30歳を襲う進行形で起こっている社会問題

今回はpucotanさんのブログ『ITエンジニアの社会学』からご寄稿いただきました。

■30歳を襲う進行形で起こっている社会問題

@suniのブログ「ニートですが?」: 頓智ドットを退職したhttp://sunikang.blogspot.jp/2012/10/blog-post.html

逃げろ、そして生き延びろ - インターネットの備忘録http://d.hatena.ne.jp/hase0831/20121002

もう本当にどうにかならないものかと思う。一体何人の人たちが犠牲になれば世の中が変わるのだろう。少しでも世の中を良い方向に変えたいという想いを込めて今回のエントリを書きたい。答えはここに無いけど、皆さんがこの問題を考えるヒントになればそれだけで十分だ。

自分も上のエントリに書かれている内容と似たような経験をしている。異なるのは彼女たちは女性で、自分は男性であるという点だ。

●発症

最初のきっかけは久しぶりに帰省した時に母親から「痩せたんじゃないの?」と言われたこと。当時28歳。でも、この時点では自覚症状も無いし、健康診断でも問題は発見されていない。それどころか、少し太り始めた時期でもあったため、痩せることはむしろ好都合だった。母親から促されて体重計に乗ったところ、体重のピークから8kg減っていた。正直ここまで減っているとは思っていなかったのでびっくりした。

それから半年くらい経った時、全身を痛みが纏った。普段動かすことの無い体中のすべての筋肉が筋肉痛になったような痛みだった。デスクワーク中心だし運動なんか一切していない。それにも関わらず全身に筋肉痛のような痛みを感じている。とりあえず整形外科に行ったらビタミンBの薬を出されて終わった。心療内科なんて選択肢にも上がらなかった。

全身の筋肉痛は相変わらず続いているが、あまりに続くと痛みに対して鈍感になるらしく、そのうち痛みによる不快感は感じなくなった。その代わりに、まるで人間をおんぶしているように全身に倦怠感が続いた。とにかく体が重くて重くて、ちょっと立ち上がるだけでもとても疲れる。当時の同僚から「最近歩くの遅くなりましたよね」と言われたことも、今にして思えば症状のサインだったのかもしれない。頻度は減ったとはいえ、苦痛を感じるレベルの筋肉痛は週に1回くらいの頻度で発生していた。

さすがに辛いので、「次に筋肉痛が起こったら心療内科に行こう」と自分の中でルールを作ったが、それを実行したのはたった2日後だった。心療内科で抗不安薬を処方されて症状はとても楽になった。

「まだまだ働けるじゃん。」

これが落とし穴だった。

●休職

心療内科で処方される抗不安薬の量が当初の3倍くらいになってた。相変わらず忙しいが仕事は楽しい。

ある日、久しぶりに親友と会ったところ、「今すぐに仕事を休め!!」と言われた。もう冷静な判断ができる状態ではなかった。壊れたセンサーで壊れた機械を監視しているようなものだ。冷静な判断ができるわけがない。病院を変えてこれまでの経緯を話したところ、「診断書を書くので今すぐに仕事を休んでください」と言われた。リアルなドクターストップだ。そしてそのまま休職した。この時の体重はピークから15kg減っていた。

休職中の治療は本当に大変だった。ここに書くのは危険なくらいの心と体の変化があった。本気で死ぬと思ってた。

結局8ヶ月くらい仕事を休んだ後に復職した。

●原因

端的に言えば過労である。しかしタイムカードに記録された労働時間が特別に長かったかといえばそんなことは無い。

ただ、仕事の性質上24時間365日で電話がかかってくることがあった。深夜に寝ている時に電話が鳴って、そのままパソコンに向かって仕事をすることもあった。もちろんこの時間はタイムカードに記録されていない。結局、24時間365日仕事をしていたのと同じ状態だったのだ。いつ電話が鳴ってもおかしくない緊張感をずっと持っているのだから、全身が筋肉痛になるような症状が出てもおかしくない。

自分の判断ミスもあった。当時は20歳代にしては給料を貰っていたほうだったと思う。お金に目がくらんだというわけではないが、労働へのモチベーションになっていたのは間違いない。さらに、30歳が近づいて体力が落ちてきているにも関わらず、20歳前半と同じような働き方をしていた。体力を付けるための努力も怠っていた。そして、このタイミングを見計らったように仕事に対する責任も大きくなっていった。本当にすべてが仕組まれた罠のようで、当然のように体を壊したと思う。

ところで、私に気づくきっかけを与えてくれた人たちは、全員が「久しぶりに会った人たち」なのだ。毎日顔を合わせている人は、少しずつ変化している私に気づくことはなかったが、久しぶりに会った人たちから見た変化の大きさは大変なものだったのだろう。しかし、彼らの忠告に真摯に耳を傾けることはなかった。

「自分は大丈夫だと思っているのにどうして?」

当然だ。壊れたセンサーで壊れた機械を監視しているのだから。

●教訓

同じ経験をしている多くの人たちは、30歳前後であるように思う。仕事の責任が大きくなる時期に加えて、体の衰えが出てくる時期だからではないかと思う。しかも世間の成功者たちからは、「こうあるべし!!」というメッセージが繰り返し発せられていて、否応無しにそれらの情報が入ってきてプレッシャーとなる。

しかしこの時期は人生においても非常に大きな意味を持つ時期でもある。結婚もするかもしれないし、女性であれば出産を本気で考える時期でもある。この時期を病気の治療で潰してしまうことは、取り返すことのできない損失となる。特にこのテの病気は、自分自身に責任があるのではないかという後ろめたさもあるため、他の病気や事故に遭うよりも質が悪い。そしてこの気持ちがさらに症状を悪化させる。完全に負のスパイラルだ。

病気が本格的に発症する前に体からサインが発せられているが、このサインを本人たちが病気に結びつけて考えることはないのだと思う。そういう点においては、心身ともに健康である若いうちに、発せられると危険なサインをしっかり学習しておくことは大事だと思う。そして仕事を控えることが "負け" にならないような文化を創ることも大切だ。10年くらい全力で働いてダウンするよりも、健康で40年間働いたほうが総合的な生産量は大きい。人生に対する幸福感も大きくなると思う。

自分の病気が発症してから、もう何年も経過した。幸い日常生活は支障なく過ごせているし仕事もできている。でも通院と薬は手放せないし、これまで使った医療費も100万円は超えている。

本当にロクな結果にならないし、社会的にも大きな損失だ。少なくても今の若い人たちに同じ道を歩んで欲しくないと本気で思っている。このエントリを読んでいる若者は、私の人生が特別なものだと感じるかもしれないが、私も皆さんと同じ普通の若者だったのだ。

●追記
関連エントリ: 「30歳を襲う進行形で起こっている社会問題の補足」 2012年10月06日 『ITエンジニアの社会学』
http://d.hatena.ne.jp/pucotan/20121006/1349455269

・この記事は、ひとつの事例を書いているにすぎません。よって、全ての方に当てはまることではありません。
・個々人における症状については、専門医に相談してください。

執筆: この記事はpucotanさんのブログ『ITエンジニアの社会学』からご寄稿いただきました。

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