今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
■ニュース短信 なぜ、人はリサイクルが「良いこと」と思うのか?(中部大学教授 武田邦彦)
4月の消費税増税に合わせてパナソニックやソニーなどの家電大手は家庭用エアコンやテレビの引き取りにかかる家電リサイクル料金を引き上げる。パナソニックはエアコンのリサイクル料金1,575円から1,620円に、16型以上のテレビは2,835円から2,916円にする。その他の冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機についても同じだ。
実に不思議だ。不思議なことはいくつかある。
1)家電リサイクルを始める前は、家電製品は1つ500円で引き取り、価値のある金や銅を抜き取ったら焼却していた。
2)クーラーは銅が多く使われるので、盗まれることすらある。それをリサイクルの時には「お金をくれる」のではなく、「お金をとって家電メーカーがダブルで儲ける」という値段設定だ。
3)リサイクルが「価値のあるもの」を回収するなら、(1つ500円―回収した価値あるものを売った代金)=500円より少ない金額になるのに、リサイクルが始まって高くなった(日本国全体の費用も高くなっている)。
4)世界で家電リサイクルをやっているのは日本だけ。
こんな具合なのに、まだ「リサイクルは資源の節約になる」と思っている人が多い。自分の身の回りのことしか見えず、日本全体で何が行われているのかが見えない。それを専門家が狙っているのだ。
・・・・・・・・・
いったい、家電リサイクルとはなんだろうか? 本来なら、家電を販売して、それが古くなったら、民間の「回収屋さん」が来て、ものによって、3,000円ぐらいのお金をくれる(銅などが多いクーラーや、金などが多く含む電子基板)場合、あまり価値のあるものがないものは0円か逆に1,000円ぐらいを払って持って行ってもらう。
回収屋さんが解体して、価値のあるものを抜いて、残りのかすを自治体の焼却炉に持っていく。回収屋さんはもともと「さんちゃんビジネス」で、お父ちゃん、お母ちゃん、兄ちゃんで軽自動車に乗り、一家でやっと生活してきた。
ビジネスというのは、それが扱うものの価値の高さで裕福になると言われている通り、新車を作るトヨタ自動車、レクサスを売る販売店はお金持ちだが、その部品を作る中小企業はあまりお金持ちではない。さらに中古の軽自動車を売る人の収入が少ないのは世の常である。良い悪いではなく、そうなっている。
だから、家電製品の回収業というのは小企業に限り、「管理費」や「東京に本社ビル」などがあるはずもない。ところが「家電リサイクル」というのは、指導しているのが霞が関にある環境省と経産省。実施がパナソニックや日立だから、ものすごい経費がかかる。
だから、
リサイクル制度前: 自治体引取りは平均500円。業者引き取りは平均0円
リサイクル制度後: 引き取りがおよそ3000円。消費税上げで上げる。
となった。
リサイクル制度があってもなくても、価値のあるものはリサイクル屋さんが回収してお金にするので、それは同じだ。「リサイクル制度がなければリサイクルされない」などということはなく、価値のあるものをほっておくような「ビジネスチャンスがあってもだれもやらない」というのんびりした社会ではない。
一般リサイクルもリサイクル制度が始まってから国民一人当たり4,000円を支払ってきた。リサイクルはほとんど実施されていないが、このお金を目的として「リサイクル品として引き取り、ほとんどリサイクルしないで焼却している」人が1万人いる。
一人当たり一年、リサイクル関係の税金の受け取りは4,000万円。すでに20年ほどたったので、一人あたり8億円の不当利益を得ている。官制リサイクル制度を止めて自由競争にすると、リサイクルの税金は5分の1に減り、分別もいらなくなるのに、錯覚とは恐ろしいものだ。
ただ、官制リサイクルでうまみがあるのは自治体で、焼却炉を建設する苦労がなくなり、リサイクル分だけ予算に余裕ができる。だから、自治体は官制リサイクルに賛成するのであって、国民のことを考えているのではない。
執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年02月18日時点のものです。
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