■新刊レビュー『ありふれた愛じゃない』
●書誌情報
どんな本?
藤沢真奈は32歳、銀座の老舗真珠店でチーフマネージャーを務める。お局の部長に目の敵にされながらもやりがいをもって接客に励んでおり、顧客の信頼も厚い。私生活では6歳下の大野貴史と半同棲状態にあり、結婚も遠くなさそうだ。夢ばかり見るかつての恋人との苦い生活を経て、真奈は安心と穏やかな日常を望んでいた。ある日、真珠店の高橋社長に呼び出された真奈は、タヒチ出張への同行を命じられる。――中略――
同性上司との対立と和解、自分らしく働きたいという思い、年下の恋人への遠慮、人生で最も愛した男の記憶……恋愛と仕事に心揺れる大人の女性であれば誰もが胸に覚えのある切実なテーマを描き、読む者のこころを強く捕える、激しいラブストーリーが完成した。 著者は2度のタヒチ取材を敢行。美しい海や島々の豊かな自然、世界一のリゾートホテル「セント・レジス」の豪奢な空間、人々で賑わう朝市や屋台村「ルロット」の猥雑な魅力、出産のために訪れるクジラ……精緻な描写で楽園の島の風物もリアルに伝える。
【目次】
第一章 月のしずく
第二章 水と炎の島
第三章 神々の香気
第四章 秘密の棘
第五章 いびつな真珠
第六章 満ち潮
第七章 月の裏側
終章 虹を歩む
●読みどころ
感情のままには動けない、そう簡単に捨て身になんかなれない――大人の女性の葛藤に心が揺さぶられる。自由奔放に生きる、危険で甘美な男・竜介に心が惹かれる。
そして、真珠をはじめとした宝飾の世界や、輝くタヒチの自然描写に胸がときめく。
ドキドキが止まらないラブストーリー。
●レビュー
オススメ度:★★★★★
読了時間:約5時間
はっきり言って、ナメていた。舞台がタヒチというのも見て、「は? タヒチ? 南の島でランデブーってか」みたいに思っていた。ところがとんでもない。タヒチじゃなくちゃいけなかった。タヒチの自然や文化がなくしては、このラブストーリーはこんなに激しく、甘いものにならなかった。
これまた安易だと思ってしまった“元恋人との再会”という設定もかなりミソだった。
大企業に勤め、自分を一心に求めてくれる子犬ような恋人・貴史と、日本社会的にはダメダメで不安定だけれど、野性的な魅力に身も心も尽くしてしまいそうになる元恋人・竜介。
貴史みたいな男にまっすぐに愛されるのも憧れだし、苦労するのがわかっていても、竜介みたいな男と一度は恋に落ちてみたい気もする。女性の両極端な願望が表れている二人だと思う。
無意識に気づかないフリをしてみても、頭ではダメだとわかっていても、抑えがたい欲求に戸惑う真奈。でも楽園の島が気が付かせてくれる。本当の自分を、そして本当に求めているものを。
真奈の揺れ動く心や、仕事・恋愛観には共感するところばかり。感情移入していくうちに、自分の理性の方が先にとびそうになり、後半はかなり焦れったい気持ちになった。
登場人物の中の一人、バーテンダー・ジョジョもよかった。はっきりとして辛口でありながら、その実思いやりがたくさんこもっている言葉の一つ一つは、筆者自身にも力をくれた。また、真珠にまつわる伝説や業界の話も素敵で面白かった。
仕事に恋にがんばっている大人の女性が、ほんの少し、がんばるのに疲れてしまったときに読んでみてほしい。
●詳細情報
書籍名:ありふれた愛じゃない
著者:村山由佳
価格:1500円(税別)
出版社:文藝春秋
※表紙画像、書誌情報は文藝春秋BOOKSより
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900360
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