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「地震雲」について考える(後)
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「地震雲」について考える(後)

2012-11-20 16:30
    「地震雲」について考える(後)

    今回は山本弘さんのブログ『山本弘のSF秘密基地BLOG』からご寄稿いただきました。

    ※すべての画像が表示されない場合は、http://getnews.jp/archives/274095をごらんください。

    ※この記事の前編はこちらをご覧ください。

    「「地震雲」について考える(前)」 2012年11月06日 『山本弘のSF秘密基地BLOG』

    http://hirorin.otaden.jp/e258644.html

    ■「地震雲」について考える(後)

    誤解しないでいただきたいのだが、僕は地震の前兆現象そのものを全否定したいとは思わない。地震についてはまだ分からないことが多すぎる。地震の直前に発生するイオンや電磁波や低周波が、雲の生成に影響を与える可能性だって、ゼロではないだろう。

    しかし、それはあくまで可能性であって、科学的に証明されたわけではない。

    そして今のところ、「地震雲」は科学とはほど遠いところにある。というのも、「地震雲」を信じている人の多くは、地震や雲について無知なのだ。

    googleで画像検索してみると分かるが、「地震雲」*1としてネット上にアップされている雲の多くが、明らかにただの飛行機雲*2や波状雲*3や放射状雲*4だ。

    *1:「地震雲」 『Google画像検索』
    http://www.google.co.jp/search?&q=地震雲&tbm=isch

    *2:「飛行機雲」 『Google画像検索』
    http://www.google.co.jp/search?&q=飛行機雲&tbm=isch

    *3:「波状雲」 『Google画像検索』
    http://www.google.co.jp/search?&q=波状雲&tbm=isch

    *4:「放射状雲」 『Google画像検索』
    http://www.google.co.jp/search?&q=放射状雲&tbm=isch

    僕は子供の頃、よく飛行機雲を眺めていた。最初は細かった飛行機雲が、時間が経つにつれて横に広がり、広い帯になるのを見てきた。前にも書いたが、今は伊丹の近くに住んでいるので、飛行機雲は頻繁に見られる。

    ところが、世の中には飛行機雲を見たことがない、あるいは見た経験が少ない人がいる。そうした人がたまに飛行機雲を見ると、「おかしな雲だ!」「地震雲ではないか」と思ってしまうらしい。

    「でも、地震雲が観察されて数日以内に地震が起きたという例が多いんじゃない?」

    あなたはそう言うかもしれない。しかし、それはよく考えてみると、不思議でも何でもないのだ。

    日本各地には大勢の地震雲ウォッチャーがいて、ほとんど毎日、「地震雲」(厳密に言えば、撮影者が「地震雲ではないか」と思った雲)の写真を撮ってネットにアップしている。

    そして日本国内では、M8以上の地震が年平均0.2回、M7.0~7.9の地震が3回、M6.0~6.9の地震が17回、M5.0~5.9の地震が140回、M4.0~4.9の地震が約900回、M3.0~ 3.9の地震が約3,800回も発生している。

    「地震について:世界や日本周辺ではどのくらい地震が起こっているのですか?」 『気象庁』サイト

    http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq7.html#9

    M5以上の地震に限定しても年160回。1日平均0.44回である。つまり「地震雲」が撮影されたかどうかに関係なく、ある日から数日以内に日本のどこかでM5以上の地震が発生する確率は、かなり高いのだ。

    地域を「東北」とか「関東」とかに限定すると、確率は数分の一になる。仮に北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の8つの地域に分割し、それぞれの地域の確率がおおざっぱに日本全体の1/8だとしても、年平均20回、1日で0.055回。10日間なら0.55回。やはり半分ぐらいの確率で地震が起こることになる。

    こういうたとえで言うと分かりやすいだろうか。

    「このクラスで授業中にチョークが折れたら、10日以内にクラスの誰かが病気で欠席するだろう」

    この予言が当たる確率がかなり高いことは、誰でも分かるだろう。授業中にチョークが折れることも、誰かが病気で欠席することも、しょっちゅうあるからだ。だからといって、「チョークが折れること」と「誰かが病気で欠席すること」の間に、何か因果関係があるわけではない。

    東日本大震災のような大きな地震の前に撮影された「地震雲」があるのも、やはり不思議なことではない。「地震雲」の写真は一年中、ほぼ毎日のように、日本のどこかで撮影されている。大地震がいつ起ころうと、その何日か前にその地域で撮影された「地震雲」が必ずあるはずなのだ。大地震が起きてから、「これが地震の●日前に撮影された地震雲です」と出してくることができるのである

    しかし、その逆──地震が起きる前に「地震雲」から大地震の発生を予言することは、かなり難しい。大きな地震ほど起きる確率が小さくなるからだ。前述の矢田氏のように、地震雲研究の専門家でも、大きな地震の予言ははずすことが多い。

    たとえば今年の6月25日には、北陸地震雲予知研究観測所・所長の上出孝之氏が「6月25日から7日以内に関東でM7以上震度6-7の地震が起きる」と発表したことが、日刊ゲンダイで報じられた。もちろん、そんな地震など起きなかった。

    「7月1日までに関東で大地震が発生する!って本当?」 2012年06月30日 『NAVERまとめ』

    http://matome.naver.jp/odai/2134088505332049701

    上田氏は東日本大震災を予知していたと言われている。「3月1日より10日以内に東北地方に大きな地震が起こる」と警告して的中させたというのだ。しかし、規模に関しては、「あんなに大きな地震になるとは思いませんでした」と言っている。M9の地震を予言していたわけではないのだ。

    先の教室のチョークのたとえで言うなら、

    「チョークが折れたのを見て、『10日以内にクラスの誰かが病気で欠席するだろう』と予言したら、病欠どころか事故で急死する子供が出てびっくりした」

    といったところだろうか。

    地震雲研究家以外の「地震雲警報」となると、さらにあてにならない。

    「【地震雲】東京の空がヤバイ!!!!! ヤベーのが来るぞ ━━━━!!!」 2012年05月21日 『暇つぶしニュース』

    http://blog.livedoor.jp/rbkyn844/archives/5521590.html

    これは今年の5月21日に起きた騒ぎである。

    えーと、すいません、どのへんがヤバイんでしょう? ありきたりの巻雲にしか見えませんが。

    10月13日には、やはり関東地方の広い範囲で、「地震雲が出た」と騒がれた。

    「地震雲ヤベー!」 2012年10月13日 『ねぎ速』

    http://www.negisoku.com/archives/54212076.html

    「【速報】東京から千葉にかけて秋のいわし雲が綺麗 Twitterでは「地震雲」と話題」 2012年10月13日 『いたしん!』

    http://itaishinja.com/archives/3581964.html

    いやー、実にきれいないわし雲*5だわ(笑)。

    *5:「いわし雲」 『Google画像検索』
    http://www.google.co.jp/search?&q=いわし雲&tbm=isch

    もちろん、冷静に「秋によくある雲だよ」「普通の雲にしか見えない」「こんなんしょっちゅう見てたわ」「すっかり秋ですな~」とツッコんでる人も多いのだが、「やべぇ」「気持ち悪い」「こんなのみたことないけど」と真剣に怖がってる奴もいて、頭が痛くなる。


    日本の秋の風物詩を見たことがないとは、お前らはいったい日本で何年生きてきたんだと。

    10月29日には衛星写真が騒がれた。

    「今日の気象衛星写真がやばすぎると話題に「時は・・・きた!」」 『togetter』

    http://togetter.com/li/398290

    前線ではよくこういう空を直線状に二分する雲が見られるんだが。僕は何回も見てるぞ。

    ちなみに29日の気圧配置はこんな感じ。

    「低気圧と前線抜け弱い冬型へ。来月にかけゆっくり気温低下(121029)」 2012年10月29日 『気象予報士Kasayanのお天気放談』

    http://blog.livedoor.jp/kasayan77/archives/19480416.html

    このように、「地震雲警報」は頻繁に発生している。そして、頻繁にはずれている。当たったものだけが注目されているため、信憑性があるかのように思われているのだ。

    他にも、こういう現象もある。

    「地震雲」について考える(後)

    (画像が見られない方は下記URLからご覧ください)

    http://px1img.getnews.jp/img/archives/1177.jpg

    これは僕が今年の1月22日の午後3時、大阪で撮影したもの。昼間の空の天頂近くに虹が出ている。

    これは「環天頂アーク」という現象で、太陽の高度が32度以下の時、太陽から上方46度の位置に出現するらしい。珍しい現象だが、やはり地震とは関係がない。

    赤い月を見て「不吉だ」とか「地震の前触れじゃないか」と騒ぐ人もいる。

    僕は毎晩、午後7時頃に仕事場から帰宅するので、帰り道、東の空によく昇ってきたばかりの月を見る。血のように赤い月は、年に1回ぐらいは必ず見ている。その直後に大きな地震が起きたことは一度もない。

    赤い月を見て不安に思うのは、普段から月を見ることの少ない人だと思う。

    最後に、「地震雲」の存在を信じている方にお願いしたい。

    まず、普通の雲について学んでください。雲には放射状雲、波状雲、房状雲、蜂の巣状雲、乳房雲、尾流雲、アーチ雲、K-H波雲、消滅飛行機雲など、いろんな美しいバリエーションがあることを知ってください。また、普通の虹の他にも、彩雲、反薄明光線、ハロ、環天頂アーク、環水平アーク、タンジェントアークなど、様々な光学現象があることも知ってください。

    そして何より、普段からもっと空を見てください。そうすれば、飛行機雲や巻雲やいわし雲がちっとも珍しくないことも、赤い月がしばしば見られることも分かるはずです。

    地震雲を信じるなとは言いません。しかし、それならせめて、普通の雲とは解釈できない、明らかに異常な雲だけに注目してください。飛行機雲やいわし雲を見て「こんな雲見たことがない」などと騒ぐのは、とても恥ずかしいことです。

    執筆: この記事は山本弘さんのブログ『山本弘のSF秘密基地BLOG』からご寄稿いただきました。

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