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※この記事はニュース解説サイト『新潮社Foresight』より転載させていただいたものです。 http://www.fsight.jp/ [リンク]

大統領選挙キャンペーン中、ミット・ロムニー共和党大統領候補や有力共和党上院議員らは、今年9月11日に発生したリビアの在ベンガジ米国領事館襲撃事件を、「反米デモが拡大して事件に至った」とするオバマ政権による一連の説明は、実際にはテロ事件であったことを隠蔽し、米国民を欺くものであったとの批判を繰り返していた。オバマ大統領の再選後、第2期オバマ政権の次期国務長官候補にスーザン・ライス国連大使の名前が浮上すると、オバマ政権を代表する形で在ベンガジ米国領事館襲撃事件についてテレビ出演などを通じて説明を行なっていたライス氏の次期国務長官指名に対し、最も厳しい姿勢を示したのはジョン・マケイン上院議員(共和党、アリゾナ州)とリンゼイ・グラム上院議員(共和党、サウスカロライナ州)の2人であった。だが、ライス氏はオバマ大統領に自らを次期国務長官の検討対象から外すよう今月13日に申し出て、大統領もこの申し出を受理。その後、第2期オバマ政権の外交、安全保障関連の主要閣僚ポストである次期国務長官、国防長官について、新たな動きが顕著となりつつある。

 国防長官については、チャック・ヘーゲル元上院議員(共和党、ネブラスカ州)がレオン・パネッタ長官の後任に指名される可能性が米主要メディアなどで報じられるようになっている。今月4日、オバマ大統領がホワイトハウスにヘーゲル元上院議員を招いて次期国防長官への指名について協議を行なった事実を、一部メディアが今月13日に報じた。

 ヘーゲル氏は、1996年中間選挙で初当選し、97年1月から2期12年間上院議員を務めた。上院議員在職中は共和党政治家ながら、特に、ジョージ・W.ブッシュ共和党政権の外交政策に対する批判的姿勢を鮮明にし、対イラク武力行使と占領政策を批判し続けた。ヴェトナム戦争への従軍経験のあるヘーゲル氏は、対イラク武力行使について「ヴェトナム戦争の再現」であるとしてジョージ・W.ブッシュ前政権の外交政策批判の急先鋒の1人であった。

 ヘーゲル氏は08年共和党大統領候補指名獲得争いへの出馬も検討していたが、最終的には出馬を見送っている。だが、08年民主党大統領候補指名獲得争いでオバマ上院議員(当時)がヒラリー・クリントン上院議員(当時)に勝利すると、ジャック・リード上院議員(民主党、ロードアイランド州)とともに、オバマ上院議員のアフガニスタン、イラク、中東地域訪問に同行し、ジョージ・W.ブッシュ政権の対外政策への批判を露にした。ヘーゲル氏の夫人も、当時、オバマ民主党大統領候補に政治献金を行なっていた。

 08年大統領選挙でオバマ民主党大統領候補が勝利した後の政権移行プロセスでは、ヘーゲル氏はオバマ政権移行チームから国土安全保障長官、国家情報長官(DNI)、駐中国米国大使といった要職を提示されたが、すべて辞退し、翌09年からジョージタウン大学ウォッシュ外交学部で教鞭をとっていた。だが、ヘーゲル氏は上院議員在任中に上院特別諜報委員会、上院外交委員会などに在籍していたこともあり、オバマ大統領が設置した「大統領諜報諮問委員会(President’s Intelligence Advisory Board)」の共同委員長に就任している。同諮問委員会は諜報機関の効率性の改善などについて超党派の立場から助言を行なっており、こうした活動からもヘーゲル氏がオバマ大統領と引き続き良好な関係を維持していることが理解できる。

 今回、次期国務長官への指名が有力視されているジョン・ケリー上院議員(民主党、マサチューセッツ州)は、第1期オバマ政権発足直前の政権移行プロセスでも国務長官への指名が有力視されていた。ところが、オバマ氏は民主党大統領候補指名獲得争いで熾烈な争いを演じたクリントン上院議員を国務長官に登用し、ケリー上院議員は上院外交委員会委員長のポストに引き続き留まることになった経緯がある。

 仮にケリー上院議員が次期国務長官、ヘーゲル氏が次期国防長官に指名され、上院本会議でそれぞれ指名が承認された場合、08年大統領選挙キャンペーン当時からオバマ大統領を積極的に支援していた2人が第2期政権で要職を担うことになる。2人ともヴェトナム戦争に従軍し、ジョージ・W.ブッシュ前政権のイラク政策などを厳しく批判した点で共通している。

 オバマ政権が有権者に対し改めて超党派主義を訴える観点からも、ヘーゲル氏が次期国防長官に指名されることには大きな意義がある。ジョージ・W.ブッシュ政権から引き続き国防長官に留任したロバート・ゲイツ前国防長官は07年に辞任し、先月にはデヴィッド・ペトレイアス前CIA長官が女性ジャーナリストとの不倫が発覚したために辞任に追い込まれた。また、イリノイ州第18区選出の穏健派共和党連邦下院議員から抜擢されたレイ・ラフッド運輸長官も来年早々には辞任すると見られており、共和党員がオバマ政権からほぼ姿を消しつつある。そうした中でヘーゲル氏が次期国防長官に指名、承認された場合、第2期政権の主要閣僚では唯一の共和党員からの登用になる可能性がある。

 レオン・パネッタ国防長官は留任する意向はなく、自宅のあるカリフォルニア州での生活に戻ることを希望している。パネッタの後任となる次期国防長官にとって、国防予算削減に伴う国防プログラムの大幅見直し、アフガニスタン駐留米軍の撤退に向けた環境整備、イラン核開発問題、台頭する中国への対応などが喫緊の課題となる。オバマ大統領は、自らが生まれ育ったハワイでクリスマス休暇を過ごす前に、第2期政権の主要閣僚人事の一部を正式に発表する意向であることをホワイトハウス関係者が明らかにしている。外交政策については穏健派リアリストであり、オバマ大統領と共通する立場のヘーゲル氏が実際に次期国防長官に指名されることになるのか注目される。

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足立正彦 Masahiko Adachi

住友総研シニアアナリスト

1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

※写真:ホワイトハウス

撮影 Peter Griffin

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