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 エボラ出血熱、WHO「緊急事態」

西アフリカのエボラ出血熱が拡大している。世界保健機関(WHO)は「40年で最大の流行」として8月8日、「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」を宣言した。現地では死者が961人に達し、医師も職場から逃げ出すほどの深刻な事態だという。発生国への渡航自粛の動きも広がっている。

緊急事態の宣言は、現在の基準になった2007年以降、2009年の新型インフルエンザ、今年5月のポリオに続いて3件目。宣言とともに勧告も公表された。各国に十分な医療や監視の体制を整えるよう要請。感染が広がっている国では、大規模な集会の制限や、出国者に対する健康調査の徹底などを求めた。

リベリアは8月6日、90日間の非常事態を宣言。大部分の国境検問所を閉鎖し、人の往来を規制している。地元紙記者アロシアス・デビッドさん(36)は電話取材に「みんなパニックを起こしている」と話した。

商店の店先など、あらゆるところに消毒液が置いてある。「生活が一変した。親類ですら握手や体を触るのを避けている」。人が容易に入れない森林地帯の集落では感染者の把握すらできていない。「患者は放置され、遺体が野ざらしになっている」という。(asahi.com)

 世界中に広がる可能性は?

リベリアから航空機でナイジェリアに入った40代の米国人男性に感染が発覚し、数日後に病院で死亡。エボラウイルスは感染力が強いため、同じ航空機に乗り合わせた人たちへの感染がないか、世界中が恐怖に陥っている。

こうなると心配なのは、日本上陸だ。現地に日本人看護師を派遣している「国境なき医師団日本」の広報担当者が、こう指摘する。 「感染者の移動が全面的に止められていない以上、エボラウイルスが日本に上陸する可能性はゼロではありません。ウイルスには潜伏期間があるため、感染に気づかないまま広がる恐れも、十分にあるのです」

日本で感染が広がる可能性について、厚生労働省は「今のところ非常に低い」とみる。流行国と日本を行き来する人が少ないうえ、患者の間近にいる医療関係者らでない限り、感染は考えにくいためだ。国立感染症研究所の西條政幸部長も「日本の一般市民が恐れるレベルではない」と話す。

だが、「万が一」に備えて対策は強化する。厚労省は8日、流行国からの入国者を必要に応じて診察し、朝夕2回の健康状態の報告を求めるよう、全国の検疫所に指示。都道府県に対しても、帰国後に発熱を訴えるなど、感染が疑われる患者が医療機関を受診したら、ただちに報告するよう求めている。

エボラ出血熱は、感染症法で危険度が最も高い「1類感染症」。確定した患者は、病原体が外に漏れないようにした特殊な病室などを備えた全国47の感染症指定医療機関に入院することになる。ただ、1類感染症の国内での発生報告は、1999年の感染症法施行以降ない。

厚労省は「これまでアフリカ諸国でエボラ出血熱が流行し、日本に上陸したケースはありません。帰国者に感染が見つかれば、感染症法に基づき入院や消毒などの対処をします。西アフリカへ不要な渡航を控えるよう、注意喚起もしています」(健康局結核感染症課)と説明したが、“過剰反応”によるパニックも怖い。(asahi.com)

 ウイルスと野生動物の関係

それにしてもなぜエボラウイルスは、西アフリカだけに流行しているのだろう?突然日本で発生することはないのだろうか?

結論からいうと“突然”発生することはない。理由は日本にウイルスが存在しないからだ。感染者が帰国してから広がる可能性しかない。

これには、同じウイルスで広がる「インフルエンザ」を考えるとわかりやすい。人間に取りつくインフルエンザウイルスのルーツはアヒルやカモなどのトリたちだ。このウイルスはトリには何の被害も与えないで共存している。

2009年に流行したブタインフルエンザ。これは、トリから人間への仲介役をブタが果たした。ブタの細胞にはすでに人間から侵入してきたインフルエンザウイルスがいて、外から飛来してきたトリから移って来たウイルスと交雑し、雑種強勢で、世界規模で流行するようなパワフルな新型に生まれ変わった。

エボラウイルスの宿主はその土地に生活しているオオコウモリだといわれている。アフリカではオオコウモリをとらえて食料にする地域も多く、動物との接触というのはごく自然に行われている。つまり、動物にウイルスが共存しているかどうかが問題であり、その動物とヒトが接触することが原因になる。

エボラ出血熱に似たような出血熱を起こさせる他のウイルスについては宿主の正体が判明しているものもある。例えば、韓国のハンタという村で見つかった「ハンタウイルス」というのは腎臓からの出血で腎臓を溶かす腎出血熱を起こすが、その宿主はネズミと言われている。

1960年代まで日本で恐れられていた「梅田熱」がこのハンタウイルスと同じものだったというのはあまり知られていない。大坂・梅田の闇市で、ネズミが持っていたこのウイルスに人間が感染し、119人が発病した。その後、全国の大学医学部付属病院でも同じような死亡事故が起きた。研究用のネズミの持つウイルス感染が原因だった。そのため、研究用の貴重なネズミ数千匹を安楽死させたということもあった。

 エマージングウイルスの出現

1960年代以降は、とくに出血熱ウイルスを中心に新しいウイルスが次々と発見された。それらはまとめて「エマージング(新参)ウイルス」と呼ばれ、いずれも「レベル4」の恐ろしい殺人ウイルスたちだった。

マールブルグ病を起こす「マールブルグウイルス」は1967年に当時の西ドイツのマールブルグ市の実験動物施設で発見され、ポリオワクチンを作るために輸入されたミドリザルの腎臓を扱っていた職員らが高熱から、嘔吐や出血傾向を示して腎不全で多数がなくなった。

1976年、アフリカ・ナイジェリアのラッサ村で見つかったラッサ熱はマストミスというネズミが持っている「ラッサウイルス」によるもので、飛沫感染や皮膚の傷口から感染し、高熱、下痢、腹痛などが生じエボラ出血熱のような全身性の出血を起こす。高い致死性を示し、欧米にも持ち込まれ国際問題になった。

この他、デング出血熱ウイルス、マチュポウイルス、キリミア・コンゴ出血熱ウイルス、ブラジル出血熱ウイルス、新型黄熱ウイルスなどとエマージングウイルスは後を絶たない。とくに4大出血熱ウイルスとしてのエボラ、マールブルグ、ラッサと並ぶコンゴ出血熱はウイルスの宿主として家畜が疑われていて、アフリカからユーラシア大陸へ、そして中国西部にまで広がり、いずれわが国へも侵入の危険性が高いと言われている。

新しい話では1993年から95年にかけて、アメリカのロッキー山脈のあるニューメキシコ州やアリゾナ州にハンタウイルスによく似た新型のウイルスが現れ、ニューハンタウイルスと呼ばれている。これは腎臓ではなく、肺から出血し、50人の命が奪われたと言う。宿主はシカネズミで感染経路ははっきりしていない。

 ネズミはウイルスの宝庫

哺乳類の中で地球上で一番繁栄しているのがネズミだが、世界中のほとんどのネズミがハンタウイルスを持っていると言われる。このウイルスはネズミにとっては危険性が低いのだが、ひとたび人間にうつると出血熱を起こして死に至らしめる。

ネズミと同居して暮らしている人間にとっては、絶えず出血熱の危険性と背中合わせであると言える。現に1948年から94年までハンタウイルスによる事故報告はずっと続いており、死者延人数はエボラよりも多い。

エボラが全身に広がるのに対してハンタは腎臓を溶かすのが特徴。致死率は宿主から人間に最初に入った時ほど高く、怖いものだが、人間から人間に感染していくにしたがって毒性は次第に消えていく。

エボラはアフリカで出現したが、出血熱はアメリカ、ブラジル、中南米などで出ており、今後どこにでも顔を出す可能性があると言われている。

その背景としては環境破壊による地球温暖化現象による影響が大きい。熱帯地方がだんだんと亜熱帯地方にまで及んでくると、それまで熱帯地方だけに局在していた動植物が、未知のウイルスとともに広がることが予想されている。人間が未踏の地に入り込んで環境破壊をしていくたびに、新しいウイルスとの接触も増えていく。

フレボウイルスという分類に入る仲間のウイルスの主な隠れ家となっているのが蝿や蚊と言われる。蚊によって伝播されるリフト渓谷熱は家畜のみならず人間にとっても恐ろしい出血熱で、1930年代に出現した。

このウイルスが猛威をふるうきっかけとなったのは、農地の拡大に伴う水不足の解決、あるいは、市の中心部から郊外に向かって伸びる住宅地への水の需要に応えるために始まったダムの開発ではないかと言われている。

 野生動物には、未知のウイルスが存在する

東アフリカ、ケニアのリフト渓谷のあたりで、まるで人間の悪性インフルエンザにかかったような初期症状を見せて、ヒツジ、ヤギ、ウシたちが苦しみ出した。それで終われば問題はなかったのだが、病原体は血液を介して他の臓器へと波及し、それらの細胞をボロボロにしてしまった。

ヒツジでは死亡率が90%を超えたと言うから、エボラも顔負けの凶暴さだった。この奇病が発生したのは、その近辺でダム開発の大がかりな工事が始まった1930年代に入ってからと言う。蚊を使った伝播実験などからその正体が明らかになり、このウイルスは人にも取りつき、重症例では肝臓が破壊されて出血し、網膜炎で目をやられ、髄膜炎にかかって死んでいくこと分かった。

とくに1977~78年にナイル川沿いに発生したこの出血熱には20万人のエジプト人が感染し、600人が死んだと 言う。このときのリフト渓谷熱ウイルスは1970年から始まったアスワンダムの建設によって出現したという説が有力だ。

私達にとってウイルスが恐ろしいのは、それを抹殺できる特効薬がないということだ。数少ない成功例は天然痘ウイルスに対してだけ。生命がある限り、ウイルスは存在し、戦い合い、滅ぼし、滅ぼされ、共存、共生し合っていく。あらゆる生物はウイルスとかかわり合い、切っても切れない関係にある。

エボラの出現は私達人間を恐怖に陥れましたが、ウイルスの世界からすれば、ほんの少しウイルスの怖さを見せただけなのかも知れない。人間の病原体となるウイルスは百種類以上確認されているが。この数もさらに増えていくだろう。

しかし、突然に新しいウイルスが出現したわけではなく、極端な話、古くからひっそりと生きてきたウイルスの生態系に、人間の方から侵入した結果に過ぎず、原因は人間の側にあるのです。急速に地球環境を変えている人類にとって、未知のウイルスに遭遇する可能性はますます高くなっている。(石川誠男随筆集)

写真:エボラウイルス http://phil.cdc.gov/phil/details.asp?pid=10816 エボラ出血熱流行地域 http://www.cdc.gov/vhf/ebola/resources/distribution-map-guinea-outbreak.html

※この記事はガジェ通ウェブライターの「なみたかし」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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