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「福島で人は住めない」--放射能デマ騒ぎの悲しい結末(経済・環境ジャーナリスト 石井孝明)
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「福島で人は住めない」--放射能デマ騒ぎの悲しい結末(経済・環境ジャーナリスト 石井孝明)

2013-03-29 16:03
    「福島で人は住めない」--放射能デマ騒ぎの悲しい結末

    今回は『アゴラ 言論プラットフォーム』の石井孝明さんの記事からご寄稿いただきました。

    ■「福島で人は住めない」--放射能デマ騒ぎの悲しい結末(経済・環境ジャーナリスト 石井孝明)

    ●放射能デマはなぜ許されないか
    「福島で人は住めない」--放射能デマ騒ぎの悲しい結末

    福島の放射能デマをめぐる残念な話があったので、紹介してみたい。

    「メディアが醸成した放射能ストレス(下)--死者ゼロなのに大量の報道、なぜ?」*1 という記事で、ある環境雑誌の経営者と対話した経験を私は示した。その後日談だ。この人は放射能と健康について、デマと言われかねない誤った情報を流し続けた。それを心配して私は次の意見を述べた。誰に対しても話していることだ。

    *1:「メディアが醸成した「放射能ストレス」(下)― 死者ゼロなのに大量の報道、なぜ?」 2012年06月07日 『アゴラ』
    http://agora-web.jp/archives/1462572.html

    「放射能について不正確な情報を垂れ流す事は、人の生活、命、健康に情報で害を与えかねない。特に、ジャーナリストなら職業倫理上、絶対にデマの拡散に関与してはならない。勉強と取材をした上で慎重に報道すべきだ」

    「原発の是非の主張と、今起きている放射能のリスク評価の問題はまったく別である。前者は自由に語ればいい。人々の不安につけ込んで後者を強調して前者を語ってはいけない。誤った情報は風評被害を生み、福島という地域を壊し、ムダな損失を人の人生と社会と日本全体に加える」

    「放射能デマを流した自称ジャーナリストの上杉隆氏が人々に吊るし上げられた。観察すると、原発についてどのような主張をしても大半の人は批判をしない。ところがデマは「嘘」という普遍的に批判される行為であり、社会の目は厳しい。嘘は身を滅ぼしかねない」

    ところがこの雑誌経営者は聞く耳を持たないどころか、私を原発推進派と批判した。そして「政府と御用学者は信じられない」と繰り返した。私はあきれ、この人から距離を置いた。そして、その後、危惧通りのことが起こった。

    ●嘘は身を滅ぼした
    この雑誌経営者はツイッターや記事などで、「福島に人は住めない」「福島で子供が鼻血」などというデマ情報を流し、過激になっていった。11年夏に「放射能に効く」という怪しげなサプリメントを売った後で批判され失踪したクリス・バズビー氏という人物がいる。それを賛美する文章を書き、関係者は仰天した。また福島で正確な情報を伝えようとする放射能関連の医学者や、食品衛生の著名な学者を「御用」とののしった。さらにデマを流す人々と一緒にイベントを行い始めた。グリーンピースや環境活動家の田中優氏などだ。

    これは知名度がある雑誌ではないが、一連の活動を福島の経済団体の幹部で、現地企業の社長が知った。「福島をバカにするな」と激怒。その経済団体の東京の関連団体に連絡して、その雑誌の広告、セミナーの支援を全部止めるように要請し、実際に止まってしまった。どうも雑誌経営者は、止まった経緯を知らないらしい。

    またこの雑誌に協力していた環境関連業、また農業関連業の企業経営者らが、本人に直接聞けないので、以前関係のあった私に「あの雑誌は大丈夫だろうか」と心配して問い合わせてきた。これらの人たちは、著名で志のある経営者であり、原発について批判的だ。しかしデマをこの雑誌が流布したことを心配した。さらにこの雑誌経営者は「御用」呼ばわりをして、あたりかまわず学者に噛み付いたために、著名な医学者が警戒してこの雑誌の取材を断った。

    読者の方も経験した事があるだろう。一番誠実な友人とか、一番眼の肥えた顧客は、ある人や会社に問題があると、「黙って去る」ものだ。お世辞を言って取り巻く人は、たいてい下心がある。この雑誌の周りからも、まともな人は静かに消えた。

    この雑誌経営者は、ビジネスが止められたことも、また周囲から人が去ったことも気づいていないようだった。経営もうまくいっていないと、風の噂に聞いた。この文章を書くために、この人のツイッターを数ヶ月ぶりにのぞいた。状況は改善されていなかった。

    この人は「活動家」の千葉麗子氏とか、山本太郎氏とかの発言をリツイートしていた。また福島で甲状腺がんが数例見つかったことを過度に騒ぎ、「福島は危険だ。子供を守れ」と、主張していた。誤った情報を流す事の方が、子供にとって危険だろう。この人は社会から取り残されているのに、それに気づかず、さらに孤立をする悪循環に陥っていた。

    ●リスク認識の誤りに私たちは囲まれる
    このエピソードで、私はこの雑誌経営者を笑う意図はない。インターネットや社会には、他人の発言をとらえ攻撃や嘲笑に精力を向ける人がいる。そうしたムダに私は興味ない。デマのもたらす害、そして人の思い込みが誤りやすくリスクを正しく認識できないことを示したかった。

    この雑誌経営者は、思い込みが強いものの、正義感の強く、真面目な人だ。ただし認識が誤ったばかりに、自ら悪い状況に追い込まれてしまった。そして、この人に怒りを向けたり、関係を断ったりした人はいずれも悪意がない。誰も主観の上では他人を傷つけようとはしていないし、それぞれの正義に基づいて行動している。とても悲しく残念なことだ。

    私が感じたのと同じような困惑を、多くの人が原発事故後に体験したのではないだろうか。誤ったリスク認識によって、自分が混乱したり、周囲の人が狂乱したことを目撃したりしただろう。

    またこの経営者は自分と日本が現状の放射能で破滅すると原発事故直後に思い込んだらしい。原発事故から2年経過し、そんなことがなかったと冷静に分析すれば分かるのに、それを修正できない。私が目撃したからこの雑誌経営者のことを取り上げたが、原発事故も「事故など起きない」という東電、行政の思い込みによるものだった。私もエネルギー業界を担当して、原発については簡単な知識があった記者であったために、「事故なんて起こるわけがない」と思い込んでいた。だから原発事故には慌てた。この経験を恥じている。

    私たちは、人間は自分も他人も「合理的な判断で動く」と思い込んでいる。また経済学など多くの社会科学系の学問も、そして社会制度も、その前提で組み立てられてきた。ところが実際には「人間は不合理に行動する。そして間違える」という前提の方が正しい。今の社会は、多くの誤り、そして間違いが起こる可能性を内包しながら、何とか動いている危うい状況にある。

    ●「信じられない」と学ばないことは危険への第一歩
    「福島で人は住めない」--放射能デマ騒ぎの悲しい結末

    個人でも、社会でも、こうしたリスク認識の誤りによる不幸を止める方法はあるだろうか。

    「人間は間違える」という前提を受け入れて、行動心理学がここ数十年進化して、社会科学全般が大きく書き換えられている。(ダニエル・カーネマン「ファスト&スロー」、同書についてのアゴラ掲載の池田信夫氏の書評*2参照)

    *2:「世界観を変える21世紀の古典 - 『ファスト&スロー』池田信夫 」 2012年11月23日 『アゴラ』
    http://agora-web.jp/archives/1502613.html

    道を誤らないための教訓は、碩学たちの意見に譲る。しかし、一つの典型的に間違う道が私の示した例の中にある。原発事故後の雑誌経営者の口癖は「信じられない」だった。この人は東電、政府、専門家の情報をすべて切り捨てた。確かにこれらの人々は間違えた。しかし、その結果たどり着いた先が「山本太郎」のようなトンデモだったら、哀れすぎる。

    大雑把な分け方であるが、リスクに直面した時に私たちの取るべき方法は2つあるようだ。「他者の意見を聞かずに自分の直感を信じて進む」か「他者の意見を聞いて、起こりうる問題を想像し、自分は間違えるかもしれないという認識を持って進む」の2つだ。後者には文献や既存の社会制度など、判断を助ける道具も揃っている。もちろんそれらのものが間違っているというリスクもあるのだが。

    原発事故後に、前者を選んだこの雑誌経営者はジャーナリストとして信用を失う別のリスクに今取り囲まれている。後者を選んだ私は職業上、そうした破滅には陥っていないようだ。

    「私は何もしらない」。西洋哲学の歴史を振り返ると、このような認識を示した古代ギリシャの哲学者ソクラテスの「無知の知」という考えに最初に出会う。東日本大震災、原発事故という国難を社会の一角で体験して約2年が経過した。もちろん経験したくはなかったが、この学びを得られたことは大きい。読者の皆さまもそうではないだろうか。

    間違った情報に踊る「無明の闇」にさまよう前に、「自分は間違えるかもしれない」という前提を受け入れた上で、慎重にリスクに満ちた社会を歩みたいものだ。

    (初出『アゴラ』2013年02月21日)

    石井孝明 経済・環境ジャーナリスト

    Twitter:@ishiitakaaki

    ishii.takaaki1@gmail.com

    執筆:この記事は『アゴラ 言論プラットフォーム』の石井孝明さんの記事からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2013年03月21日時点のものです。

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