by 高森明勅

今日の産経新聞一面トップに 「皇室典範改正を断念/女性宮家創設に慎重論/女系天皇 懸念強く」 との記事が載った。 思わず我が目を疑った。 これだけは政略、政局に拘わりなく、 粛々と進めなければならない喫緊の重大事ではないか。 何たること! 男系が“絶対の価値”でないことは、 皇室典範改正を巡るスタンスの違いを越えて、 この問題に心を寄せる者の大方の共通理解のはずだ。 それは、次のような発言からも明らかだろう。 「万策尽きた場合には女性天皇も女系天皇もやむを得ない」 (八木秀次氏『本当に女帝を認めてもいいのか』)、 「万一の場合には、皇統を守るために、 女帝さらに女系の選択ということもあり得る」 (百地章氏『憲法の常識 常識の憲法』)。 しかも、ここ数年のうちに女性宮家(もちろん世襲) を創設しなければ、「万策尽きた」「万一の場合」 に全く対応出来なくなる。 だからこそ、典範の改正が緊急の課題として浮上したというのが、 真相だ。 にも拘らず、一代限りの女性宮家とか、 尊称だけの内親王といったナンセンスな議論で迷走し、 ついに暗礁に乗り上げてしまった。 そもそも側室不在の状況下、男系限定に拘泥すれば、 皇室の存続そのものが危うくなるのは、自明だ。 男系と共に女系も機能し得る「双系」継承が、 我が国の神話、歴史、文明に照らして、 何ら支障がないばかりか、むしろシナ文明の影響を脱した、 より「日本らしい」姿であることは、繰り返し強調してきた。 憲法上の疑義が生じないことも、政府の公権解釈に照らして、 明らかだ。 だが、国民全体からすればごく一握りに過ぎない男系派は、 ひたすら自らの予断と偏見に固執し、 危機打開のための現実的、具体的で説得力のある対案を一切、 提示出来ないまま、執拗に女性宮家創設への妨害を行った。 弱体化した野田政権はそれに怯え、 例によって問題の先送りを決め込んでしまった。 だが事態は、 もはや先送りを許さないところまで差し迫っていることに 気づかねばならない。 皇室典範の改正は、皇室の存続を図るために、 避けて通ることの出来ない国家の一大事だ。 にも拘らず、政治の怠慢で今日まで先送りされてきた。 時間が経てば経つほど、危機の克服は困難になる。 陛下のご心痛の最も深刻なものが、 他ならぬ皇統の問題であることは、 つとに洩れ承っているところ。 政治はそのご憂念を晴らす責任があるはずだ。 典範改正の断念は、その責任を投げ捨てる行為に他ならない。 次の政権は、責任を持って女性宮家の創設を決断出来る指導者が、 首相にならねばならない。 もちろん、その為にはとてつもない勇気が必要だろう。 だが、この決断が出来なければ、 皇室を潰す自覚もなく、潰す下拵えをしてしまうことになる。 今回、尊称だけの内親王という誤魔化しプランで 事態を糊塗しなかったのは、 「身分」制の導入を避ける当然の対応だが、 問題が僅かでも改善されたかのごとき錯覚を与えないためにも、 これ自体は良いことだった。 問題は全く手付かずで、まるごと残されているのだ。 この問題の解決なしに、日本の未来はないと断言出来る。 我が国に、リアルな想像力と危機感を持った政治家はいないのか。 陛下のご心痛を少しでもやわらげて差し上げるべきだという、 まともな感性を持つ政治家はいないのか。