今回は本川 裕さんの『社会実情データ図録』からご寄稿いただきました。
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■あなたは自分の父親を越えられたか
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/02132.jpg
(注)国際的な継続的共同調査であるISSP(International Social Survey Program)の2009年「職業と社会に関する国際比較調査」による。「現在のあなたの仕事の社会的な位置づけは、あなたが15歳のときの父親の仕事と比べてどうですか」に7つの選択肢すなわち「1.自分のほうがかなり高い」、「2.自分のほうが高い」、「3.だいたい同じくらい」、「4.自分のほうが低い」、「5.自分のほうがかなり低い」、「6.自分は仕事をしたことがない」、「7.父親はいなかった、父親は仕事をしていなかった、父親の仕事がわからない」で答える設問への男性の回答結果。地位上昇は1+2、地位不変は3、地位下落は4+5とし、1~5の計(図のカッコ内の数値)を100とする構成比で示した。
(資料)ISSP HP(http://www.issp.org/index.php)
各人が属している国が、社会階層的な変動の激しい社会か、それとも階層間の変動の乏しい停滞的な社会かは関心を引くテーマである。また、変動が上昇方向なのかどうか、すなわち成り上がりや出世が多い社会なのか、あるいは地位下落が多い社会なのかも興味を引くテーマである。
国際的な継続的共同調査であるISSP(International Social Survey Program)の2009年調査(テーマ「社会的格差」)は、意識にあらわれている限りを対象にしているものであるとはいえ、こうした点を巧妙な設問で明らかにしている。すなわち子どもの頃の父親と比べて各人の現在の仕事の社会的地位は上昇したかどうかを訊いているのである(調査対象は各国の成人男女。何歳以上かは国により異なり、日本の場合は16歳以上。図の集計対象は男性就業経験者のみなので実際上の年齢はもっと高い。設問文はページ末尾に掲載)。
結果も、また、少なくとも日本人にとっては驚くべきものである。すなわち世界38カ国の中で日本人だけが父親より社会的地位が低下したと思っている者が上昇したと思っている者より多いのである。しかも地位下落は4割と地位上昇の3割より1割も多いのだ。図を見ていただければ一目瞭然であるが日本みたいな国は他にない。どの国でも現在の世代の人間は少しは自分の父親を凌駕していると思っているのに日本だけが父親の世代には敵わないと思っているのだ。日本社会の閉塞感を何よりも端的に示した意識調査結果といえよう。
日本と正反対なのが中国である。中国では7割が父親の仕事より高い仕事に就いていると考えており、この値は2位のポルトガルの60.1%、3位フランスの57.3%を大きく上回っている。
以下に変動が大きい社会か、あるいは停滞的な社会かを「地位上昇+地位下落」(すなわち地位不変の少なさ)でランキングし、また成り上がりが多いか下落が多いかを「地位上昇-地位下落」でランキングした結果表を掲げた。
●社会階層の変動の幅と上昇傾向の程度
---------------------------------------------------------------------------------【変動の幅(変動が大きいか停滞的か)】
---------------------------------------------------------------------------------上位 国名 地位上昇+地位下落(%)
1 中国 80.7%
2 フランス 75.1%
3 ポルトガル 74.3%
4 米国 72.1%
5 クロアチア 71.5%下位 国名 地位上昇+地位下落(%)
1 ハンガリー 50.1%
2 チェコ 52.5%
3 アイスランド 52.7%
4 ブルガリア 53.7%
5 キプロス 56.6%
---------------------------------------------------------------------------------【上昇傾向の程度(成り上がりが多いか下落が多いか)】
---------------------------------------------------------------------------------上位 国名 地位上昇-地位下落(%)
1 中国 63.4%
2 キプロス 48.4%
3 ポルトガル 45.8%
4 スイス 41.6%
5 フランス 39.5%下位 国名 地位上昇-地位下落(%)
1 日本 -8.8%
2 アイスランド 0.9%
3 トルコ 6.4%
4 台湾 7.3%
5 フィリピン 7.6%(注)(資料)ISSP HP(http://www.issp.org/index.php)
変動の幅が大きいかどうかでは、中国、フランス、ポルトガルなどが変動的であり、ハンガリー、チェコ、アイスランドなどが停滞的となっている。
成り上がりが多い社会の上位3位は中国、キプロス、ポルトガルであり、地位下落が多い社会は、日本、アイスランド、トルコである。下落といってもマイナス超過は日本だけである。
こうした意識調査結果が、実際の社会階層の変動そのものをあらわしているとは考えにくい。日本の社会が、世界と比較して、こんなにも停滞的、階層固定的であるとも、また必ずしも前世代と比較して今の世代の仕事の内容がグレードダウンしているとも思われない。
逆に、中国はともかくとして、フランスの社会が意識と同じだけ変動的、あるいは上向的だとも思われない。移民の増加でグレードの低い仕事をフランス人はしなくなったのであろうか(回答者に移民が含まれないとして)。そうだとしても移民比率はせいぜい1割なので(図録1171*1)、こんなに差が出るとは思えない。フランスの場合、何か父親を越えていると思い込む力が働いているのだろうと想像する。
*1:「主要国の移民人口比率の推移」 『社会実情データ図録』
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1171.html
日本の場合はそれとは逆に何か前世代より劣っていると思い込ませる心理的なメカニズムが働いているのであろう。こうした結果が日本人の自信喪失をあらわしているのであれば、日本人のこんな気分は是非とも打破せねばならない。
あるいは、フランス人はプライドが高く、大した根拠もなく自分は父親を越えていると思い込んでおり、逆に、謙虚な日本人は、どんな仕事であっても父親が仕事に打ち込んでいた姿に気高いものを感じ、自分は敵わないと思いがちなだけなのかもしれない。
社会階層の変動状況を見るための指標としてはこの意識調査結果はやや問題ありと考えられるが、それとは別の何か大事なことをあらわしていると考えられる。
取り上げた38カ国は、地位上昇の割合の順に、中国、ポルトガル、フランス、スイス、オーストラリア、キプロス、デンマーク、ノルウェー、米国、南アフリカ、スペイン、オーストリア、フィンランド、スロバキア、クロアチア、イスラエル、英国、ニュージーランド、スウェーデン、ドイツ、ポーランド、ベルギー、韓国、チリ、ブルガリア、ウクライナ、エストニア、アルゼンチン、ロシア、フィリピン、スロベニア、トルコ、台湾、ラトビア、チェコ、ハンガリー、日本、アイスランドである。
●(参考)調査票の該当設問部分
Q13. 現在のあなたの仕事の社会的な位置づけは、あなたが15歳のときの父親の仕事と比べてどうですか。最もあてはまるものに1つだけ○をつけてください。(○は1つ)
現在仕事をお持ちでない方は、最後にしていた仕事についてお答えください。
社会的な位置づけは、父親に比べると・・・
1 自分のほうがかなり高い
2 自分のほうが高い
3 だいたい同じくらい
4 自分のほうが低い
5 自分のほうがかなり低い
6 自分は仕事をしたことがない
7 父親はいなかった、父親は仕事をしていなかった、父親の仕事がわからない
執筆: この記事は本川 裕さんの『社会実情データ図録』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年02月19日時点のものです。
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