今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
■続・善悪の誕生(メカAG)
囚人のジレンマは2人がそれぞれ2つの選択肢を持っているから、トータルで4つの組み合わせがある。このうち2つは一見ゼロ和ゲームに似ている。「協調-裏切り」「裏切り-協調」の組み合わせ。一方の利益が他方の損害になっている。残り2つは「協調-協調」と「裏切り-裏切り」で前者はどちらも利益を得るし、後者はどちらも損害をこうむる。
この非ゼロ和ゲームの一部がゼロ和ゲームに見えることから、この部分だけがゲーム(争い)と錯覚する人もいるだろう。ゼロ和ゲームこそがゲームと思っている人たちにはそう見える。つまり「協調-協調」の組み合わせや「裏切り-裏切り」の組み合わせはゲームではない、と。
「争いは不毛」という経験則はここから導き出される。ゼロ和ゲームはその名の通り2人の合計の利益は増えない。あくまで取り合っているだけだ。一方「協調-協調」は双方が利益を得る。すなわち全体の利益が増える。Win-Win(笑)。「裏切り-裏切り」は誰も得しないケースで、これは「欲を出すとろくなことがない」とう経験則につながる。
でも、それはあくまで非ゼロ和ゲームの一部を見ているからであって、広い意味で見れば、やっぱ「協調-協調」もゲームに参加しているのだよね。人間はあまりにゼロ和ゲームに馴染みすぎて、ゼロ和ゲームだけがゲームと思い込んでいるから生じる錯覚。身も蓋もないけど「争いは何も生まない」は錯覚なのだ。
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協調し合えば互いに得になるというのは、間違いではないし安定をもたらす。しかしこの安定が曲者。これはあくまで現状を変えないということ。
たとえば企業城下町。大企業の工場があり、街の住民は大なり小なりその工場に関連した仕事をしている。この場合工場に協力するのが自分の利益を最大化する選択肢。ひねくれ者が「ふん、俺は奴らの思い通りにならないぜ」とか言っても、自分が損をするだけ。
工場に協力すれば工場も協力を選択するからお互いの利益になる。工場に逆らって裏切れば、工場も報復して裏切りを選択する。お互い損害をこうむるけど工場の方が耐久力があるから、根比べでは弱者はかなわない。かくて永遠に工場を中心とした社会が続く。これはこれで大事。産業の発達には安定性が必要。
でも非ゼロ和ゲームは、ひねくれ者が勝つ可能性を認めているのだよね。工場を出し抜けば勝者になれる。ただし一瞬だけで、次から工場は報復してくるから、そこを考えないといけない。囚人のジレンマに必勝戦略がないということは、うまくすれば工場を手玉に取って勝ち続けることもありえないことじゃない。
昭和のドラマとかそういうのが多かったと思うんだよね。公害を垂れ流し政治家と癒着した巨大企業。ふんぞり返ってタバコをプカプカ付加している社長。困っている住民の味方としてどこからか現れた若者が、策略をめぐらし社長をギャフンと言わせる痛快なストーリー。下克上が許される非ゼロ和ゲームならではだ。
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どうも戦後教育の影響なのか、ゼロ和ゲームこそ、正々堂々としたフェアなゲームであり、上記のような相手を騙して出し抜くゲーム(非ゼロ和ゲーム)は、忌むべきものという風潮が広がってしまった。
大衆向けに人気のある物語って、弱者が知恵と機転を効かせて強者に勝利するストーリーが人気のはずなんだけどね。ヤマタノオロチ退治とか、みんなだまし討だよね(笑)。現代は子供向けの物語も、そういう「汚い手段」(人質を取るとか、約束を反故にするとか)はもっぱら悪人が使うものになってしまった。悪人の方が知恵を絞ってるわけで、面白さを生み出してる主体という意味では、実質的に悪人が主役みたいなものだけど。
「フェアな戦いが正義」とか「戦いよりも協調を」とかって、為政者(強者)に都合のいい価値観だと思うんだけどね。なんかマンガとかでも「フェアな戦いなら正義が勝つ」みたいな風潮だけど、そんなことはないだろう(笑)。パラダイムシフトのように「変化」が強制される状況では、勝ち残ったものが正しい(新しい価値観)となるだろうけど。
よく「日本人はパラダイムシフトやイノベーションを起こせない」を嘆いている人は、原因がどこにあるか考えた方がいい。ベンチャーの社長とかが「Win-Winを目指します」とかいうけれど、どこかで既存の産業と戦って勝たなければならないわけで、そっちが本番の戦いなんだけどね。Win-Winはその本番で勝利する戦略の一部でしかない。嘘をついてはいないにしても、すべてを語ってもいない。
関連記事:
「善悪の誕生」 2014年08年13日 『メカAG』
http://mechag.asks.jp/847944.html
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年09月11日時点のものです。
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