映画『ファインディング・ドリー』は、全米で公開された最初の週末に1億3620万ドルの興行収入を獲得し、アニメーション映画のオープニング成績の記録を塗り替えた。
2003年の映画『ファインディング・ニモ』の続編となる本作は、この夏多くの続編映画が失敗に終わる中、前作で記録した7020万ドルのおよそ2倍となる興収を記録して華々しいデビューを飾った。数々のスピンオフ作品や、映画『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』、映画『X-MEN:アポカリプス』のようなシリーズ最新作の成績が振るわず、映画業界が“続編病”に悩まされていると懸念される中で、素晴らしい業績を成し遂げた。
以下に、米ウォルト・ディズニー・カンパニーとピクサーが『ファインディング・ドリー』を大ヒットに導くことができた5つの理由を紹介する。
1.)ピクサーは映画業界のグッド・ハウスキーピング認定証
これまで発表した17作の映画を通じ、ピクサーはほとんど他に並ぶものがないほどの卓越した評価を確立している。良質な映画という観点でいえば、おそらく、90年代全盛期の頃のミラマックスが唯一、ピクサーに匹敵する。ミラマックスの映画『パルプ・フィクション』、映画『イングリッシュ・ペイシェント』、映画『クライング・ゲーム』など一連の作品は、極めて広範なターゲット層に売り込まれた。
映画『カーズ』シリーズを例外として、批評家たちはピクサーの作品を受け入れ、臆病な利益主義ではなく、それらを芸術作品として評価している。それは観客たちも同様で、映画格付けレポートのシネマスコア(CinemaScore)のレビューも味方している。それ故に、映画ファンはピクサーの名を冠する作品には必ず注意を払うのだ。
2.) ガール・パワーの存在
エレン・デジェネレスが印象的に声を当てる、忘れっぽく頭が混乱したナンヨウハギのドリーは、この続編で中心的な役割を担う。ディズニー作品は、歴史的に若い女の子をターゲットにしてきた。結局のところ、魔法の王国の富は、ディズニー・プリンセスのシリーズが支えているのだ。しかし、近年になって、同スタジオは王子様との結婚の成就(という定型)を打開する見事な仕事をやってのけた。ジュディ・ホップス(映画『ズートピア』)、ライリー・アンダーソン(映画『インサイド・ヘッド』)、メリダ(映画『メリダとおそろしの森』)、そしてドリーのようなキャラクターは、より幅広い女性の経験を体現し、単に王子様を待ち望むという以上の性格特性を担っている。彼女たちは、弓の射手、警察官、10代の女の子、そして忘れっぽい魚なのだ。
その多様性は興収にも効果をもたらす。『インサイド・ヘッド』、『ズートピア』、『ファインディング・ドリー』は、どの作品も男性客より女性客を呼び込んだ。デジタル市場分析を行うコムスコア(ComScore)の投稿追跡サービスによると、公開初週末に『ファインディング・ドリー』を観賞した人の62%が女性だったという。主に男性の観客をターゲットにした映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や映画『X-MEN:アポカリプス』のような大作が公開された後、『ファインディング・ドリー』は女性の気分転換に一役買っている。
作品の成功は、エンターテインメント業界で最もパワフルな女性の1人によって支えられた。デジェネレスは、自身のトーク番組で『ファインディング・ドリー』のトレーラーを初公開し、Twitterの6040万人のフォロワーに対して映画に関するツイートを行い、熱烈なファンのネットワークに働きかけた。
3.)ライバル不在?
学校が長期休暇に入ったにもかかわらず、ファミリー向けの映画が不足している。少なくとも、観客が観たいと思える映画が。『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』と映画『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』は観客の興味を引かず、映画『アングリーバード』は公開から1か月以上が経過した。人を引き付ける選択肢の不足によって、観客はピクサーの最新作を観賞し、父の日を祝うために父親と子どもが劇場に足を運ぶ健全なビジネスが期待される。
この先を考えると、『ファインディング・ドリー』はライバル不在の恩恵を受け続けるだろう。2週間差で公開される映画『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』には追随を許さず、次にヒットが期待できるファミリー向け作品は7月8日(現地時間)に米劇場公開を迎える映画『ペット』まで見あたらない。
4.)大人も来場
ピクサーの映画は小さな子どもだけに向けた作品ではない。『ファインディング・ドリー』は多様な観客を魅了し、観客の26%が成人で、チケット購入者の9%が10代である。どの年代の観客にも受け入れられた別の証拠として、同作の観客動員は、幼い子どもたちが寝ているレイトショーの時間帯にも好調だった。公開初日の金曜日の午後7時以降で400万ドルほど、土曜日の同じ時間帯でも同程度の金額を稼ぎ出した。これは同時間帯で見ると『インサイド・ヘッド』の2倍であり、大人たちは子どもたちと同様にドリーが生き別れた両親と再び出会うのを見たがっている、というサインである。
5.) 遠ざかるほど、思いが募る
『ファインディング・ニモ』が大ヒットしてから13年のうちに、この作品はそのファン層を拡大してきた。前作のヒットを支えた子どもたちは、高校や大学など青年期を迎えたかもしれないが、彼らは続編を後押ししようと、今回も劇場に足を運んだ。加えて、テレビやホームエンターテインメントを通じて絶え間なく作品が観られたおかげで、若い世代も映画に登場する海の生物たちに夢中となった。
さらに重要なことには、観客が1作目を支持しなかった映画の続編(映画『スノーホワイト/氷の王国』)、あるいは、突貫工事と感じてしまうほど計画が不十分な続編(例えば、映画『ダイバージェント』シリーズ最終章の映画『Allegiant(原題)』や、映画『ネイバーズ』続編の映画『Neighbors 2: Sorority Rising(原題)』)がある中で、『ファインディング・ドリー』の共同監督であるアンドリュー・スタントンは、時間をかけて自身がピンとくる瞬間を追い求めたことだ。3か月ごとにヒット作を出したいという目論見から、スタジオが恣意的に公開日を定め、それ間に合うように大急ぎで寄せ集められた製作委員会よって、荒削りに作られたと思える作品があまりにも多い。『ファインディング・ドリー』は、ディズニーが製作許可を出すのに時間がかかったのではない。ドリー、ニモ、マーリンの物語を続ける新たな手段が見つかるまで、スタントンと仲間が熟考し続けることを許したピクサーの辛抱強さは称賛に値する。
観客とピクサーにとって、物事は待つだけの価値があるということを、『ファインディング・ドリー』が証明した。