「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」「フリースタイルダンジョン」が話題となり、その魅力やシーンが広く知られることになったMCバトル。最近ではラッパーがバラエティ番組などに出演したり、さらにMCバトルをモチーフにしたCMなども多く見かけるなど、あらためてその熱を感じさせる。そしてそこからまた新たな熱が生まれそうな予感!それが女性ラッパーのみのMCバトル大会「CINDERELLA MC BATTLE」だ。
今年1月29日に第1回が行われたCINDERELLA MC BATTLE。実は女性のみのMCバトルとしては日本初の大会。17人によるトーナメント戦が行われ、ラッパーとして実績も高いあっこゴリラや椿・FUZIKOといった面々に加え、ラップアイドルグループ・ライムベリーのMC MIRIや、シンガーソングライター兼グラビアアイドルとして活躍しているMCビキニ a.k.a 藤田恵名らも参戦。
当ライターは決してMCバトルについて長く見てもないし詳しいわけではない。しかし第1回のCINDERELLA MC BATTLE、そして3月に第2回CINDERELLA MC BATTLEの予選も兼ねて行われた「戦極女帝杯」を生で見て、今まで見てきた男対男のMCバトルとは違った魅力に惹かれたひとりだ。
その魅力は見た目からしてキャラクターが多彩なこと。見た目ひとつとってもキャップとTシャツとソリッドな者もいれば、着物やビキニ姿のラッパーも。そして操る言葉も女を武器にする者もいれば、武器にしない者もいる。そんな彼女たちがぶつかるMCバトルの内容は、男vs男のバトルにはないテーマでぶつかりあう事もしばしば。たとえば「育児」vs「仕事」のテーマになり、そこにはただ個人の話だけでなく保育園不足問題や職場での男女差など社会的な話題がにじむ。その「ラップで戦う女たち」のステージ上だけでない戦いがより透けて見える感じ、これが実に新鮮だった。
そんな女性ラッパーのMCバトル大会の最高峰、「CINDERELLA MC BATTLE」の第2回大会「CINDERELLA MC BATTLE vol.2」が6月11日に行われる。日本最大級のMCバトル大会「戦極MC BATTLE」イベンターで、CINDERELLA MC BATTLEの監修も勤めるMC正社員氏に「CINDERELLA MC BATTLE」も含めた女性MCバトルの現在と将来についてうかがった。
--前回のCINDERELLA MC BATTLEvol.1、これが「日本初の女性ラッパーによるMCバトル大会」というのが意外な気もするんですが。
MC正社員 数年前なら絶対できなかったですね。まずフィメール(女性)ラッパーがすごく少なかったんです。戦極の前身戦慄MCBATTLEでは64人エントリー中、毎回フィメールで出るのは萌黄とNAOMYっていう同じ2人、っていう時代もありましたし。中にはCOMA-CHIさんみたいにMCバトルを経てトップに立った人もいるけど、ここ数年は出てきてない。ただ、数は増えてるんですよね。「なんで女だけでやるんだ」って言われる事もあるんですけど、フィメール文化が盛り上がっていけば、お客さんも参加者も増えていくと思うんで。
--前回のvol.1をやろうと思ったきっかけはあるんですか?
MC正社員 ACE(数々のMCバトル大会に優勝し、『フリースタイルダンジョン』などでも活躍するブラジル人ラッパー)が芸能事務所のプラチナムプロダクションに入るって話があって、そこで話をしてるうちにプラチナムが女子大会をやりたいという話になって。今、大手芸能事務所とか有名レコード会社がMCBATTLEに注目してるんですよ。そこから人材がほしいって話もよく聞くし。自分もそろそろ女子大会出来るんじゃ、というのはあったけど、何のバックアップもなしで始めても、絶対盛り上がらないだろうなと思ってたんです。参加者も集まらないだろうって。記念すべき第1回が小さいサイズになるのは避けたいじゃないですか。でもプラチナムとやれるならいいじゃん、って思ったんです。
--CINDERELLA MC BATTLEvol.2の予選でもあった戦極女帝杯のエントリーを見た時、32人中17人が10代で「若い!」と思ったんですね。やはり「高校生RAP選手権」「フリースタイルダンジョン」きっかけで始めた子も多いんでしょうか。
MC正社員 多いですよね。ただ年齢関係なく、20代の人でも「フリースタイルダンジョン見て始めた」って人いますし。かと思えば、もともとラップやってて、結婚して子供生んでからは離れてたけど、こういうのあるなら出てみようかっていうカムバック組も多いんですよ。COMA-CHIさんとかCHARLESやTomgirlさん、前回出てたMIHOさんもそうですね。
--実際CINDERELLA MC BATTLEの第1回をやってみて、ずっとMCバトルを見てきた、そして運営してきたMC正社員さんの目から見て新鮮さとかありました?
MC正社員 すごく面白かったですね。MCバトルって64人でやったら昔は64人が男だったし、今でも60人くらいは男なんですよ。だから「男対男」のバトルか、「男対女」のバトルになるんです、比率的に。でもCINDERELLA MC BATTLEは全部が「女対女」だから、今までにない内容になってましたね。椿ちゃんとFUZIKOの試合とか、ふたりともMCバトルやヒップホップの現場で男の中に混じってやってきた2人だから技術も高かったし、それでいてすごく女性らしいというか。あの試合はシンデレラだから出来たと思います。
MC正社員 あと前回はあっこさん(あっこゴリラ)が凄かったなー。MC MIHOさんとの試合は女性ならではのテーマがあったなと。
--あっこゴリラさんは第1回優勝者ですが、その強さの理由は何だったと思います?
MC正社員 バランスがよかった。女性ならではのテーマもすごい出しつつ、自分のキャラとかをうまく使ってた。あとやっぱりラップがよかったですね、リズム感むっちゃよかったしボキャブラリーもあった。あとあっこさんってセクシーですよ。普段バトル見てても、男の人のバトルでセクシーってのは思わないんですよ。「格好いいな」「クールだな」「熱いな」ってのは男でも思うけど「セクシーだな、綺麗だな」って感情を沸かされましたね。
--普段から男対男ばかり見てるだけに、女性ならではの部分がより刺激的に感じるんでしょうか。
MC正社員 わりと開き直って女子の部分を使ってるやつもいて、「わたしは女だから身勝手だ、女子会おまえ入れてやんねえからな」「空気読めないやつは入れてあげない」みたいなのとか面白かったですね。正直、関係者からは「女性だけのMCバトル大会って成立しないと思ってた」って言われてたんですよ。それは人数的にもそうだし、技術的にも大丈夫か、ていうので。でも実際やってみてかなりいい線行ったんじゃないかと思いますね。
--そして6月11日にvol.2が開催ですが、vol.1とはまた違ったメンバーですね。
MC正社員 レベルはかなり上がったと思います。一度やってみてレベルがわかったというか。vol.1、vol.2とどちらもオーディションやったんですけど、そこに来てくれた人もレベル高かったですね。
--ではvol.2のメンバーの中から「まずこの人を見て欲しい」という今回の軸になりそうな人を教えてもらえますか。
MC正社員 まずは前回審査員で出てもらったCOMA-CHI。初の女性バトラーで当時から強かったし、MCバトルを使ってステップアップしてメジャーとディールまで決めてるんで、本当レジェンドですよね。それとCHARLESは「元祖サイファー娘」ってイメージが俺の中で強くて、COMA-CHIさんとは別の形でフリースタイルで自分の立ち位置を上げていった子ですね。大会の優勝歴もあるし、今回お母さんになってからの復帰で楽しみですね。
--MC正社員さんとしての注目は。
MC正社員 もう全員について触れたい感じですけど、まずは椿とMC frogですね。二人ともステージングとラップが良い。これまでMCバトルの現場で活躍してきた組で、こういう人をプラチナムの大会に呼んで活躍させるのが、わりとおれの仕事なんじゃないかと思ってるんで(笑)。
--戦極女帝杯ではCINDERELLA MC BATTLEvol.1で上位に残れなかった組の成長が印象的でした。
MC正社員 特に優勝したまゆちゃむですね。一年くらい前から見てるんですけど、大阪のサイファーとかでひとりラップ初めてからの成長が著しいです。まゆちゃむのワードセンスが良い意味で女の子っぽいんですよね。意外といないと思うんですよ。自分のキュートな部分をうまく使うっていうか。あっこさんに近いかな。あとオーディション組ではCESIAかな。おれの中でわりと台風の目候補。
--若干15歳と今回の出演者の中ではKIYOと並んで最年少ですね。
MC正社員 vol.1の時もオーディション出たんですけど、その時は2時間くらい遅刻して、おれに直電してきて「今から行く!」って言われました(笑)。あとオーディション来る子ってCESIAくらいの世代が多くて、登校拒否児とか多いんですよ。中にはいじめられてたとかそういう子も結構いて。それでCESIAも学校行ってないって言うからそういう子かなと思ったら、聞いたら「周りがレベル低いから合わせたくない」とかそういう事言う子です(笑)。あと最初のオーディションでは落ちてるんですけど「MC正社員のことを低身長ロリコンハゲっていじったから落ちたんでしょうか」って書いてて、やべえヤツだなっコイツて(笑)。2度目のオーディションはラップも悪口も完成度上がってました。
MC正社員 あとはしあちゃんとか今後いろんな面で伸びそうだと思うし、Ladystarとか青森から毎回来てくれて根性あるなって思って入れました。あとMystieさん。彼女が出ることで大会がひとつ上の段階に行ってると思うし、バトルやライブ自体もヤバいですから。
--「何が出るかわからない」的なvol.1から、バトルMCそのものの魅力で見せるvol.2という感じでしょうかね。この先CINDERELLA MC BATTLE、そして女性ラッパーによるMCバトルは広がっていきそうですか?
MC正社員 どうですかねー。一番はこういうのを見た女の子に「わたしもやりたい!」って思わせたいかな。女の子のお客さんが増えてるっていっても、まだそんな多いってほどじゃないし、「女性ラッパーを見て女性が始める」ってところがまだない気がするんで、誰か憧れられる人が出て欲しいですね。ひとりでも全員でもいいんですけど。
女性MCバトル大会を見て自分が思い出したのは、女子総合格闘技の黎明期における「ゴツゴツした異種格闘技感」、それとAKB48総選挙の開票イベントのスピーチにおける「戦い抜いた者だけが言える言葉での感動」だ。何かきっかけがあれば既存のMCバトルとはまた別の枠を越えた爆発的な広がりがあるに違いない。彼女たちのステージには高校生RAP選手権が日本武道館で開催され、フリースタイルダンジョンがこれほどの人気番組になったのと、同じくらいの可能性が見える。そのきっかけになるかもしれないCINDERELLA MC BATTLE vol.2、ぜひ注目してほしい。
■イベント情報
「CINDERELLA MCBATTLE VOL2」
2017年 6月11日(日) 16:00-
会場:SHIBUYA HARLEM
東京都渋谷区円山町2-4 Dr.ジーカンス 2F, 3F
チケット
前売:3000円( e+で販売中)
http://eplus.jp/sys/T1U14P002224451P0050001
当日:4000円
■詳しくは
戦極MC BATTLE公式BLOG
http://sengokumc.exblog.jp/
―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 大坪ケムタ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか