今回はふとい眼鏡さんのブログ『誰かが言わねば』からご寄稿いただきました。
■右傾化のメカニズムを三段階に分けて説明(誰かが言わねば)
前回のエントリー「右傾化する人達が根本的に分かっていない一つの事実」のブックマークコメント欄へたくさんのコメントをお寄せいただきましてありがとうございました。
「右傾化する人達が根本的に分かっていない一つの事実」 2014年04月19日 『ガジェット通信』
http://getnews.jp/archives/554711
右翼的な方からは左翼的だとご指摘いただき、左翼的な方からは右翼的だとご指摘いただいたので、バランスのとれた客観的な文章が書けたのかなと安心しております。
さて、お寄せいただいたたくさんのコメントを見ていますと、ひとつ気になることがありました。左翼的な方からのコメントを見ていて感じたのですが、左翼的な考え方の人達は日本人の右傾化の加速を随分と甘く見ているのではないでしょうか?ネウヨなんてどうせニートばっかりなんだからほおっておけばいいんだ、というのは数年前までの話で現在の状況はもっと深刻です。
そこで今回は最近の日本で起こっている右傾化のメカニズムを三段階に分けて説明したいと思います。
三段階の説明に入る前に、前提として理解しておいていただきたいのが、ここ20年強の間に日本人の自信が徐々に失われつつあるということです。
経済成長期の日本では幸せとはひとつひとつ手に入れていくものでした。貧しかった当時の日本人は少しずつ裕福になっていく自らの生活を、幸せを獲得していく過程だと考えていました。
しかしバブル崩壊あたりから、日本人の多くは自分が求めるべき幸せとは何なのかが分からなくなりました。目標を見失ってしまった日本人は自信を失い始めます。
経済の成長期には、大人達は自分の生き方が正しいと信じていましたし、子供達にも自分と同じ生き方を押し付けようとしました。それに対して子供達の側は反抗し、場合によってはグレることもありました。
その後、拓銀や山一證券の倒産、新興国の台頭、日本の大人達の自信は少しずつじわじわと失われていきます。自分の生き方に自信を持てなくなった大人達は子供達に自らの生き方を押し付けようとはしなくなりました。そうなると子供達は大人に反抗することがなくなります。なにしろ大人の側に軸がないのですから反抗しようがありません。それどころか子供達は、何の方向も提示してくれない大人に自分から生き方を教えてもらおうとすることさえ珍しくありません。ただ、答えを持たない大人達には「夢はないのか?」と聞き返すくらいしかすべがありません。
20年以上にわたって、日本の経済は停滞し新しい価値観は見つからず日本人の自信喪失は少しずつ進行していきます。
こういった世相の中で右傾化の第一段階が起こります。
彼等(この段階で右傾化した人の多くは男性です)が急速に右傾化した原因はインターネットの普及とニートの増加です。ニートの男性は「仕事」を通して自信を獲得することができません。ニートの一部は自信の源を自らの内ではなく外に求めました。つまり自信の源を自分で築きあげることを諦め、かわりに「自分は日本人である」という誇りで埋めあわせようとしたわけです。インターネットの普及により、自分の部屋という安全な場所から気軽に勇ましいことを叫べる環境が整いました。同時に同じような主張を持つ人同士がインターネットを介してつながることができるようになったことも右傾化が進行した原因です。
この段階では、右傾化はインターネットの中だけで起こっている出来事であって、現実の世界にはほとんど影響力を持っていませんでした。
そして右傾化は第二段階へと進行します。
この段階では比較的所得の多いサラリーマンや自営業者にまで右傾化が広がりました。その原因はSNS、特にFacebookの普及です。
Facebookでは今現在のつながりだけではなく、昔の友人達ともつながることができます。今現在の友人は似た属性を持った人であることが多いですが、昔の友人達はそれぞれ異なる属性を持っています。30代40代くらいの人が学生時代の友人と集まると仕事の話や自分の生活の話をして互いに心の中で優劣を判定しあいます。結婚せずにキャリアを積んでいる女性は男性と対等に働くことの素晴らしさを語ろうとしますし、結婚して子供のいる女性は育児を通してえられる経験は何物にもかえがたいものだと語ろうとしますし、結婚せずに恋愛をする女性はいつまでも女の幸せを感じる生き方こそ最も輝いているのだと語ろうとします。男性の場合は自分のやっている仕事がいかに大きな仕事で自分自身がそこでどれだけ必要とされているかを匂わせようとします。女性の方は対立軸が複雑なのではっきりとした優劣は決まりません。一方、男性の方は全員が「仕事」という同じ土俵に上がりますから序列が丸見えになってしまいがちです。
そしてFacebookでもこれと同様のことが起こります。男性の中でも他人に向かって自分の話をしても分が悪い人には語るべき内容がありません。彼等の大部分は「趣味の話」に逃げ込むかほとんど更新しないという手段を選びますが、一部の人が「自分以外の何かを語る」という方法を選びます。そして反論されにくい「愛国」の話を選びます。彼等は日本というのはすばらしい国で、そこに生きる日本人は日本人としての誇りを忘れてはいけないといった陳腐な内容をまるで自分の意見かのように述べたてます。彼等はかつての友人達に説教するかのように斜め上から話をすることで、自分が一段上に立ったような錯覚を感じて喜びます。実際にはかつての友人達は「あいついったいどうしちゃったんだろうね?」と陰口をたたきあっているのですが、そんなことにも気づかずにパッとしない自分の話をするかわりに国家とか民族主義とかの話をし続けます。つまりFacebookの登場によって、失われた自信を急いで埋めあわせねばならない人達がうまれたために彼等は急いで右傾化したわけです。
年収や社会的地位が低い男性の多くはそもそもFacebookにアカウントを作りたがりません。Facebook上で急速に右傾化した人達は「世の中の平均よりは収入が多いが、Facebook上で接する昔の友人の平均よりは収入や社会的地位が低い男性」です。
さらに右傾化は第三段階へと進んでしまいます。
原因はいくつかありますが、特に大きな原因は隣国の度重なる挑発行為と東日本大震災後の迷走です。
東日本大震災と福島の原発事故をきっかけに日本人はさらに自信を失ってしまいました。新興国が台頭し経済力の優位が薄らいでいく中でも、日本の誇る科学技術や物作りの技術は世界最高のレベルにあるのだということが日本人の数少ない自信の拠り所だったわけですが、原子力発電所の事故は収束のメドさえ立ちませんし、フランスやアメリカの手助けがないと汚染水の処理すらできません。被災地の復興も遅々として進みませんし、化石燃料の輸入増加で貿易赤字が拡大し経常収支まで赤字化しつつあります。日本人の自信はさらに失われてしまいました。そうして、失われた自信を別の何かで埋めあわせようとする傾向が「普通の人々」にまで広がってしまいました。
同じ時期に、隣国の日本への挑発行為はエスカレートしていきます。尖閣諸島周辺の領海をたびたび侵犯され、関係のない国に従軍慰安婦像を設置され、といった一連の出来事は多くの日本人を不愉快な気持ちにさせました。「自虐史観を見直すべきだ」というような主張を受け入れると、それだけで不愉快な気持ちを吹き飛ばすことができますし、同時に失った自信を取り戻したような錯覚を感じることもできます。こうやって右傾化を受け入れることで「民族としての誇り」を失われた自信の代わりにしてしまう人が急速に増加しました。
右傾化の第二段階までと第三段階との間には大きな違いがいくつかあります。まず第二段階までは右傾化は一部の特殊な人の話だったのが第三段階では普通の人々(女性を含む)にまで広がってしまったこと。第二段階までに右傾化した人達は声高に主張を叫びたがりますが第三段階で右傾化した人々は静かに無言で右傾化していること。そして第三段階で右傾化した人の多くが自分が右傾化しつつあることに気づいていないということです。これは非常に危険な兆候です。
東京都知事選での極右候補の得票数は予想以上に伸びましたし、各種媒体の世論調査でも「譲歩するくらいなら隣国との関係が改善しなくてもよい」といった回答が50%前後という水準まで高まっています。総理大臣が改憲をチラつかせても支持率が下がらないというのも(良いか悪いかは別として)数年前までなら考えられなかったことです。右傾化は第三段階まで進行し、いよいよ現実世界に影響するレベルまで来てしまったわけです。
失った自信を「民族の誇り」で補おうとする人達が民族主義や国家主義的なところに逃げ込む現象は日本だけの現象ではなく、アメリカやヨーロッパでも多かれ少なかれ見られる現象です。いかにしてこの問題を乗り越えるのか、これは非常に重大な課題です。
20世紀の半ば以降、核の抑止力がはたらき大国同士の戦争はできない状況になりました。その状況で今さら民族主義や国家主義などという過去の遺物を持ち出しても無意味です。そんなやり方で何ひとつ解決することはありません。
そもそも、隣国の挑発に報復しても日本の技術力が期待していたほど高くなかったという現実は変わりません。これから先も途上国や新興国の経済力が上向く分、相対的に日本の経済力の優位性が失われていくという現実も変えることはできません。
静かに右傾化してしまった彼等や彼女等に自分を取り戻してもらうためには別の形で自信を回復してもらうのが最もよいでしょうし、右傾化せずに踏みとどまっている人達にも自信を回復して生きていく上での軸をつくってもらうにこしたことはありません。生きていく上での基盤となる自信の築きかたの話は長くなるのでブログでは書けませんが、電子書籍「愛というストレス、幸せという強迫」の中でふれていますので、興味のある方はご参照ください。
「愛というストレス、幸せという強迫 [Kindle版]」 ふとい眼鏡(著) 『Amazon』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00C4QWYNY
最後に、前回のエントリーでふれた「正しいことが正しいことと認められる完成された公正な世界」が実現されることがありえるのか、という話をしたいと思います。
日本人の自信がゆっくりと失われつつあるのと同様に欧米の人達の自信もゆっくりと失われつつあります。新興国の経済が成長し、先進国とされていた各国の優位はあらゆるジャンルで失われつつあります。そしてこの流れはこれから先も続きますから、優位性と自信を失った欧米の人達が自分達の過去の過ちを認めざるをえない時がやってきます。いずれ欧米各国は自分達が長くにわたって植民地政策を行った罪を認めるしかなくなるでしょうし、敗戦国だけではなく戦勝国にも人道に反する罪はあったのだと認めるしかなくなることでしょう。
その時に「正しいことが正しいことと認められる完成された公正な世界」がおとずれるのか「新たに力を持ったどこかの国がルールを捻じ曲げるろくでもない世界」になってしまうのか、それはどちらの可能性もあります。
どちらにしろ今は、国際的な立場を悪くしないようにしたたかに生きるしかすべがありません。駐日アメリカ大使館のFacebookアカウントを炎上させても日本にも民度の低い人がいるとバレてしまうだけで何のプラスにもならないのですから。
さて、あなたはどう思いますか?
「右翼と左翼の類似点」へ続く
ふとい眼鏡のブログ「誰かが言わねば」
http://futoimegane.hatenablog.com/
執筆:この記事はふとい眼鏡さんのブログ『誰かが言わねば』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年04月18日時点のものです。
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