今回はfujiponさんのブログ『琥珀色の戯言』からご寄稿いただきました。
■海洋堂は「ブラック企業」なのだろうか?
参考リンク:オタクを超えた精巧さ!大英博物館も認める技術集団:海洋堂社長 宮脇 修一(みやわき・しゅういち)氏(テレビ東京『カンブリア宮殿』2012年9月27日放送分)
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20120927.html
海洋堂のフィギュアは僕も大好きなので、この番組、興味深く観ました。
(番組の概略は、上の「参考リンク」のページを見ていただければわかると思います)
僕はこの回を見ながら、海洋堂は「ブラック企業」なのだろうか?と、ずっと考えていたんですよね。
村上隆さんが海洋堂を「オタクのハプスブルグ家」と評していたのには笑ってしまったのですけど、海洋堂というのは、1軒の模型店に集まってきたマニアたちがつくってきた会社なのだそうです。
既存のモデルに飽き足らなくなったマニアたちが、「自分で自分を満足させられるモデルをつくる」ことからはじまり、同好の士たちが次第に集まってきて、いまの形になったのです。
いまでもマーケティングはせず、「他社よりも少し良いもの」ではなく、「宮脇社長が面白いと思うもの」「とにかく最高のクオリティのもの」をつくる。
海洋堂を支える原型師たちへのインタビューのなかで、村上隆さんとのコラボレーションでも知られる美少女フィギュアのカリスマ・ボーメさんは、毎日朝9時の勤務時間から、夜の9時、10時まで、ずっと海洋堂で仕事をしているのだそうです。
会社と「寝に帰る」家との往復以外は、大阪の街に日曜の午前中に情報収集に行くだけ。
夕食も毎日会社。独身。
海洋堂には、そういうスタッフがたくさんいるのだそうです。
誰にも強制されることはなく、「最高のフィギュア」を創ることに没頭する人たち。
彼らがどのくらい給料をもらっているのかはわからないけれど、正直、この働き方だと、どんなに高給でも、使う暇もないだろうなあ、なんて考えてしまいます。
それこそ「趣味のもの」を買うのに使うしかないのだろうけど、それもまた仕事の必要経費といえなくもないわけで。
『カンブリア宮殿』に出演していた海洋堂のスタッフは、「自分はこれしかできないから、この仕事でご飯が食べられて嬉しい」と語っている人や「海洋堂のおかげで、なんとか食べていけるようになった」と満足げに語っていました。
彼らは、僕が考えるような「労働条件云々」なんてことは全く頭にはないようで、「こうして自分が好きなことをやって給料をもらって生きていけるだけで幸せ」だと心から思っているようにみえたんですよ。
「当直が多い」とか「クレームが怖い」とか「給料が同業他者より安い」と毎日ぼやいている僕は、なんだか自分がとてもつまらない人間に思えてきてしょうがなかったのです。
ああ、僕は基本的に「自分の仕事が好きじゃない」のだ。
「海洋堂は、これまで仕事にはなりようがなかった『マニアたちの趣味』を『仕事』に高めることに成功し、彼らにより充実した人生を提供した」のだと思います。
しかしながら、その一方で、「最高のフィギュアを造るために、彼らの人生のほとんどすべてを搾り取っている」とも言える。
こんな働き方ができるのは、社長も仰っているように「世間から迫害されてきたマイノリティとしての恐怖感と矜持」のたまものなんだろうな、と僕は感じます。
そして、海洋堂がこうしてフィギュアの「社会的な地位」を向上させてきたおかげで、「海洋堂で働きたい」と思う人は増えていくのでしょう。
でも、「社会的な地位が上がったあとの海洋堂」に憧れて入ってきたスタッフには、いまの原型師たちの「オーラ」というか「執念」みたいなものは、身につけることができないのではないか、という気がするのです。
会社が大きくなれば、「企業としての福利厚生」みたいなものも要求されるようになるでしょう。
海洋堂のフィギュアのクオリティの高さには驚かされるのですが、こんな「芸術家集団」が、日本に存在しているということに驚かされました。
それにしても、「自分にはこれしかできない」と思い定めてやっている人の「これ」には、すごい迫力があるものですね。
「自分が本当にやりたい仕事をやっている」人にとっては、どんなキツイ労働条件でも「ブラック」じゃないのかな、と感じたり、そんな「オタクの純真」を利用し尽くして商売をやるっていうのは、ちょっとズルいよな、と思ってみたり、「仕事」っていうのは、「客観的な評価」が難しいものだなあ、とあれこれ考えさせられた番組でした。
執筆: この記事はfujiponさんのブログ『琥珀色の戯言』からご寄稿いただきました。
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