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LINE乗っ取り犯の「整理日本語言.txt」に見る「母語の干渉」(違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ)
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LINE乗っ取り犯の「整理日本語言.txt」に見る「母語の干渉」(違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ)

2014-09-05 14:30
    LINE乗っ取り犯の「整理日本語言.txt」に見る「母語の干渉」

    今回はブログ『違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ』からご寄稿いただきました。

    ■LINE乗っ取り犯の「整理日本語言.txt」に見る「母語の干渉」
    LINEのアカウントを乗っ取り、その知人に金券カードを買わせるという詐欺行為が頻発している。その乗っ取り行為を行っている犯人は中国語圏出身者であるというが、その「台本」が誤って送られてきたという記事があった。

    「まさかの誤爆!LINE乗っ取り犯が“台本”を送信、その全文を公開」 2014年08月21日 『週アスPLUS』

    http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/248/248753/

    その文字起こしをした方もいる。

    「週刊アスキーが報じたLINE乗っ取り台本「整理日本語言(1).txt」の文字起こしと分類をしてみた。」 2014年08月21日 『piyolog』

    http://d.hatena.ne.jp/Kango/20140821/1408608223

    日本語教師としては、この不自然な日本語訳に、日々接している中国人留学生の誤用と共通するものを見る。(※もちろん、私の接している中国人留学生たちを犯人扱いする気は毛頭ないどころか、このような悪事とは無関係であると信ずる。たまたまLINE乗っ取り犯と彼らの母語が一致しただけのことであって、「これだから中国人は……」というような悪しき一般化を行ってはならないことは言うまでもない。)

    以下、あくまでも言語的、日本語教育的な観点での分析である。

    ●「手伝って」
    ・ 忙しいですか?手伝ってもらってもいいですか?
    ・ ちょっと手伝ってもらえますか?
    ・ 買い物手伝ってくれませんか?
    ・ 近くのコンビニエンスストアでiTunesカードを買うのを手伝ってくれないの ?
    ・ 携帯が壊れちゃったので、ちょっと手伝ってくれませんか?今いけないからです
    ・ 間違わないです、君に手伝ってもらいたいですけど、お願いします、すごく急いですから
    ・ 私は転売したら、少し儲かります。だから手伝ってほしいです。

    中国語母語話者に限らず、「手伝う」や「助ける」の誤用は多いが、特に中国語の「帮助」という動詞をそのまま日本語で言おうとすると、この種の誤りになる。「帮助」は手助けだけでなく、「協力」や「支援」といったニュアンスも含まれる。それをすべて「手伝う」に置き換えてしまうと、誤りとなる。

    日本語の「手伝う」には、「一緒に作業をする」というニュアンスがある。「近くのコンビニエンスストアでiTunesカードを買うのを手伝って」と言われたら、「カードの買い方(もしくはカードの所在)がよくわからないので、一緒に来て、一緒に買って」と依頼されたように受け取るのが日本語母語話者の感覚である。「宿題を手伝う」といったら、結果的にほとんどこちらがやることになるかもしれないが、主体は相手である。

    つまり、「手伝う」というのは、相手が作業の主体であるが、そこに補助的に参加して一部を分担するという状況である。であるから、日本語母語話者は「今いけないから」→「手伝ってくれませんか」という発話をすることはない。自分が行けないのに「手伝ってもらう」ということはありえず、「代わりに買いに行ってもらう」ということになる。

    そもそも、買い物を手伝ってもらうこと自体、ほとんどない。あるとしたら、ファッション音痴だから服をえらぶのを手伝ってもらうとか、買った物を運ぶのも難しいお年寄りの買い物に付き添っていくときとか、くらいだろう。買い物(狭義には、レジに購入したいものを持っていって、財布からお金なりクレジットカードを取り出して支払う作業)に他人の援助を要する人は限られている。だから、「私の代わりにコンビニで金券を買ってきて」という状況で「手伝って」と言ってしまうこと自体、非母語話者であることを表明しているといえる。

    ただし、最後の一例のみは例外だ。「私は転売したら、少し儲かります。だから手伝ってほしいです。」、これは文章的にはOKだ。つまり、「わたしの金儲けを手伝ってほしい」=「コンビニで金券を買うという作業の部分だけ分担してほしい」ということで、それならわかる。文としてはOKである。しかし、親しい間柄でこういう発話をすることはない。いくら親しい知人や同僚であっても、「転売したら私が少し儲かるから、君はそれを手伝え」というのはいくらなんでも図々しい。手伝ったメリットが何もないではないか。それを言ってしまえば、LINE乗っ取り犯の収益モデルである「金券を買わせる」プロセス自体にストーリー上の無理があるということになるのだが。

    ●「もらいます」
    ・ セブンイレブンにWMカードを買ってもらいませんか
    ・ もう一枚買ってもらいませんか。
    ・ 買ったら後ろのパスワードを刷り落として写真を撮ってもらいます。
    ・ 買ったら後ろのパスワードを擦り落として写真を撮ってもらいます。
    ・ もうちょっと買ってもいい?

    「もらいます」「もらいませんか」という表現、およびその不足表現をまとめてみた。

    前二つの「もらいませんか」は、「もらえませんか」でなければならない。相手が自分のためにしてくれることが可能かどうかを尋ねることによって相手への敬意を示すパターンだからである。

    「もらいませんか」では、発話者もともに別の第三者からなにかを「してもらわないか?」と誘っていることになってしまう。兄弟の会話で「お父さんに仮面ライダーカード買ってもらったよ!」「あー、それもう一つペアがあるやつじゃん。もう一枚買ってもらわない?」「買ってもらおう!」なら可。もちろん、相手への直接の依頼としては不可である。最初の例では助詞の間違いもあって、セブンイレブンがWMカードを買い取ってくれるかのような表現になっている。このような表現を見た瞬間に、相手の日本語能力の不足に気付くべきであると思う。

    二つの「~てもらいます」は、日本語母語話者なら「写真を撮ってもらえませんか」もしくは「撮ってください」になるはずだ。「てもらえませんか」は上述と同じ。このように「~てもらいます」は、たとえば工場で作業員に対する指示のような、絶対的上下関係のもと、それをするのが当然の仕事だという場合でなければ使えない。

    「~てもらいます」はポライトネス(丁寧さのレベル)の誤りということもできる。このグループに属する誤用としては、「近くのコンビニエンスストアでiTunesカードを買うのを手伝ってくれないの?」「お金まだ払わないのか?」も挙げられる。いずれも、友人だとしても押しつけがましい、失礼な言い方となる(前者は親子や夫婦レベルの親しさでないと難しい)。

    最後の「もうちょっと買ってもいい?」は、「もうちょっと買ってもらってもいい?」と言うべきである。「もうちょっと買うこと」を(あなたにお願いしても)「いい」?という気持ちのときに、このように単純に「買っていい?」にしてしまい、「もらう」を落としてしまう誤りは、非母語話者によく見かける。

    動詞の可能形を正確に使いこなすのは、実のところ、中級でも難しいレベルである。

    ●「てもいい」「といい」「ばいい」
    ・ コンビニにカードで支払ってもいいです。
    ・ コンビニのレジでお金を払うといい。
    ・ わからないなら、店員さんに聞かればわかります。

    いずれも不自然。

    もちろん、コンビニでの支払いの際に「カードで支払ってもいい」という事実はある。しかし、そんな一般的事実を今教えてもらう必要はない。お金がないなら、コンビニではカードも使えますよ、とか、今持ち合わせがなければカードでも買えますよ、というのなら自然な発話となる。この場合の「てもいい」は「コンビニにカードで支払う」ことが認められている、という全体にかかってしまう。最も簡潔な言い方では「カードでも買えますよ」だろう。

    二つめの例文はそもそも、カードの買い方について「コンビニのレジでお金を払う」というごく基本的な情報が必要な世間知らずの日本人はたとえ自宅警備員でもいないはず、という点が最大のツッコミどころである。「特別なお店じゃなくてコンビニでも買えますよ」と言いたいのだろう。

    ただ、これを「コンビニで買うといい」に変えたところで、不自然である。これは日本語教育の現場でも難題として扱われている「と」「ば」「たら」「なら」の違いにも関連してくる。(基本的な分析は、東京外国語大学による説明:日本語 文法 条件:解説*1を参照)

    *1:「文法モジュール」 『東京外国語大学言語モジュール』
    http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ja/gmod/contents/explanation/083.html

    「(Sするには)Vするといい」:相手がSを成功させるための方策を何も知らないとき、VすればSが可能になるという新たな情報を相手に提示する。

    「(Sするには)Vすればいい」:相手がSを成功させるための方策としておそらくVも含めていくつか候補に挙がっている。その迷っている中でVが最適であると提示する。あるいは、いろいろやってきたことに対して、Vによって最終的に解決される(あとはVだけ)という状況も想定される。

    「そんなカードどこで売ってるの?アップルストアももう閉まってるよ」「近所のコンビニで買えばいい(それで手に入る)」という会話は自然だ。「~ばいい」は「~だけでOK」という含みがある。そして、「カードを買って」と依頼している人の発話としては、「コンビニで買うだけでいいんだからお願い」と言えるわけである。

    しかし、「近所のコンビニで買うといい」という発話が答えになるとすれば、どんな質問が想定できるだろうか。依頼されていることをしたい場合は不可だ。自分自身が買いたいけれども、どこで買ったらいいかわからない、というときでないと不自然になる。つまり、「iTunesカードを(私自身のために)買いたいんだけど、売ってるところがわからない」「コンビニで買うといいよ」という会話なら成立する。「といい」は、相手への教示だが、教示のみのレベルであって、相手に行動を強要しない。「あの角を右へ曲がると郵便局がありますよ」と事実を教えるが、曲がれとは言っていない。「あの角を右へ曲がれば」なら、「ずっと歩いてきただろうけど、あとはそこを曲がるだけだから、曲がってくださいね」というように、多少の行動強制力が発生すると思われる。つまり、「コンビニで買うといいよ」であれば、聞き手は「へえ、そうなんだ」と知識を増やすことにはなるが、では買いに行こう、という行動には直接はつながらない。とすれば、「買いに行ってください」という行動指示の文脈で「といい」は弱すぎる(したがって母語話者には不自然に感じられる)ということになる。

    最後の例文は、「ば」を選んでいるという点では多少よい。しかし、「聞かれば」ではなく「聞けば」であるべきだという点で、接続の誤りということになる。

    初級の文法ではあるが、ここは難しいところである。

    ●アスペクトの誤り
    ・ お金まだ払わないのか?
    ・ いま買うために出かけますか

    時制ではなくアスペクト、つまり行動が始まっていないのか、いま行っているところなのか、終わったのか、という表現は、上級になっても適切に表現するのは難しいところである。「まだ払っていないのか」「今出かけ(ようとしてい)るところですか」 とすべきところを、単純にアスペクトを含まない表現で述べてしまっている。初級前半であれば「まだ払いません」「いま出かけますか」という単純化された表現も確かに教室で使うことがあるが、このような場合にはアスペクトを含めるべきである。

    ●語彙選択ミス
    ・ 貯蓄に使います。
    ・ いい消息を教えるよ
    ・ 無事なんです。

    ×貯蓄に使います → ○貯金します

    ×いい消息 → ○いい情報

    ×無事なんです → ○大丈夫です

    「消息」は中国語母語話者に見られる誤用である。他は母語によらず見られる誤用である。

    ●「んです」
    以上のように、これらの例を見れば「おそらく中国語母語話者だな」と思われる誤用が多数見られるのだが、一方で事情を説明するための「んです」表現は結構よくできていると思われる。

    ・ セブンイレブンで買えるんです。
    ・ 友達からの頼みなんです。
    ・ 今必要なんですが

    ただ、使いすぎの場面がある。「んです」は理由を述べる表現だ、とだけ覚えていると、以下のような濫用をしてしまう。これは母語によらず見られる誤用だ。

    ・ 急用なんですが、早めに渡してほしいです。お願い。。。
    ・ 親友なんです。

    一つめの例は 「急用なので/急用だから」とすべきである。「背景事情を打ち明ける」という枠をこえて、「早めに渡してほしい」理由を述べる場合は、明確に理由を示す「ので/から」を使うべきである(この場合は「ので」の方が適切であろう。その説明は今回は省略)。

    二つめの例は「親友なんだからお願いします」くらいまでいけばOKだが、「親友なんです」と事情説明されても困ってしまう(そんなことはすでにわかってるから)。こういう場合、日本語母語話者は「親友でしょ?」「親友じゃないか」と言ってくるはず。

    以上、日本語教師としての視点で、中国語母語話者(もしくは非日本語母語話者)によく見られる誤用がLINE乗っ取り犯の誤用例に多く見られることを示した。

    ●9/3追記。
    ブックマークコメントで、この記事によって乗っ取り犯たちの日本語をブラッシュアップしてしまっているのではないか、という趣旨の発言がいくつかあった。しかし、ここで示したくらいの説明で改善できるならこんな楽な仕事はない。理解できるのと、練習して適切な文を産出できるようになるというのはかなりのレベル差がある。

    なお、「親友でしょ?」「親友じゃないか」と言ってくるような奴は親友じゃない、というコメントについては、まったくそのとおり。「親友だからお願いします」と言うことが受け入れられる社会か否かという背景もここには存在している。日本語教師は表面的な言葉だけ教えているのではなく、日本語母語話者が潜在的に持っている思考回路も教えているということになる。

    執筆: この記事はブログ『違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2014年09月05日時点のものです。

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