今回は落合洋司さんのブログ『弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」』からご寄稿いただきました。
■朝日新聞記者の不正アクセス容疑について(弁護士 落合洋司)
「朝日新聞記者の不正アクセス容疑について」 2013年06月25日 『朝日新聞デジタル』
http://www.asahi.com/national/update/0625/TKY201306250088.html
報道機関関係者が、遠隔操作事件の「真犯人」のメールアドレスにログインしていた件で、書類送検されたと報道されていますが、その中に朝日新聞の関係者がいて、朝日新聞が上記の通り弁解しています。
当該メールアカウントを使用した犯行声明メールは昨年10月9日、報道機関や弁護士に送信されました。その中に当該メールアカウントの識別符号(パスワード、以下:当該識別符号)が記載されていました。この犯行声明メールは「【遠隔操作事件】私が真犯人です」と題し、「このメールを警察に持っていって照会してもらえば、私が本物の犯人であることの証明になるはずです」「ある程度のタイミングで誰かにこの告白を送って、捕まった人たちを助けるつもりでした」「これを明るみにしてくれそうな人なら誰でも良かった」などと記したうえで、同メールの送信者が関与したという遠隔操作ウイルスを使った事件の内容を記しています。
以上のことから、当該メールアカウントの利用権者(「真犯人」を名乗る犯行声明メールの送信者)が、犯行声明メールの送付先の弁護士や報道機関を通じて同メールの内容が公表されることを望んでいたのは明白です。
さらに、犯行声明メールの中で当該識別符号を公表し、それが使われて当該メールアカウントにアクセスされ、自分が真犯人であることが証明されることによって、遠隔操作事件で警察から犯人と誤認された人たちの容疑が晴れることを明確に求めていました。
私のところへも送られてきた、昨年10月9日付けのメールを読み直してみましたが、そこでは、
このメールを警察に持っていって照会してもらえば、私が本物の犯人であることの証明になるはずです。
とあるものの、そこから、他の記載を含めて見ても、上記の弁解にあるように、
さらに、犯行声明メールの中で当該識別符号を公表し、それが使われて当該メールアカウントにアクセスされ、自分が真犯人であることが証明されることによって、遠隔操作事件で警察から犯人と誤認された人たちの容疑が晴れることを明確に求めていました。
と読み取ることは、常識的に考えて無理でしょうね。
そもそも、不正アクセス禁止法では、「真犯人」は、単なる「利用権者」に過ぎず、「アクセス管理者」である、本件ではヤフー株式会社から許諾を受けて利用している立場に過ぎません。確かに、その利用権者から承諾を受けたアクセス行為は不正アクセスに該当しませんが、その承諾は、「黙示」でも可能とは考えられるものの、あくまでメールでの記載から読み取る承諾ですから、社会通念、常識に照らし、承諾していると認められるようなものでなければならないでしょう。朝日新聞の弁解は、社会通念、常識に照らした読み方とはかけ離れていて、通用するとは考えられないものがあります。
仮に、「承諾があったと信じていた」という弁解が排斥できない場合、不正アクセスの故意があると言えるか、いわゆる「錯誤」が問題になります。これについては、事実の錯誤は故意を阻却するが法律の錯誤は故意を阻却しない、というのが、判例、通説です。この点について、上記の弁解を見るとどちらになるか微妙ですが、元々の事実認識(と称するもの、後付けででっちあげた弁解である可能性もあります)が、かなり荒唐無稽なものなので、事実の錯誤というには無理があり、そもそも、単なる故意の無理な否認、虚偽の弁解、と捜査機関に捉えられて、故意が推認される可能性はかなりあると思います。ただ、朝日新聞としても、最後の逃げ場は故意で、そこで逃げ切ろうと考えているのか、弁解の中で、
このように、利用権者は、当該識別符号を使って当該メールアカウントにアクセスすることを誰に対しても広く承諾していたことが明らかです。当社記者もそう認識しており、「不正アクセスの故意」は全くありませんでした。
と強調していますから、おそらく今後も、故意がなかったと強弁し続けての逃げ切りを図っている可能性が高いと思われます。
なお、刑罰すら科せられる違法な行為である以上、いくら取材目的とはいえ、「正当業務行為」に該当しないことは、取材目的で犯人の家に忍び込むような行為が正当業務行為にならないことを考えれば、明白だと思います。上記の朝日新聞の論法では、取材目的であれば、様々な場所に忍び込んで資料を盗み見したりする行為は、必要性がそれなりにあれば、皆、正当業務行為になってしまいますが、日本が法治国家であるということを、一体、どう考えているのでしょうか。西山記者事件を、ここで引き合いに出していますが、西山記者が、取材先の家に忍び込んだりして情報を得ていれば、あれほどの議論が起きることなく違法性は認定されていたはずで、本質的に異なるものをいかにも同質かのように提示して正当化を図る(「取材目的」というところだけを捉えて)、典型的な詭弁(下手な)を、こういうところで持ち出す見識のなさにもあきれます。
不正アクセス行為は、インターネット社会においては、他人の家に侵入することと同様の、違法性が決して低くない行為で、朝日新聞の弁解は、「家の扉があいていたから中に入ってよいと思った」と言っているのと変わらず、下手な弁解であると同時に、日本有数の全国紙として、極めて恥ずかしいレベルにあると言えるでしょう。こういう弁解を正当化する意見書を書く弁護士の見識も疑われると思います。
捜査当局は、厳正に捜査し、関係者がこの弁解を今後も続けるのであれば、起訴してその刑事責任をきちんと追及することも視野に入れるべきで、安易に起訴猶予といった処分で終わらせるべきではないと思います。
執筆: この記事は落合洋司さんのブログ『弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年06月28日時点のものです。
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