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ビギナーライターに捧ぐ「超基礎編:有効な取材先へのアプローチとは?」

『孫子の兵法』と『街道をゆく』

初めから私事で恐縮ですが、私は仕事や人生に行き詰まりを感じると、そのソリューション(解決策)を求めて、いわゆる「古典」の世界に遊びます。

その中の一つに、『孫子兵法』があります。

例えば、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず。彼を知らずして己を知るは一勝一敗す。彼を知らずして己を知らずは戦えば必ず破れる。」という地形編の中に書かれた文章があります。

これは、有名なことわざ「敵を知り、己を知れば、百戦殆うからず」とされておりますが、私にとっては、まさしく、我々ライターのために、2500年前に書かれた言葉のように思えてなりません。

つまり、取材とは取材対象を知り尽くすことから、始めなければならない行為であり、このプロセス抜きには、成功は覚束きません。

かつて、あの司馬遼太郎氏が『街道をゆく』という雑誌の企画で、日本国内のみならず、歴史ある世界の名所を求めて、紀行文を書かれておりました。

それは、単なる旅行記ではなく、その文章を読めば、司馬氏が訪れた土地の歴史・文化・風土・自然などのほか、そこに暮らす人々の息遣いまで伝わってくるような筆遣いでした。

司馬氏は、一つの訪問地について書くにあたり、事前の大学ノート数冊分におよびリサーチを徹底し、すでにその土地に初めて訪れる前から、地元の郷土史家以上の情報を把握して、実際の旅行では、その確認作業に訪れるのみだったと言います。

この姿勢は、「人」が対象の取材にも十分通じる話ですし、逆にこういう姿勢なしには、なかなか有効な取材は行い得ないことでしょう。「調査力」の重要性、ということです。

取材対象の決め方

ひとくちに取材といっても、その対象や方法は千差万別で、「これが基本だ」というものがあるわけではありません。

そのため、ここでは事前に取材対象の分野やジャンルについては、漠然と決まっているけれども、誰にどういうアプローチをしたら良いのか?という詳しい状況が見えていないという段階から取り組みことを想定したいと思います。

事実、私のライター生活の中でも、そうした段階からのスタートは多く、クライアントや編集者、調査依頼者などから、「○○について、詳しい人を見つけて、コメントと写真を撮っておいて。」という形式の依頼が多く寄せられます。

この場合、「“どこそこのだれそれ”に取材をしてください」という具体的な指示ではなく、「なんとなく、こういうジャンルに詳しい人」とか、「そういう雰囲気の人」といった、非常に曖昧な指示により、行動を起こさなければなりません。

その取材対象が、たまたま、自分の興味のある分野だったり、過去に何らかの知識を得ていたジャンルであれば、問題ありません。まったくの未知の領域の場合ですと、まずは確実に途方に暮れることになります。

仮に、あなたがスポーツライターだったり、その志望だったとしても、自分の好きなスポーツやメジャーな種目についてはそれなりに興味や情報があることでしょう。

しかし、今まで、その種目の存在すら知らなかったり、興味がまったくなかったジャンルについては、「えっ。何それ?」から始めることになり、非常に不安な気持ちに囚われることでしょう。

しかし、考えてもみてください。
世間でよく知られている内容や情報については、あなたが改めて取材したり、記事にする必要などは、ほとんどないのです。
そういう意味においても、深い調査力は大変重要となってきます。

取材対象のオーソリティになろう

あえて、クライアントがあなたにその分野に関する取材を依頼するということは、言い換えれば、あなたに「その分野について一通り語れる第一人者になって欲しい」と言うリクエストでもある、ということです。

高度に情報化し、分化された現代社会では、個別のジャンルの情報を集めて理解し、それが語れるだけの第一人者になることは、それなりの苦労を伴う行為であることは覚悟すべきです。

しかし、あなたがその苦労を乗り越えて、その一つの仕事をこなした後では、その経験や知識、そこで築いた人脈などはかならず後になって、あなたに利益をもたらします。

ちょっとオカルトめいた考え方になるかもしれませんが、私はこの世の中には、『予定調和』というものが存在していて、すべては最終的に一つの目的のために、リンクし、集約していくものだと思っております。

よく古いことわざで、「苦労は金を出してでも買え!」という矛盾めいた言葉がありますが、これもまさしく、我々ライターを励まし、支援する言葉のように思えてなりません。

どんな分野でも、たとえ、それが一見、マイナーと思われるジャンルの仕事であったとしても、そこで頑張って、誰にも負けないほどの知識や情報を身に付けると、それがあなたのライターとしての「幅」や「奥行き」となって、返ってきます。

それゆえ、私は「どんな仕事も逃げるな!」と、若手のライターには教えています。それが、結果的にあなたというライターの個性になり、他のライターとの差別化につながるわけですから。

ふたたび、『孫子の兵法』へ

とにかく、「相手(取材対象)をよく知ること」

極端な言い方をすれば、「相手以上に相手のことを知り尽くす」くらいのチャレンジ精神で徹底的に調べてみるべきです。

人は、誰しも「自分のことを理解して欲しい」と言う願望を本能的に持っております。

まして、取材対象となるような立場や存在であれば、なんらかのメッセージ性や、存在感、ひいては、自己顕示欲と呼ばれるものまでも、強く持っているものです。

相手を取材する以上、そうした相手の願望や心地よいとする感覚を上手く刺激して、こちらが求める情報や状況を引き出すことが大切です。

「取材」とは、ある意味で、営業マンが大切な客先をもてなす「接待」に通じるものかもしれません。

取材拒否の相手に無理やり群がるインタビューなどを別にすれば、やはり、「いかに相手を良い気持ちにさせて、こちらが求めること以上の情報を引き出すか」によって、取材の成否が決まってしまうと言っても過言ではありません。

そのためには、まずは、「相手の良き理解者」となること。

取材相手をよく理解し、そこに「リスペクトする気持ち」や、「共感する部分」が感じられるのであれば、その感覚をさらに高めて、相手との「シンクロ率(共鳴感)」を高めましょう。

「お、このライターは、俺のことをよく理解しているな。」とか、「若いのに、なかなか熱心に勉強しているな。」といった、第一印象を与えるだけでも、取材は半ば、成功したようなものです。

逆に、あまり、事前調査や勉強が足りておらず、こちらの理解が不十分だったりすると、ほぼ100%の確率で取材はうまく行きません。

昔は大変でした...

よく、「顔を洗って出直せ!」とか、「もっと、勉強してから来い!」というセリフを、私自身もなんども浴びせられたものですが、今にして思えば、ひたすら、赤面するばかりです。

昔と違って、今は、インターネット検索という「夢のような環境」があり、必要とされる情報のほとんどがネットに公開されていると言っても過言ではないでしょう。

一昔前までは、調べ物といえば、まずは「図書館」に足を向けなければならず、今にして思えば、そこにある情報はすべて、過去に出版され、図書館に収められた後の本が出所だったわけですから、それで取材が成り立っていたことの方が不思議に思えてくるほどです。

とはいえ、インターネットの検索にも、それなりに「表示順位の作為やカラクリ」があることを忘れてはいけません。
一見、便利そうなものには、それなりにリスクも伴うものです。
私は検索については、初めの数ぺージだけ閲覧するのではなく、100ぺージ以上あっても全て閲覧する、という意識で調査しています。その段階でやっと、他のライターより多くの情報が入手可能となり、オリジナリティのある記事が書けるのです。

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