今回は取土十三さんのブログ『無駄話』からご寄稿いただきました。
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■人生をあきらめたくない君へ「さよならタマちゃん」
さよならタマちゃん
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2013年、今年一番オススメしたい作品。雑誌で読み続けて、何度も何度も泣いて、何度も何度も励まされた作品。リアルで辛い時、本当に助けてもらった作品。本当は作者さんに対して頑張れって言わなきゃいけないのは分かってるんです。でも、作品からはずっと、ずっと・・・、頑張れ、頑張れって言われてるような気がして・・・。
俺はどうしてもこの「さよならタマちゃん」を皆に読んでほしい・・・。
昨年からイブニングで連載していた「さよならタマちゃん」。タマちゃんというと、アザラシのタマちゃんを思い浮かべるかもしません。しかし、この作品の“タマちゃん”は男性の下半身的な“タマちゃん”を指します。その“タマちゃん”が“さよなら”になるという作品です。
精巣腫瘍になりましてん
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どんな健康な人であっても、どれだけ怪我をしないように気を付けていても、“病気”というものはいつ来るか分かりません。この作品は、作者の武田一義先生(病気当時はアシスタント)が自身に起きた、「精巣腫瘍」という睾丸の癌への闘病記を描いたものです。武田先生の場合、睾丸の方は早期発見だったそうですが、肺にまで転移しており・・・それはもう辛かったようです。
皆さんがもし癌になったらどう対応するでしょう。空元気でも出しますか?落ち込みっぱなしかもしれませんし、今のままの気持ちかもしれません。そのあたりはイメージトレーニングをしても分かりませんよね。やっぱり病気になってみないと何かもが分かりません。もし仮に病気になった時、あなたの側に支えてくれる人はいますか?同じ病院で出会う人たちとどんな会話をしますか?
この本が回答書だとは思いません。ただ、武田一義という漫画家さんが、体験した全てを・・・渾身の一冊にまとめた。そんな本を読むことで得られるものってきっと多いと思うんですよ。
味覚障害とか
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とにかく闘病生活は大変だったようです。薬も色々と投与され、武田先生は特に吐き気が大変だったそうです。こういうのって結構、個人差があるようですね。とにかくもうこの作品では・・・武田先生ずっとゲーゲーしています。食べたら吐く。そのため食べなくなったり、ニオイも音も辛くなったりしたそうな・・・。
ちなみに睾丸の病気なので、精子を保存したりもしています。このあたり、とてもリアルですねw 色んなビデオがあったり、看護師さんに精子の入った入れ物を渡すイベントがあったり。ただまぁ、男としては笑えない出来事かもしれません。
武田先生の涙
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この作品を読んでいて、個人的にどうしても泣く場面がいくつかあるんですけど、これはその一つ。もうね、泣く。絶対に泣く。まぁ・・・この場面は本当に辛いです。
武田先生はかなり溜め込む方みたいです。我慢強いとも言えますかね。辛そうな顔、辛そうな発言を何度も何度もするんですけど・・・病気が辛いと泣いたのはこの場面のみ。しかも、超分厚い一冊の中にあって、話の折り返し地点まで泣きません。密度の濃い病院生活の中、ず~~~~~~~~~っと我慢してた武田先生が奥さんに見せた本当の涙。
絵柄が可愛いらしいこともあって、作中の武田先生は笑顔が多めだったかもしれません。そんな中で、本気の涙というのはどうしても印象に残りますね。辛いことを我慢しなくちゃいけないなんてことはありません。時には泣いたっていいじゃありませんか。
闘病生活は辛い
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そして、この作品を語る上でどうしても外していけない人、それが武田先生の奥さんです。絵で見ると、めっちゃ可愛いのでご本人がどんな方なのかちょっと気になるところ。病気の旦那さんを支えるために色んなことをしてくれます。なお、睾丸がおかしいと気付いたのは奥さんだったそうな・・・。
武田先生にとって一番大切な人であり、一番大事にしなければならない人。気使いがとても素晴らしく、武田先生も信頼を置いている奥さん。ただ、そんな奥さんに作中で一度だけ(本当はもっとあったのかも)、ものすごく酷いことを言いました。
「来るな。」
奥さんは武田先生にとって手放してはいけない人。そんな人に対し、途中で「来るな」と言ってしまいます。その後、自己嫌悪に陥る武田先生。かなりの愛妻家だと見受けますが、どうしても耐えられなくなって言った「来るな」という一言。このあたりも・・・グッと来ますねぇ・・・。
ちなみに、その時の言葉を奥さんがどう受け取ったか。このあたりは是非確認してほしいところですが、奥さんがすごく良妻であることが分かる場面だったりしますよ。くそっ!!
帯にも登場のO先生
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さて、話は少し逸れますが、武田先生は漫画のアシスタントをしていました。講談社系かな~?と思っていたら、どうやらアシ先の漫画家さんは「GANTZ」の奥先生だそうじゃありませんか(単行本の帯で知りました)。この奥先生とのやり取りもまた面白いものだったりします。
病気になった武田先生は、奥先生のアシスタントを辞めることを伝えています。しかし、奥先生、他のアシスタントさん、全員がそれを拒否したそうです。新しい人をいれずに武田先生を待つ。そんなやり取りがあったそうです。
「迷惑をかけたくない気持ちも分かりますけど、病気なんだからそれはあきらめませんか」
この時点で、武田先生と奥さんだけではなく、武田先生の仕事場を含めた闘病生活になってます。人と人の付き合いって、結構大きいものだと思います。もちろん、その判断をした奥先生もすげーなとちょっと感動してしまいましたよ。
武田先生の病気については、色んな人が関わっています。分厚い単行本になってますんで、どれだけの人が出てきているかは予想がつくでしょう。いや、当然のことながら病院の先生、看護師さん、他の患者さん(患者さんはかなり多い、入れ替わりが多い)が登場するわけですよ。その病気と闘うためのパートも重要なんですけど、上述の奥先生の一言って、武田先生が“漫画家”として死ななかった重要な要素なんだろうなぁと思っています。
仕事場に迷惑がかかると辞意を表明した武田先生に、病気が治るまで待つと言った奥先生。仮に奥先生がOKを出していたら、いや、本当にもしかするとの話でしかないですけど・・・、この本も出てなかったかもしれません。
武田先生を救った先生
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で、この本が出ているということは、武田先生・・・生きてます。当然のことながら生きています。治らない確率もある病気だったそうですし、副作用だけで死ぬんじゃないか?という描写ばかりな作品でしたが、武田先生は生きています。いや、背中がハンマーで叩かれるような痛み(衝撃?)がある副作用ってビックリしますやん・・・。
そうそう。医療漫画ということではないので、それほど治療描写は強烈ではないということだけ言っておかないといけませんね。かなり暗いテーマではありますが、(何度も言っているように)可愛い絵柄がかなり緩和しています。この漫画が読みやすいなと思う理由の一つがそれかもしれませんな。某医療漫画とはえらい違いますね。もちろん絵柄が可愛いからといって、命を軽々しく扱ってるわけではありませんので、あしからず。
で、あまり登場場面は多くないですが、結構医者の吉田先生がお気に入りキャラだったりします。軽口が多い?という印象ですが、命を重く見てくれるいい先生だなと感じました。もちろんその軽口も嫌味のないところがいいですね。個人的には、そういう先生が一番信頼が置けると思います。そういったところは、患者との相性なのかもしれませんけどね。要チェックな人です!!
武田先生を襲った大きな災難
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●手のしびれが取れない
ただ、(俺の中で)名医と謳われた吉田先生でしたが、治療の途中で後遺症が出ていることに気付きませんでした。しかも、よりにもよって・・・武田先生の手から痺れが取れないという後遺症。改めて言うまでもありませんが、武田先生は漫画家です。その漫画家さんが繊細な動きを手に与えられない。それって・・・。
奥さんの表情から見る本当の辛さ
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武田先生が病気が辛いと泣いた時、自分も病気になった時、武田先生に病気が発覚した時、どんな時であっても芯の通った態度であった奥さんが、どうすればいいかと“この時だけ”悩んだ表情をします。武田先生の“辛い”という心情を、奥さんの表情が全て現しています。この場面、もうめっちゃ上手いなと思いました(漫画的に)。この後に、武田先生の漫画に対しての感情を描いている場面はありますが、この奥さんの表情の場面が一番キツいなと思いました。
こればっかりは読むべきだなと思いますが、どう考えてもこの場面が一番辛い。それは漫画家という芯がこの作品にあるから。「奥さんがしっかりしている=何とかなる」の記号が、ここだけ崩れたから。漫画が好きな人間として、闘病の辛さとはちょっと違ったものを感じ取ってしまいます・・・。
アシスタントから漫画家として
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ただし、この作品は出ています。手が昔のように動かなくても武田先生はこの作品を創りあげています。いまだに手は治っていないようです。でも、でも・・・、頑張ったんですよ。手が思うように動かなくても描いたという事実に俺は驚きを隠せません。何がどうなって、こんなに暖かい絵が描けるんだろう・・・?奇跡か?いや・・・本当に努力したり、無理したりして描いたんだろうなぁ。(ちなみに日常生活には支障の出ないレベルでは回復しているそうです。)
実は「さよならタマちゃん」という作品を語る上で、どうしても避けるべきではない“とある出来事”を今回ここでは書きませんでした。生き死にを扱う作品だからこそ、闘病生活が本当に大変だからこそ、現実が描かれているからこそ、本当は言及すべき内容があるんです。ただ、今回はあえて書いていません。そのあたりは読んでもらいたいという意味を込めてます。超オススメです。
それと、武田先生の今後がとても気になります。かなり力の入った作品を一つ発表したわけですけど、やはり病気や生き死にを扱う作品って、どうやっても感動モノとして完成されてしまうんですよね。というか、面白くなる特急券みたいなテーマだと思ってます。これから漫画家・武田一義がどんな作品を発表していくのか。そこがとても楽しみでもあります。できれば講談社で頑張ってもらいたいなあと思います。次回作にも期待!!!
余談になりますが、武田先生は当時34歳~35歳だったんですよ。結構若いなぁと思いつつ、数年後には自分も同じ年齢になります。ちょっと怖いですよね。ただし、そんな武田先生と俺は大きな違いが一つあるわけで・・・。素敵な奥さんが俺にはいない!!!武田先生は奥さんにかなり助けてもらってました。そんな人が・・・俺には・・・いない。やばい・・・。嫁さん募集してます。
さよならタマちゃん(講談社,作者:武田一義)より引用
「さよならタマちゃん」 武田 一義(著) 『amazon』http://www.amazon.co.jp/dp/4063524779/
執筆: この記事は取土十三さんのブログ『無駄話』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年09月04日時点のものです。
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