しかしそうした「リア充」的な若い人たちが、この形のない一回こっきりのイベントに、今のような不況の時代にあってもこれだけの金を払っているのだ。
とあるが、原因は2つあるとおもう。
(1) 低層の脱落
結婚式をあげるのがばかばかしい、地味婚、といった、300万円も出せない層が生まれてきている。結婚式も、豪華にやるか、ほとんどカネをかけないか。二極化が進んでいると思う。
佐々木氏も指摘しているが、ゼクシィを読むヒトは結婚式にカネをかけてもよいと考えるひとだ。結婚式は馬鹿馬鹿しいとおもう層が脱落した結果、元来からのよりカネをかける層が純粋に抽出されている可能性はある。
(2) ご祝儀の相場が下がっていない
これは誰も指摘しないが、もっともデフレに強い原因はこれだろう。
ご祝儀相場は、デフレにもかかわらず、バブル時期とさほどかわっていない。
結婚式の費用は、本人が出すのではなく、ご祝儀をそれに当てる。しかも、ご祝儀は通常であれば、夫婦の生活費にしたりせず、結婚式に全額あてて、祝儀をだしてくれたひとへ「いってこい」するものだ。だから、祝儀の相場が下がらないかぎり、結婚式にかける費用の相場も下がらない。
これはバブルそのものだ。結婚式がデフレに強いわけでも、本人が結婚式にたくさんお金を出すようになったからでもなく、単に祝儀がたくさん入ってくるので、それにあわせて費用がきまっているからだ。
ブライダル業界も、たとえば70人の式で、70×3=210万円の祝儀が入ってくると予想されるなら、300万くらいの式を提案する。決して100万円の式は提案しない。
だから、費用が高止まりする。簡単な話である。
ゼクシィによれば、気になる「ご祝儀」の総額は、全国平均222.9万円であり、つまり、350万円の式をあげたとしても、本人の負担額は、121万円。費用の総額の65%はご祝儀でまかなえるということになる。
本来は、121万円しか出せないはずであるが、それを参列者からカネをファイナンスすることで、350万円の式が出せるような仕組みにしている。
自己資金 121万円
ご祝儀 229万円 ・・1.89倍
総額 350万円 ・・2.89倍
金融用語でいうと、自己資金に対して、ご祝儀により、なんと2.89倍ものレバレッジをかけているという表現になる。
ブライダル業界にしては、本人資金1にたいして、ご祝儀がその倍あるわけだから、ご祝儀相場が低下したらたまったものではない。
仮にご祝儀相場が低下した場合、、本人たちがそのぶんを補填して、あいかわらず350万円の式をあげるとは考えづらい。
所詮他人のカネ(参列者のカネ)だから、本人たちも豪華な式をあげているのである。そして、所詮、他人のカネだから、ブライダル業者も豪華な式を進める。
ようするに、参列者からカネを集められるという仕組みによって、本人たちも、業者も潤っているのである。しかも、本人が、実際に出せるお金の2倍のお金をレバレッジしている。本人たちも、自分の懐が痛むわけではないので、こまかいことは気にしない。結婚式の仕組みにモラルハザードが多いのは、お金の出処が本人でも業者でもなく、第三者にあるというこの構造による。
●デフレの時代に年々式が豪華になるワケ
この仕組を前提に考えると、不況になればばるほど、結婚式は豪華になる。
もし、本人たちがもっとお金が足りなくなったとしよう。いままで本人たちが121万円を用意できていたのに、100万円しか出せなくなったとしよう。
普通の商品であれば、本人が出せる額が20万円減るのだから。式の費用も減るはずだ。
しかし、それではブライダル業界全体がしぼんでしまう。ではどうするのか。唯一操作可能な変数は参列者の部分である。参列者から、もっとたくさんのカネをあつめればいい。端的にいえば、参列者を増やせば良い。
式費用 350万円 → 350万円
本人用意 120万円 → 100万円
参列者負担 3万×77人=230万円 → 3万×83人=250万円
これで帳尻が合う。なんてっこた!参列者を77人から83人に、たった6人ふやせばいい。
本人たちがお金が出せなくなればなるほど、ビジネスモデルから考えれば、ブライダル業者は多くの参列者を集める式を提案するようになり、式は豪華なものになっていく・・。
冒頭の佐々木氏の記事にこうある。
以前の結婚式では、ゲストは「今日のお嫁さん綺麗だったね」「あの2人なら幸せになりそう」と新郎新婦の幸せぶりを眺める場だったのが、今の結婚式では幸せ感をみんなでシェアする。だれが勝ち組として生き残れるかさっぱりわからないこの世の中で、みんなで応援し合おうよ、という感覚を共有する場になっているのだ。
非常にうがったみかただが、参列者の満足度をたかめ、”みんな”で応援しあうという新しい流れは、参列者を減らなさい・もっと増やしていこうという業界の意図が透けて見えるような気がする。この業界において、参列者=カネだからだ。
「つながり」の強化は、若者の結婚式の参列離れを防ぐ有効な策だ。普段からつながりを大切にしえおけば、結婚式の招待を断れない。ブライダル業界は、より多くの友人たちを結婚式に招く流れにもっていきたいと考えているだろう。
私は空気は読まない男だ。なので、私は、2010年より、ご祝儀方式の結婚式のご招待はお断りするようにしている。それは「ご招待」ではなく、金づる、集金装置、請求書、スリップ、ファイナンスだからだ。
金づるだから、数合わせで疎遠なやつでも、どんどん”招待”する。なんという浅ましさだ。
“招待”されたやつは、しかなたく金を持っていく。
それを、祝い事だと、人付き合いだから仕方ないという「空気」。そしてそれに漬け込んでいる業界。ヒトの善意を食い物にしているとはまさにこのことだろう。
執筆: この記事は大石哲之さんのブログ『大石哲之のノマド研究所』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年04月30日時点のものです。
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