6才の少年が成長する12年間を、実際に12年間の歳月をかけて撮影した『6才のボクが、大人になるまで。』で、2014年の映画賞を総なめにしたリチャード・リンクレイター監督の最新作『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』が11月5日より公開となります。
1980年の夏を舞台に、野球推薦で大学に入学することになった主人公・ジェイク(ブレイク・ジェナー)が、新学期が始まる直前の3日間、個性的なチームメイトたちと、野球、女の子、流行りの音楽、パーティ、お下劣なジョーク……あらゆることに全力で打ち込む姿を描き、リンクレイター監督が「あの12年間の続きになるような、大人の扉を開けるひと時を描いている」と語る本作。
たった3日間の何気ない日常を描きながら、何故か心が動かされます。それは、『アメリカン・グラフィティ』『スタンド・バイ・ミー』『ブレックファスト・クラブ』に連なる、新たな” 青春グラフィティ・ムービー”の傑作だからです。
筆者をはじめ、いち早く本作を観た人達はみんな、「青春!」「アメリカの大学行きてえ!」「この年齢に戻りてえ!」とのたまうのですが、そもそも”青春グラフィティ・ムービー”とは何か? 今回は名作青春グラフィティ・ムービーの情報や、『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』との共通点をまとめてみました。
【“青春グラフィティ・ムービー”って一体どういう映画?】
1:“グラフィティ”=“落書き”のような映画。
つまり青春の1ページを切り取った様々なエピソードがまさに落書きのように綴られている映画です。2:期間限定の物語を描いている。
何年にもわたる壮大な物語ではなく、1週間、3日、1日、1夜というように期間限定、その人の人生に強く印象に残る一瞬を描いた青春映画。3:アンサンブルキャスト
登場人物の誰か一人に焦点を当てた物語ではなく、群像劇もしくは数人の登場人物をグループとして描き、一人の心情ではなく、色々な登場人物から青春を投影する。そこから後の大スターを生み出すこともしばしば。4:時代を代表する音楽の数々や、映画を象徴するテーマ曲が必須。
青春映画だけに、その時代を代表する音楽が重要な役割となる。とりわけ、サウンドトラックがその時代を表すコンピレーションアルバムになったり、主題歌が強烈な印象を残す。5:恋愛、友情、出会い、別れ、大人への旅立ち
青春時代の恋愛、友情、新たな出会いや別れ、そして大人へなっていく……。誰もが経験する、大人になるまでの出来事と、繊細な心の動きを丁寧に描きます。
【“青春グラフィティムービー”のルーツは?】
語源にもなったジョージ・ルーカス監督による『アメリカン・グラフィティ』(73)では無いでしょうか。『アメリカン・グラフィティ』は、ルーカスが青春時代を過ごした1960年代のカリフォルニア州・モデストを舞台にしており、アメリカ人の誰もが持つ高校生時代の体験を映像化した作品。
1962年の夏、多くの登場人物が旅立ちを翌日に控えた夕刻から翌朝までの出来事を追う「ワンナイトもの」。『アメリカン・グラフィティ』のキャストは、当時無名だったリチャード・ドレイファス、ハリソン・フォード、ロン・ハワード、チャールズ・マーティン・スミスら。彼らは後にアメリカ映画を代表する大スター・売れっ子監督になっていった。ちなみに当時プロの役者だったのは、今はアカデミー賞監督となったロン・ハワードだけ。『アメリカン・グラフィティ』では、ルーカス自身が体験した青春のエピソードを、当時ラジオでかかっていたヒット曲のみをサウンドトラックにしています。それ以降、青春時代のエピソードを、当時のヒット曲で綴る映画を「アメグラもの」と表現することもあります。
【“青春グラフィティ・ムービー”の名作たち】
『スタンド・バイ・ミー』(86)
スティーヴン・キングの非ホラー短編を基に、R・ライナーが少年時代の想い出をさわやかに描き上げた名編。オレゴンの田舎町、行方不明になった少年の死体を見つけようと、ちょっとした冒険旅行に出かける4人の少年の物語。後に伝説のスターとなるリバー・フェニックスやコリー・フェルドマンなどを輩出した。ベン・E・キングによる同名主題歌もリバイバルヒットした。
『ブレックファスト・クラブ』(85)
土曜の休日だというのに学校に登校させられ図書館で課題文を書かせられることになった高校生5人の半日間を描く。ガリ勉、運動バカ、いいとこのお嬢さん、不思議ちゃん、チンピラ。所属するコミュニティの違いからこれまで名前すら知らなかった5人は、雑談からお互いの身の上話を交わし始め次第に心を開いて行く。主題歌は1985年を代表するヒットナンバーのひとつであるシンプル・マインズの「Don’t You(Forget About Me?)」
『アウトサイダー』(83)
フランシス・フォード・コッポラが、若者バイブルと呼ばれたベストセラー小説を映画化した青春グラフィティ・ムービー。オクラホマの小さな町を舞台に若者たちのグループの対立を描き、夢を持ちながらも現実に押しつぶされていくティーンの悲しみ、友情のすばらしさを歌い上げる傑作。この作品から、マット・ディロン、トーマス・ハウエル、ラルフ・マッチオ、ロブ・ロウ、パトリック・スウェイジらに加えて、あのトム・クルーズがブレイクしていった。主題歌はスティービー・ワンダー屈指の名曲である「ステイ・ゴールド」。登場人物たちが着ている絶妙な丈のジーンズ、カットオフしたデニムジャケットなどのとっぽい着こなしは、80年代後半の日本で起きるアメカジブーム、渋谷センター街現象に影響を与えたと言われている。
『リアリティ・バイツ』(94)
1990年代を生きる若者たち・ジェネレーションX世代を描いた青春グラフィティ・ムービー。”Reality Bites”=厳しい現実(現実が噛み付いてくる)に立ち向かう4人の若者を描いた作品。これが監督デビューとなったベン・スティラーのMTV感覚と映画的センスを融合させた演出も見もの。サウンドトラックは、『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』のOPにも使われるザ・ナックの「マイ・シャローナ」を筆頭に、ビッグ・マウンテン「Baby I Love Your Way」、リサ・ローブ&ナイン・ストーリーズ「Stay(I missed You)」、ほかダイナソーJr.、U2らの90年代前半を代表する名曲が全編を彩る。
『バッド・チューニング』(93・日本未公開)
舞台は1976年のテキサス。高校の夏休み最初の一夜を描く、リンクレイター監督の青春グラフィティ・ムービー第一弾。青春映画ベストに挙げる者も多い傑作。クエンティン・タランティーノがオールタイムベストに挙げる作品でもある。
新学期が始まる日、新入生には恒例の尻叩きの洗礼があり、そこから逃れようとかけ回る坊やたちを追う先輩らの珍騒動に始まり、その夜は歓迎パーティ。ビールや麻薬でボーッとしたり、女の子を誘惑したり、されたりの洗礼も。当然、恋愛のトラブルも大なり小なり発生中、目まぐるしい夜は白んでゆく……。
サウンドトラックには、エアロスミス「スウィート・エモーション」、ディープ・パープル「ハイウェイ・スター」、キッス「ロックンロール・オールナイト」など、76年当時流行していたロックミュージックが満載。
まだ無名だったころのマシュー・マコノヒーや、ミラ・ジョボヴィッチ、ベン・アフレック、レニー・ゼルウィガーなどその後大スターとなるキャストが出演していた。
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』は……、青春グラフィティ要素が全部詰まっていると言っても過言では無い!
「“グラフィティ”=“落書き”のような映画」青春の1ページを切り取った様々なエピソードがまさに落書きのように綴られており、「期間限定の物語を描いている」大学入学直前の3日間の物語で、「アンサンブルキャスト」主人公・ジェイクだけではなく、野球部の面々は皆キャラが濃く、一人ひとりが”生きている”作品です。
そして、「時代を代表する音楽の数々や、映画を象徴するテーマ曲」映画のタイトルにもなったヴァン・ヘイレン『エヴリバディ(原題:Everybody Wants Some)』はもちろん、79年の年間1位に輝いたザ・ナックの「マイ・シャローナ」。ヒップホップを初めて全米のお茶の間に浸透させたシュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・ディライト」。その他ブロンディ、パティ・スミス、ディーヴォなどなど、80年当時ヒットしていたロック、ソウル、ディスコ、ヒップホップ、パンク、ニューウェイヴとあらゆるジャンルの今なお語り継がれる名曲が満載です!
最後には「恋愛、友情、出会い、別れ、大人への旅立ち」。野球はもちろん、女の子、お気に入りの曲、パーティ、お下劣なジョーク等……登場人物たちは、あらゆることに全力で打ち込み、新たな出会いと恋を経験し少しづつ大人になってきます。誰しも感じる新生活が始まる直前のワクワク感、何にも縛られない大人の自由、そして大人としての責任、青春エピソード全部入りの本作にご注目を!
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