世紀末である。
――いや西暦2000年から10数年経過はしたが、我々はいまだ世紀末に生きている、と言っても過言ではない。社会は不安にあふれ、生きることに慎重にならざるをえない。
我々が生きるために必要なものは何だろう。金か?信頼か?あふれるばかりの安心感を手に入れるのにどれだけの対価を支払えばいいのか。
「すべての答えを握っている」と紹介された男に会うべく、ガジェット通信取材班は六本木『ザ・リッツ・カールトン東京』の1室へ向かった。
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●人であり、人ではない存在
はたして、ドアの向こうに鎮座していたのはサル……?いや類人猿というか原始人のような男だった。
男は流暢(りゅうちょう)に語り始めた。
「ヅゥビッチャ!アブドゥドゥドゥ!ゲー!ゲー!」
しまった、と思った。
後悔しながらも、取材班は言葉を投げかける。「あのですね、保険に詳しい、とお伺いしたのですが……」
「デュボッチ!」「メセルヤデッ。シェー!」
意味不明の言葉をつぶやきながら、男は取材班のiPhoneや雑誌を手に取ったりしている。ダメだ。落ち着きなく部屋を歩き回り、ベッドにもぐっては「ギョー!ギョー!」と叫んだりしている。完全に動物だった。
「デ?」
落胆した我々が、視線を声の方向に戻した時、彼はこちらをじっ、と見つめていた。あれ、理解できてるのかな?と思いながら再度、質問を投げかける。
「保険の事について、教えていただきたいのです」我々がこう続けると、男はしばらく考えたのちに口を開いた。
「ウェッウェッ」「トンデモネーヨー。ウェッ。備エ有レバ何トヤラ」
あれ?なんだか日本語みたいな返答が?!と思うのもつかの間、服を脱ぎはじめた。まずいことになった。
「一口に……マー、ソノー……保険ト言いまシても」男の口調がやや滑らかになってきていることに我々が気づくまで、大した時間はかからなかった。
●覚醒
「家族のタメに入る保険、そシて、自分のたメに入る保険……」目を見開きながら、男は叫ぶ。
「生きるリスク!ソシテ!自分が生きるタメに!使う!保険!」
見る見るうちに姿を変える男。もはやその姿は原始人ではなく、ちょっと危なめの一般人?へとメタモルフォーゼしていた。
「今ァ、保険商品というのは950種類以上アルんですヨっ」
あっけにとられる取材班を尻目に、男はかまわず話し続ける。
「そんなに多くの保険の中から、自分にとって適切な商品を選ぶ、というのはプロでも難しいデスッ。ましてや、素人の方であればなおさらだと思いますヨっ」
さっきまで叫んでいた男は、どこへ行ったのか。遠くを見ながら、男は説明を続ける。
「あなただったら、保険を選ぶときどうしますカッ?」不意の質問に、戸惑うスタッフ。
「ええと……やっぱり保険屋さん(外交員)が来るのを待つか……町の(保険)無料相談所とか…でしょうか」
にっこりと笑って原始人だった男は答える。
「ですよネ。今までであれば、そうせざるを得なかったと思いまス」
●まさかの新機軸
スタッフの一人が質問を投げかける。「ただ、保険の見積もりとか取ったことあるんですが、勧誘の電話がウザくて、やめたことあるんですよ」
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」突然叫びだした男。部屋が緊張に包まれる。泣きそうだ。我々が。
「そうッ!まさにその通りッ」目を見開いて、男は続ける。
「今までの保険における契約までのやり取りだと、どうしても個人情報を交わしたうえでの勧誘、そして契約、という流れは避けられないのですッ」
男は変わらずものすごい気迫で語る。
「正直なところ、保険の無料相談所にも、店舗によって紹介する保険商品に差が出まス。これは保険会社別のマージン料の差であったり、その時に行われているキャンペーンによったり、と様々なのですッ」
は、はあ、と勢いに押されるスタッフ。
「今までは“保険商品”で比較していたのを、“保険の代理店”で比較できないかな、というのを考えていたのデス。」
「また、お客さんの個人情報を代理店に渡さず、適切なアドバイスを無料でもらう、という形を作りたいと思っていました」
●ホモ・サピエンスが語る「ホケ・サピエンス」
「いやあ、あんな恰好お見せしておきながらこう言うのもなんですが『ホケ・サピエンス』というサービスを作ったんですヨ」
「ユーザーの方は『ホケ・サピエンス』に登録することで、匿名で多数の代理店から無料で提案を受けることが出来ます。匿名なので勧誘電話などはもちろんありません」
作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?――ようやく我々にも話を伺うゆとりが出てきた。
「実は私自身、保険の営業に携わっていたんです。当時、ずっと疑問に思っていた事が発想の元ですネ」
――たとえばどんな?
「保険って、売り続けないといけないんですけど1日の7~8割を新規開拓に費やします。すごいでしょ」穏やかに男性は続ける。
「さらに残りの2割は既存のお客様の相談、そして残りの時間はリサーチや勉強に充てなければいけませン」
――かなり、過酷ですね。
「これがもし、匿名でも問い合わせが来るような形になれば、売る側のリソースをも節約することが可能になるのです」
――ユーザー、代理店双方にメリットがあるというわけですね。
「こうしたことで、代理店の質が結果的に上がると良いな、とも思っていました」
――話しながら“ろくろ”を回すこの人物に、もはや原始人の面影はなかった。
「じゃ、そろそろ」腰を上げる男性。
――お名前を伺っていませんでしたね。
「お別れで名乗るというのも変ですね(笑)。米津と言います。サイトのキャラクターも私が描いたんですよ。よろしかったら見てみてくださいね」
――はい、ありがとうございました。
「『ホケ・サピエンス』をよろしく。無料で登録できますので」
そう言い残すと、米津氏は部屋を去って行った。その場からしばらく動けないままのスタッフの背には、高層階の日差しが強く差し込んでいた。
●関連サイト
HOKEn SAPIENS ホケ・サピエンス
https://www.hoken-sapiens.com/
※本記事は、取材を元にした本当のような文章です。
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