今回は城繁幸さんのブログ『Joe’s Labo』からご寄稿いただきました。
※この記事は2014年06月14日に書かれたものです。
■テレビ局内定者へ 「やっぱり君たちはすごいよ」(人事コンサルタント 城 繁幸)
テレビ局内定者の打ち上げ会の様子*1が話題になっている。
*1:「「オレたち、すごくね?」キー局内定者飲み会での傲慢トークの一部始終」 2014年06月12日 『BLOGOS』
http://blogos.com/article/88342/
やはり日本人は勝ち組負け組というキーワードが大好きらしく、多くの人の心の琴線に触れたらしい。お前一人の力じゃないだろうとか、いまどきテレビくらいでなに有頂天になってんのとか、いろいろな大人の突込みが散見されるが、筆者の見方はちょっと違っていて、みんないい仕事してるなあというものだ。
まず、内定者たち本人が言っている「俺たちはすごい」というのはかなり痛い勘違いで、キー局は新人にとって既にさほど魅力的な職場ではなくなっている。拙著や本ブログの読者なら今さら言うまでもないだろうが、終身雇用・年功序列型の組織において、貰いすぎの中高年の賃下げは難しいから、全体の賃金水準を抑制する際は、若手の昇給を抑制することで時間をかけて賃金水準を下げることになる。
イメージでいうと、すごい高給取りの先輩を「羨ましいな!いつか僕もああなるぞ!」と思って見ていたら、20年後に先輩より3割くらい低い賃金にしか昇給できておらず、社員の平均賃金も3割減っていました、という具合だ。
だから、一流企業ではあるけれども、平均年齢と平均年収が高くて業界的に停滞している有名企業に今さら入るのは、往年の高給取りをボランティアで支えてあげる仕事に就くようなもので、全然おすすめしない。
参考リンク:
「エルピーダとルネサスの軌跡をキャリアデザイン的にふりかえる(メルマガ)」 2013年08月07日 『Joe's Labo』
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/6717378.html
既に数年前から賃金水準の3割カットを打ち出した日テレや、新規入社者を全員子会社所属にしているTBSを見ても分かるように、テレビ業界は明らかにそういう業界だ。「いや、それでもメディアの仕事をやりたいんです」って人はドワンゴにでも行くといい。
とはいえ、会社としては「それでもいいです、とにかく正社員で内定さえもらえればOKです」的な後ろ向きの人材ばっかり来られても困るわけで、そこはだましだましモチベーションの高い人材を選抜しないといけない。意外に知られていないが、内定者に強烈な選民意識と自己陶酔感を与えて正社員メンバーの一員として4月1日に迎え入れることも、採用セクションの重要なミッションだ。
「おまえたちは競争率数十倍の中から選び抜いた正真正銘のエリート、勝ち組だ。だから、それに値する働きを見せてくれ、頼んだぞ!」
こういう啓示をしっかりと植え込みつつ、栄えあるテレビマンとしてバリバリ活躍できる下地を作っておかねばならない。問題の打ち上げの様子が事実とすれば、人事部は実にいい仕事をしていると思われる。
もちろん、彼ら内定者も、これから“いい仕事”をしてくれることだろう。日本は終身雇用のおかげで、失業率が4%前後と、先進国平均の半分ほどの水準で安定している。それは、高給取りの人たちを企業がずっと面倒見てくれているからで、まあ正直言うとそのコストは若手も含めた正社員全員で負担しているのだけど、彼らはこれからその貴重な担い手になってくれるわけだ。
もし企業が、高給取りのおじさんたちをクビになんかしたりしたら、彼らのバカ高い失業給付は我々納税者が負担することになる。「みなさんの代わりに、先輩方の暮らしは僕たちが定年まで面倒見ますよ」と言ってくれているわけだから、勇気ある若者たちにエールを送りたい。
執筆: この記事は城繁幸さんのブログ『Joe’s Labo』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年07月04日時点のものです。
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