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就活についてのインタビュー
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就活についてのインタビュー

2013-01-20 14:01
    就活についてのインタビュー

    今回は内田樹さんのブログ『内田樹の研究室』からご寄稿いただきました。

    ■就活についてのインタビュー
    朝日新聞デジタルというところからインタビューを受けた。
    お題は「就活」。
    「就活なんか、するな。卒業するまでは大学生として大学での活動に全力を尽くし、卒業してから、その先のことは考えなさい」というのが私の年来の主張である。
    今していることをおざなりにして「ここではない場所で、あなたではない他の人たちとする仕事」に前のめりになっているような人間をあなたは重用する気になるか。
    私はならない。
    そんな人間はどこにいっても使い物にならないということを経験的に知っているからである。
    でも、同意してくれる人はきわめて少ない。
    マスメディア上では「ゼロ」である。
    珍しく朝日新聞(ただしWEB版)からこの件でお座敷がかかった。
    でも、それは「息子が内田樹の書いたものを読んで『就活をやめる』と言い出したので、ちょっと腹を立てた母親」がインタビュアーという、ちょっと不思議な趣向のものであった。
    インタビュアーの渡部さんは最初のうち、「警戒心」と「好奇心」の中間くらいのところで質問をしてきたが、そのうちだんだん深くうなずきだした。
    母親の直観は「いまの就活には何か人間の生きる力を損なうものが含まれている」ということを理解しているのだと思う。
    そのインタビューの一部を採録する。


    実は、筆者の次男は大学3年生。1ヵ月半前のこと、彼は突然、夫と私に言いました。「僕は就活しない。休学する」と。えっ、どうして!? 「もっと本も読みたいし」。何を? 「内田樹」――。息子の心の変化に迫り、あわよくば休学阻止をねらって、息子が私淑する武道家で思想家の内田樹さんにインタビューを敢行。さて、その結果は?



    ―息子の休学宣言には困惑しましたが、取材を進めていくと、いま、就活をしない学生が少しずつ増えていることが分かってきました

    もう10年くらい前からの傾向です。何十社、何百社にエントリーし、勝ち抜いた者が成功者で、負けた者は二十歳少し過ぎたところで人生の敗残者、というような競争にさらされてきた先行世代を見て、揺り戻しが来ている。そんな競争に勝ち残ってもたいして明るい未来が開けるわけでもない。こんなやり方がいつまでも続くはずがないと直感しているんです。

    就活をしない若者たちは、概して無欲です。車やバイクも洋服もいらない。海外旅行もしない。ミシュランの星つきフレンチで高いワインを飲みたいとも別に思わない。

    いま、センスのいい若者で、バリバリ上昇志向っていう人はほとんど見かけませんね。大学院に行ったり、仲間と起業したり、ボランティア活動に携わったり、農業をやったり。昔のようにイデオロギーや宗教に凝り固まるわけでもなく、ナチュラルに、でも、堅実に生きているように見えます。

    ―でも、大多数は就活に必死で取り組み、親も社会もそれを後押ししています

    だから、ますます若者が苦しい立場になっていくんです。

    いまの就活は、とにかく狭い市場に学生を押し込もうとする。当然、買い手市場になり、採用する企業はわずかなポストに群がる求職者たちの中から、能力が高く賃金の安い労働者をよりどりみどりで選べる。『キミの代わりはいくらでもいる』という言葉を採用する側が言える。

    これが一番効くんです。

    でも、本当は、若者の手助けを求めている職場はいくらでもあるんです。中小企業もうそうですし、農業林業漁業のような第一次産業、武道でも能楽でも伝統文化も継承者を求めている。

    でも、そういう無数の就職機会があることを就職情報産業は開示しない。そして従業員1000人以上の一部上場企業に就職しないと敗残者であるかのような幻想をふりまいている。

    大学を卒業したら、スーツを着て毎日満員電車で出勤して、朝から晩まで働く以外に仕事はないと教え込んでいる。

    ―何だか、わが子が大きな罠に絡め取られていくようです

    就活は、能力が高くて安い賃金で働く若年労働者を大量に備給して欲しい経済界の要請により、経済産業省や文部科学省と就職情報産業が共謀して作り出した仕組みです。

    大量の学生たちを希少な就職機会に押し込むから、倍率ははね上がる。何十社も採用試験に落ち続けた学生たちは自尊感情を損なわれ、自己評価が下がり、最後は『どんな条件でも働きます』と採用側にすがりつくようになる。

    文科省と経産省が仕掛けている『グローバル人材育成戦略』を読むと、気分が滅入ってきます。グローバル人材というのは、要するに英語ができて、タフなネゴシエーションができて、辞令1本で翌日から海外に赴任できるような人間のことだと言われています。

    でも、辞令1本で翌日から海外勤務ができる人間って、要するに『その人がいなくなると困る』という人が周りにひとりもいない人間のことですよね。その人を頼りにしている家族も友人もいない、地域社会でも誰からも当てにされていない。I cannot live without you と言ってくれる人がひとりもいない人間になるために努力をしろというのが『グローバル人材育成戦略』なんです。

    ―いいえ、子どもには、社会から必要とされる人間になれと言ってきました

    そうでしょう。それが親として当然のことです。

    でも、政府も企業も若者たちの市民的成熟や個人的な幸福には何の関心もない。

    彼らが求めているのはいくらでも替えの効く、使い捨て可能の『人材』なんです。

    政治家もビジネスマンもメディアも『国際競争力を高めなければ日本は生き残れない』と盛んに言い立てますけれど、彼らが言っている『国際競争』というのは平たく言えばコストカットのことなんです。

    中国や韓国やインドとの競争というのは要するにコスト削減競争のことなんです。同じ品質の製品をどれだけ安く製造できるかを競っている。その競争での最大の障害になっているのが日本の人件費の高さです。これを切り下げないと世界市場では戦えない。そういう話になっている。

    今、大学生が多すぎる、大学数を減らせという話が出ていますが、低学歴・低学力の若者たちを作り出していったいどうするのかと言うと、低賃金の労働力がほしいからです。

    たしかに国内の人件費を中国やインドネシアなみにまで切り下げられれば企業は海外に生産拠点を移す必要がなくなる。国際競争に勝つためには日本の労働者の賃金を下げるというのがいちばん簡単なんです。すでに低賃金化は深刻になっています。

    先日ゼミの卒業生が僕のところに相談に来たんですが、ある生命保険会社の正社員なのに、手取りが10万円台半ば。営業用のDMの切手代もバレンタインのチョコ代も自分持ち。それどころかデスクのパソコンのリース料2万5千円も月給から天引きされていました。営業成績は同期でトップなのに、二年目の夏のボーナスが7万円。あまりに気の毒なので、転職を勧めました。

    ―ああ、あまりにも若者が気の毒で、これからどうしたらいいですか?

    だから、僕は若者に、不安に駆られて、やみくもに就活に走り回るのは止めなさいと言っています。

    就活する人が少なくなれば、雇用する側はそれなりの処遇を約束しなければならない。就活する学生が多いほど雇用条件は下がり、減れば雇用条件は上がる。

    言っておかなければならないのは、学生の不安をあおっている元凶のひとつが保護者だということです。

    とくに母親。

    母親は自分の子どもが『弱い』生き物だと思っている。これは懐妊し、出産し、育児してきたことの実感ですから、否定しようがない。

    母親は子どもが『他の子どもと同じようなものであること』ことを本能的に願う。子どもが悪目立ちすることを恐れる。だから、他の学生たちが就活していれば、自分の子どもにも就活して欲しいと思う。みんなが大企業狙いなら、自分の子どもにも『お願いだから、大企業に就職して』とすがりつく。

    たしかに多くの場合に『群れと行動を共にする』というのは安全な生存戦略です。

    でも、ときには群れそのものがリスクの高いふるまいをするということもある。群れから離れた方が生き延びる確率が高いということもある。

    いまの就活という集団行動はあきらかに集団の成員たちひとりひとりの生命力を損なっています。浮き足立って自分を見失っている。

    あなたの息子さんが、休学して少し考えたいというのは、危険から身を守ろうとする生物としてごく自然な感覚だと思います。

    21歳や22歳で人生を決める必要はありません。焦るな、不安がるな、自分を安売りするな、そうお伝えください。

    ―はい、休学もいいです…(涙)。ところで内田さんご自身の就職活動はいかがでしたか?

    僕は就活なんてしてません。僕の学生時代は学生運動のさなかでしたから、みんな長髪で、ヘルメットをかぶって、棒を振り回していた。そう言っていた連中が4年生になったら急に髪を刈って七三分けにして、スーツ姿で就職活動を始めた。

    『お前ら、革命はどうしたんだよ』って思うじゃないですか。

    仮にも革命性があるとかないとかいう理由で他の学生を罵倒したり、殴ったりしてきた連中が、『やはり東大卒の肩書きは活用しないと』と言って『ウチダも、もっと大人になれ』なんて説教してくるわけですから、僕だって怒りますよ。

    僕は我慢ということができない人間なので、卒業するまで髪はずっとライオンみたいに伸ばしたままで、汚れたジーンズにアーミージャケットという格好で過ごしました。

    そのまま卒業即ルンペン。2年間は“プータロー”でした。

    でも、翻訳の下訳したり、ラジオドラマの台本書いたり、家庭教師をしたり、友だちが持ち込む仕事だけでけっこう愉快に過ごしていました。

    大学の助手に採用されて毎月給料がもらえるようになったのは32歳でしたから、他の人たちより10年遅れの就職でした。

    ―10年かけて天職を見つけられたわけですね。最後に若者にメッセージを

    皆さんは就職を考え始めた、『自分に何が向いているのか』『自分は何がしたいのか』と考えたと思います。

    でも、それが大間違い。

    自分がどんな仕事に適性があるかなんて、誰にも分からないからです。

    適性というのはやってみて、あとからわかる。

    僕が無職で、頼まれ仕事だけで暮していた頃に気づいたことがあります。それは僕に仕事を頼んでくる人の方が僕の能力や適性について僕以上によくわかっているということ。向こうは僕にならそれができると思うから頼んでくるわけです。

    だから、頼まれた仕事は何でもやりました。経験のないことでも二つ返事でやりました。

    他者に呼ばれること、callingには『天職』という意味もあります。自分のすべき仕事は自分でみつけるのではありません。仕事の方が呼びに来るのです。もしあなたを呼んでいる声がまだ聞こえないのであれば、とりあえず『猫の手も借りたいくらいに人手を求めています』という現場を探して、そこで働いてみてください。とりあえず呼び声が聞こえない就活生は全員被災地のボランティアに行けばいいんじゃないですか。

    執筆: この記事は内田樹さんのブログ『内田樹の研究室』からご寄稿いただきました。

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